彦四郎の中国生活

中国滞在記

福原愛の離婚?報道―中・台・日での報道に差異―小愛を支持する中国人、中国・台湾対立も影響か

2021-03-08 10:43:47 | 滞在記

 3月に入り、元卓球日本代表の福原愛さんと、元卓球台湾代表(チャイニーズ・タイペイ)の夫・江宏傑さんとの夫婦関係の亀裂に関する報道が、台湾だけでなく、中国、日本でも過熱している。週刊文春の最新号では、「福原愛離婚 全真相―モラハラ"台湾"夫とモンスター家族」と題した特集記事が組まれていた。

   また、週刊セブンの最新号では「福原愛 台湾に夫も子も残して 里帰り不倫」と題した特集記事が組まれていた。それぞれの週刊誌の記事を読むと、週刊文春の記事は「夫と彼の家族のモラハラ(モラルハラスメント―言葉や態度によるハラスメント)のこと」が中心に書かれていた。週刊女性セブンの記事は、「妻である福原愛さんの不倫疑惑のこと、夫とその家族のモラハラのこと、福原愛さんの両親のこと」が書かれていた。それによると、愛さんの両親は離婚していて、すでに父は死去、母親は愛さんと共に台湾で暮らしているが車椅子を必要ともする身体状況とも書かれていた。

 夫婦間の問題は、その当事者にしかわからないことが多く、他者が論評してもその深い真相を理解することはなかなか難しい。2016年の結婚当初「格差婚」とも言われた二人。福原愛さんの卓球ランキングは当時は世界9位であったが、江さんの方は世界79位だった。年収的にも大きな隔たりがあり、江さんの方は350万円ほど、一方の愛さんの方は何千万円もの年収だったようだ。週刊誌の報道記事で、福原愛さんの方の心理・気持ちについてはかなり分かったし、もし報道されているモラハラが事実とすれば、日本での不倫疑惑行動も理解できないわけではない。しかし、夫である江さんの方の心理・気持ちについて報道されていることはまだ少ない。

 二人のまだ幼い子ども(女児4歳・男児2歳)に恵まれたが、子供のこと、愛さんの母親のこと、夫とのことなどなど、結婚生活を続けるか離婚するのか、なかなか難しい問題だが、愛さんの方は離婚を決意しているとも報道されている。

 3月に入ってからのこの1週間あまり、日本でも台湾でも中国でも、インターネット記事のトップニュースとしてこの福原愛さんの夫婦問題、モラハラ問題、不倫疑惑問題が、連日紙面に掲載されている。中国の各種ネット記事でもこの1週間、トップ記事だ。週刊文春の記事を部分的にそのまま中国語に翻訳して掲載している記事もあった。

 福原愛さんは、中国の通信アプリ「微博(ウイチャット・ウエボウ)」では500万人のフォロアーをもつと言われ、今でも高い人気をもっている。中国の各種インターネット記事での、読者の投稿には次のようなものがあった。

 「離婚しようが、しまいが、我々は愛ちゃんを応援するのみだ!」「愛ちゃんが、無名だった台湾夫にいじめられて、ひどい目に遭っている!」「愛ちゃん、あなたは謝る必要なんかないよ!」「終わったな。江宏傑さん。ご愁傷様!」「報じられている夫とその家族からのモラハラが事実だとしたら、私だったら耐えられない!」「男の方に問題があるから不倫したんだろう!」「愛ちゃん、あんなヒモ男とはさっさと別れた方がいいよ!」

 「夫にはすでに離婚の意志を伝えてあるんだから、裏切りにはならない。気持ちの上ではもう別れているんだから、恋人を作ってもいいだろう!」「これが過ちだとしたら、彼女は全世界の女性が犯す過ちを犯したにすぎない。別にどうってことはない!」「中国はいつでもあなたの故郷だよ」「子供と一緒に中国においで!」「「ずいぶん堂々と撮られているし、本当に不倫なのかな?」「ベイビー、このままでいいんだよ。むりせずに中国に帰っておいで」「幸せじゃなければ、結婚なんてやめてしまえばいいんだよ」「あの台湾野郎め!」「お前は愛ちゃんに値しない男だ!」「俺たちの愛ちゃんを罵ったその口をつぶしてやる!」などなど。

 福原愛さんに関する、3月3日に配信されたNEWSポストセブン記事は、中国では、「#福原愛回応与男子密会(男性とのデートについての福原愛の反応・釈明コメント)」というハッシュタグが付けられ、一夜にして閲覧回数7億回を突破したと伝えられる。一時、中国版ツイッター「微博」のホットランキングで1位となり、14億人の中国人の間でも相当の大きな話題となっていることが伺える。

 しかし、日本や台湾では福原愛さんに対しての厳しい批判の声も少なくはない。例えば、台湾では、「これまでの彼女の笑顔にすっかり騙されていた。魔性の女だったとは‥‥!」「なんか裏切られた気分だな!」「母親や子供を台湾の夫に預けて不倫とは‥」「家電のCMに出る資格なんてないわ!」など、夫の江さんよりも福原愛に対するパッシングの方が多いと伝えられている。日本では、福原愛に対する同情の方が強いようだが、「子供を預けての不倫報道」を受けて、福原愛さんに対する、「そりゃまずいだろう」という見方も多いようだ。

 福原愛さんが以前から中国でも人気が高いことは、日本でも知られていたが、それにしても、今回の報道の反応により、改めて、中国での「盲目的」と言ってもいいような、日本や台湾で彼女が厳しい立場に置かれていることに憤りを感じ、むしろ「自分たち中国人だけは、何があっても愛ちゃんを応援するから!」といった"全面支援"の論調、それはなぜだろうか? そこには、彼女の中国での存在感、そして卓球王国・中国との関係がある。

 彼女は今でも中国人にとっては「小愛(シャオ・アイ)=愛ちゃん」、「人民の妹妹」なのだ。さらには、台湾と中国との政治的緊張関係の激化がここ6年以上にわたって高まっていることもその背景にあるかと思われる。その愛ちゃんの幸せをだいなしにし奪っているのが、台湾人夫であり、夫の家族、特にその夫の姉や母、台湾社会であるとの憤りかと思われる。

 なぜ、「小愛」、「人民的妹妹(レンミン・ドゥ・メイメイ)」なのか。福原愛さんと中国の関係が始まったのは、彼女がまだ幼い頃からだ。報道によれば、彼女の兄(10歳年上)が最初に卓球を始めたが、兄のコーチが中国人だったので、愛ちゃんにとっても中国人は身近だった。彼女が初めて中国に渡ったのは6歳の時だった。

 2005年、17歳の時に中国卓球超級リーグの中国東北部の遼寧省チームに入団したことは、日本でも報道されたことがあった。中国卓球超級リーグといえば、日本の「プロ野球」のようなもので、中国では憧れのリーグ・スポーツだ。いや、今の日本のプロ野球人気の比ではない。10倍くらいの憧れのリーグとも言える。福原愛さんは、外国人でありながらチームのメンバーたちと寝食をともにし、東北訛りの中国語をほぼ完璧にマスターし、チームに溶け込んだ。これにより、彼女は中国人から、身内のように受け止められ、受け入れられたのだ。「まるで自分の妹のような」同じ目線で受け止められたただ一人の有名日本人となった。

 流暢だが中国東北地方の田舎訛りのある中国語を話す愛さんへの中国人の親近感は半端なく、あの可愛らしいお人形のような顔と笑顔、時には泣き虫となる、そして福原愛というなにかとても中国人にとっても愛でたい名前。中国人にとって、身内である特別な日本人となった。

 さらに、福原愛さんを、中国人に深い印象を残したテレビ番組があるようだ。超級リーグに入った17歳の頃に出演した、中国のCCTV(中国中央電視台・日本のNHKのようなテレビ局)の名物番組「面対面」だ。この名物番組は今でも続いていて、私も中国で何度もみているが、とても有名な番組だ。

 この番組の中で、「福原さんは、自身が受けた卓球のスパルタ教育や、中国のチームの印象などについて率直に語っているのだが、その際、複雑な家族関係や、彼女が経済的に一家を支えているか?といった難しい質問が飛び、"そんな難しいことを私に聞かないで。今、私の財布には15元(300円)しか入っていません‥"と言いながら、涙を流したことがあった。これは一部、日本でも報道されたが、中国人にとっても強烈な印象を残し、これを機に、彼女に共感する人が増えた」ともされている。

 福原愛さんは、日本人にとっても、幼いころからメディアで見てきた「泣き虫愛ちゃん」イメージが強く残っているが、中国人にとっては、子どもの時から、日本から中国に来てくれ、見続けて来た可愛い妹、可愛い娘のイメージが強く残っている人なのだ。そして、もう一つ、中国人が福原愛さんを強烈に、何があっても支持する理由はとして、他のスポーツではなく、卓球の選手だった、という点にある。

 中国人にとって、卓球は特別なスポーツだ。「中国の国球(国の球技)」となり、現在の競技人口は約3000万人と言われる。私もアパート近くにある、かって勤めていた福建師範大学の体育館の貸し卓球コーナーで、時々、卓球をしている親子たち(子供は小学の低学年・中学年の年齢が多い)のようすを見ているが、それはまさに、遊びではなく、スパルタ練習の光景。あの愛ちゃんの母が幼い愛ちゃんと練習した光景そのものだ。

 2008年、中国の胡錦濤国家主席が来日した際、早稲田大学で講演を行い、その後、福原さんと卓球の交流試合をしたことがあった。そこで、胡錦濤氏は福原さんに、「あなたは私のことを知らないかもしれないが、私はあなたのことをよく知っていますよ」と話しかけたのは有名なエピソード。

 日本・台湾・中国で大きく知られている福原愛さんは、これからどんな選択をするのだろうか。

◆福原愛さんは、1988年生まれの現在32歳。兄は10歳年上で日本在住。母は現在70歳。父は不動産業を営んでいたが、1億4000万円の負債を抱え、その借金が愛さんや兄に及ばないようにすることもあり、2008年頃に母親協議離婚。愛さんとの親子関係や音信もそのころからなくなったようだ。2013年にガンで亡くなっている。享年71歳だった。母親は昨年の2020年から腰の問題からこの1年間あまり車椅子が必要な生活となっているようだ。福原愛さんの人生もいろいろ苦労も多く、これまでも大変だったかのかと改めて知った。

◆週刊文春の記事では、夫の母親が愛さんに対して、「あなたは金の卵よ」と言ったことに、愛さんが相当なショックを受けたことも書かれていた。だが、中華圏の家族関係では、何よりも親族・家族での経済的な相互扶助が重要視される社会。家族や親族の誰かが経済的に成功した場合、他の家族や親しい親族を助けるというのが重要な価値観となっている社会である。日本人がこの記事を読むと驚くが、中華圏では特別に驚くべきことではないかと思う。

※前前号のブログ記事で、尾形光琳を「安土桃山時代の絵画三大巨匠の一人」と書いてしまいましたが、間違いです。「江戸時代中期の絵画の巨匠」です。訂正します。