浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

エルナ・ベルガー/チェリビダッケによるグリエールのソプラノ協奏曲

2008年09月20日 | 歌もの
第2次大戦中に露西亜で作曲されたグリエールのコロラトゥーラ・ソプラノと管絃樂の為の協奏曲は実に悲しい美しさに満ちた秘曲である。この美しい作品を、清楚な美しい声を持つソプラノ歌手、エルナ・ベルガーの演奏で聴くことができる。

冒頭、チャイコフスキーの悲愴交響曲を強く意識したやうな絃樂の半音階上昇形の合奏により始まる。不安と悲しみにくれる世界の人々に向けたメッセージがこの第1楽章に込められてゐることを強く感じる。何故なら、グリエールの母は独逸の占領下にあるポーランドの血を引き、父は気違ひに支配された独逸の血を引き、グリエール自身はその独逸と戦う露西亜で生まれ育ったからである。島国日本國では理解できないことだが、グリエールの境遇を今風に置き換えて考えれば小学生でも分かることだ。母が日本兵に国土を踏みにじられた支那人で、父が日本人、そして僕はその両親とともに対戦中の亜米利加に住んでゐる、といふやうなものである。

短調の第1主題はオクターヴと6度の跳躍を伴うソプラノ独唱によって現れるがこれが実に美しい旋律だ。第2主題と思しき主題は管楽器に次いでソプラノ独唱で登場するが、この主題も反復進行を多用した前時代的な哀愁に満ちたものだ。

第2楽章は管楽器の華やいだ伴奏付きのワルツで、ベルガーのコロラトゥーラ・ソプラニストとしてのテクニックが聴きどころでもある。終始ヴォカーリーズで書かれた作品のため、正味、声の良さや技術の高さで人々を酔わせる力量が求められるが、さすがのベルガーでも音程があちらこちらに跳ぶ部分では少々ぎこちなさを感じるところもある。難しい曲なんだと、つくづく思ふ。

このレコヲドは作品が世に出て3年、しかも、敵国である露西亜に戦争に負けて1年しか経ってゐない1946年6月7日の伯林フィルハーモニー管絃團の録音である。指揮はフルトヴェングラー不在の穴を埋めたチェリビダッケである。

盤は、国籍不明Membran Music社によるリマスタリングCD 231885/H。


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