浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

ルイス・ケントナー まじめを絵に描いたやうなリスト

2006年09月14日 | 洋琴弾き
ルイス・ケントナーは1905年生まれの新しい時代のピアノ弾きで、ブダペストで学んだ後、第2回ショパンコンクールで5位、リストコンクールで3位、といふ成績を残した。評論屋の後押しがあり、ピアノ界で一定の地位を得る。第10回ショパンコンクールでのポゴレリッチ事件は有名であるが、そのときに審査員を辞した一人がケントナーであることはあまり知られていない。

あのときに審査を放棄したのは2名で、アルゲリッヒの方が有名だが、アルゲリッヒとケントナーは全く逆の理由で辞めていった。アルゲリッヒは「素晴らしい演奏にもかかわらず複数の審査員から最低点をつけられ、3次予選で落とされたことは承伏できない」といふ支持派だった。他方、ケントナーは、「自分の弟子全員が不合格になったのにもかかわらず、異端的解釈のポゴレリッチが2次予選に進むという結果は到底納得ができない」と言って1次予選で帰ってしまった非支持派だ。

態度が不遜、解釈が非伝統的といふことで落選させる姿勢には傲慢さが感じられる。人々を感動の渦に巻き込み、聴衆が絶賛したといふことは事実である。つまり、その場に集った人々が天才の登場に歓喜するといふ自然な営みを否定したことになる。「君たちド素人は黙ってショパン協会の導きについてきなさい」と言わんばかりだ。これをコンクールの弊害と世間は言ふ。このことは現代の魅力の無い演奏界と無関係ではない。こんなコンクールをぶち壊すといふ意味で、僕はポゴレリッチのGパンでの予選出場に拍手を送る。入選はどうでも良かったと豪語し、異例なはからいの「特別賞」にもガムを噛みながら馬鹿にした態度で表彰台に上る。こんな無作法が通る世界は芸術の世界だけだ。もう少し品格ある抵抗が欲しかった。

僕たち大阪ブーイング協会ではコンクールの弊害を訴え続けているが、ショパンコンクール上位入賞者のその後を調べると実に面白い。コンクールでの成績と、その後の世界的評価では逆転しているケースが多い。さらに、ショパンコンクール優勝者に小粒な人が多いのも愉快だ。

また、解釈が間違っているかどうかは作曲者のみ知ることである。仮に、時代の好みによって変わることを是とするならば、それは聴衆の決めることだ。間違ってもショパン協会のお歴々が決めることではない。そもそも「ショパンらしい演奏」とは何を指して言ふのか。

釣り人にもそういふことを自慢げに言ふ輩が居た。餌盗りの河豚が釣れだすと、「河豚は半径○○mの行動範囲を持っていて、そこの河豚を全部釣り上げたら・・・・」とうるさいので、「お前は河豚の親戚でもおるのか」と言ってやった。審査員にショパンを親戚に持つ人がおるのか!

[河豚の親戚]

ケントナーのリストを聴くと、ポゴレリッチ事件のことを思わずにはいられない。実にまじめくさった面白みのない演奏である。面白みと豪快なテクニックを聴かせてもらえれば僕としては満足なのだが、リストの小品から豪快なテクニックや面白みを取り除くと何も残らないではないか。

ピアノ弾きの世界で人気を博すということは、即ち過酷な人生を歩むといふことだ。ケントナーはそのことをよく知っている大先輩のはずだ。ケントナーは、その後、独奏者としてよりも、偉大な提琴家、メニューヒンやモリーニの伴奏者として成功を遂げる。賢明な選択であったと僕は思っている。その彼が、ポゴレリッチを理解せず、礼儀知らずな態度に寛容になれなかったのはどうしてなのか、大変興味がある。

いずれにせよ、ケントナー対アルゲリッヒとポゴレリッチ、因縁の対決の結果は、歴史の中で評価されるだろう。ケントナーを自分の耳でもっと確かめてみたい。

なにはともあれ、現代にも、ポゴレリッチのやうに根性のある音楽家がいることは嬉しいことである。絶滅危惧種として保護活動をせねばなるまい。


盤は、英國Appian P&R社の復刻CD APR5514。

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2 コメント

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疑問 (武田竜磨)
2011-07-03 00:55:43
Youtubeでケントナーのラストリサイタルのリストのエチュードを聴いてご覧なさい。
品位がにじみ出ていて美しい。
審査を辞するのは大人げないかもしれないが、あなたはケントナーの音楽を頭ごなしに批判できるほどのお方なのだろうか。
Unknown (webmaster)
2011-12-23 21:50:44
次回、お会いした際には、是非、ケントナーの良さを教えてください。

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