浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

ベンノ・モイセイヴィッチによるメトネルのおとぎ話

2012年10月07日 | 洋琴弾き
久しぶりにティアックのカセットデッキの具合をみるためカセットテープの棚を覗いていてモイセイヴィッチのテープを見つけた。セルとやった「皇帝」がA面に、そしてリストのハンガリアン幻想曲やメトネル、プロコフィエフ、ゴドフスキなど1920~1930年代の録音が集められたものだ。墺太利KOCH社のSP復刻。

デッキはすこぶる快調に作動し、素晴らしい音を鳴らしてゐる(とは言っても元々SP録音だ)。期待のA面の「皇帝」協奏曲はそつのない演奏だがいま二つのため、B面のリストの馬鹿騒ぎ幻想曲「ハンガリアン」を聴くことにした。しかしこれも期待した馬鹿騒ぎは起こらず、余裕ある紳士的な振る舞いが美しく、下品なものを期待してゐた僕はなにか窘められたやうな気分になって次に進んだ。

メトネルの「4つのおとぎ話」作品34番から第二番ホ短調を聴いて初めてはっと息を飲んだ。左手がこれほど美しく背景を奏でる演奏を今までに耳にしたことがなく、此の曲には喧しい印象を持ってゐた。モイセイヴィッチはフォルテになってもなお右手のシンプルで切ないホ短調のメロディを柔らかく浮き立たせて聴かせてくれる。メトネルの自作自演盤(英國Appian APR5546)に此の作品34の2番は含まれていないが、数ある「おとぎ話」でも左手はやはり激しく動き回る。しかし、自演盤の録音でも決して左手が右手の邪魔はしない。

国内の若手ピアノ弾きの演奏会で頻繁に取り上げられるメトネルはもう少し有名になってもよさそうなものだが、左手の速い動きを正確にしかも表に出さずにあくまで背景として奏でるのにはかなりの技量が必要なのだらう。言ふは易しである。モイセイヴィッチは言ふまでもないがメトネル自身も洋琴奏者として相当な腕前を持ってゐた。簡単そうに聴こえる今日のレコヲドも下手が弾くとこれまた大変な難曲に聴こえるから不思議なものだ。今日のテープの中ではメトネルが最高の出来栄えだった。

録音は1928年3月1日で、プロコフィエフの「悪魔的暗示」とカップリングされて両面盤で発売された。復刻は、マーク・オバート=ソーンによる墺太利KOCHによるカセットテープ 2-7035-4FA。

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