浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

ワルター・ギーゼキングの未発表録音集からシューマンの交響的練習曲

2008年09月20日 | 洋琴弾き
ギーゼキングのシューマンは大変興味深い演奏が多く、最初の出会いはフルトヴェングラーとの協奏曲のLP盤にまで遡る。今日、取り上げる録音も戦時中の放送録音のやうだが、常軌を逸した演奏である。

最初のテーマは重苦しい非常にゆったりとしたテンポで開始するが、第2変奏になると弾いてゐるギーゼコングの興奮が伝わって来る。第6.第8.第9変奏では、奏鳴曲の放送録音で見せたギーゼキングの荒々しさが聴ける。

列車の移動時にも鍵盤を持ち歩いて指の練習を繰り返してゐたといふギーゼキングは一般に言われるやうな即物主義でもないし、ザハリヒカイトの旗手でもない。モーツァルトやドビュッシーの演奏では粒揃いの音色で淡々と弾いてゐる。これもギーゼキングの演奏だが、感情移入の激しいシューマンやラフマニノフを弾いてゐるのも同じギーゼコングなのだ。実に変幻自在で興味の尽きない洋琴家である。

この録音は1945年1月23日に伯林で行われたもので、フルトヴェングラーがブラームスとフランクを振ってスイスに逃れたのが1月28日、独逸が無条件降伏したのが5月8日であることを考えると、尋常な精神状態の中での録音でないことが分かる。

この録音は、ルドルフ・アイゼンバッハ博士の提供による1945年放送の録音テープをもとにしたArbiterのリマスターである。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。