浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

アレクサンダー・ミハウォフスキの子犬のワルツ

2007年08月03日 | 洋琴弾き
【前回のあらすじ】
長い研修の旅の間、芋焼酎「はちまん」と、パッハマンやミハウォフスキのショパンが友達だった僕は、バニーちゃんを連れて帰って来た。アルチュウハイマーが進み、7日間の旅の記憶は無残にも消えて無くなったが、収穫は、ショパン演奏の原点ともいふべきアレクサンダー・ミハウォフスキの演奏を存分に味わうことができた点にある。

そのミハウォフスキが子犬のワルツを2度録音してゐるのは興味深い。いずれも1905年の後半にワルシャワにて録音されたものだが、弾くたびに随分と表現が異なるのも面白い。ミハウォフスキ54歳の録音であるが、その技術は大したもので、終始快速のなか軽快なタッチで、自由奔放に子犬が戯れる様子が目に浮かぶ。冒頭の装飾もコロコロと何処まで転がって行ってしまふのかと一瞬焦らせる。マトリックス番号55831と558(1/2)1の2種の演奏は転がり方が異なり、明らかに558(1/2)1の方が遠くまで転がって行って遊んでおられるやうだ。

このやうな遊び心のあるショパンを弾く人は現代には一人も居ないやうだ。ショパン弾きと言はれた多くの巨匠たちのSPレコヲドの中から一瞬一瞬を楽しむ以外に、本物のショパンに出会ふ方法はないのかも知れない。

ショパンが世を去って僅か2年後に生を受けたアレクサンダー・ミハウォフスキはショパン直系の洋琴弾きとして、録音の残る最古の巨人である。師匠であるミクリとチャルトリスカ王女はいずれもショパンの最高の愛弟子であり、ショパンの装飾音などについても実際のショパンの演奏を耳にしてきた師匠の書き込みなどを見る機会もあったはずである。

今、ピアノの前に座ってお稽古に禿げんでゐるピアノ弾きの卵さん達は、もし本物のショパンを知りたければ、多くの文献を読み漁ると同時にミハウォフスキやパハマン、ヤノータ、プーニョ、グリュンフェルトなどを聴くことを是非お勧めしたい。ピアノのお師匠がいかに理由を付けて現代的な奏法を押し付けても、それはコンクールに勝つ為の方法を教えてゐるだけだと僕は思ってゐる。

話はそれるが、ブログがTVドラマ化されたり、起業家が大企業の業績を上回ったりすることが現実となって久しい。音楽にもいつまでも今までのやり方ばかりでなく、メディアの発達に合った方法があるはずだ。現に、ショパンコンクールに出場した盲目のピアノ弾き、梯剛之が予選落ちにもかかわらず自分の生きる道を見出して活躍してゐるし、フジ子ヘミングのやうにある日突然、マスメディアに乗っかることもある。つまらぬコンクール狙いで優秀な成績を獲ったとして、その中の幾人が名演奏家になるといふのだ。もういい加減に気付いてほしいと思ふ。価値観は多様化してゐる。ニーズの全てがコンクール優勝者の模範的な演奏にあるわけではない。大手レコヲド会社の機嫌をとる必要はない。

ミハウォフスキを聴いて、現代のショパン演奏の在り方についていろいろと考えてゐた。【続く】

盤は、英國Appian P&Rによる蝋管の復刻CD APR5531。


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1 コメント

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ミハウォフスキ! (夏目久生)
2008-03-26 18:20:29
楽しく派遣させて頂きました。
私もミハウォフスキやグリュンフェルト、プーニョ、ディエメちった19世紀のピアニストの演奏が大好きです。

この英APR盤以外にも、ポーランドのSeleneというレーベルから(ショパン教会の会長が主催)、ミハウォフスキを纏めたものや、その弟子たちの演奏が沢山CD化されていますがお聴きになられたでしょうか?

また、手前味噌ですが、最近ショパンの孫弟子たちなどによる復刻CD「ショパン演奏の秘かな愉しみ」(DIW Classics DCL-1006)をリリースいたしました。
これにも、幻の演奏家である、Victor Gilleや、Marie Panthesを初め、19世紀的な演奏を集めておりますので、ご興味ございましたらお聴き頂けると幸いです。






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