瀬崎祐の本棚

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ガニメデ  55号  (2012/07)  東京

2012-08-10 19:29:42 | 「か行」で始まる詩誌
 「夏に捧ぐ」渡辺めぐみ。
 「正義と不正義がぶつかると」、火傷百合(かしょうゆり)と呼ばれる百合が咲くのだという。こんな名前の花が実在するのか否かは知らないのだが、それは「アルコール処理されているかのように/枯れることがない」とのこと。”火傷百合”は禍々しいイメージの花として迫ってくる。それは”火傷”という苦痛を伴った皮膚感覚が同時にあるからであり、しかもその苦痛からは逃れることが出来ないことも暗示している。
 そんな”夏”の中で

   火傷百合を下さい
   星を見てしまったのです
   裸眼で見ることの出来ない無数の天体を
   夢で見てしまったのです
   亡くなった祖母が
   死にかけた夏に着ていた
   上下の違うあのパジャマを着て
   すぐそばに立っていました

 あえて火傷百合を求めているのは何故だろうか。おそらく、夢で見た星には許せない不正義があり、ぶつけるべき正義を必要としたのだろう。そんな私を亡くなった祖母は案じているのだろう。
あらゆる部分が尖っていて挑戦的だった作者の態度は、この作品でもやや温和しくなってきているように感じる。以前に比べて、作品世界の懐が広くなっているようなのだ。それは言葉が直線的ではなく、歪みを秘めているところから来ているのだろう。
 しかし、最終連は「火傷百合を下さい/せめて火傷百合を下さい/星が動き始めてしまいました」と、苦痛をも厭わずに”火傷百合”を求めている。やはり挑戦的な姿勢はぶれていないのだった。
コメント
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