瀬崎祐の本棚

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ガニメデ  55号  (2012/07)  東京

2012-08-14 21:31:25 | 「か行」で始まる詩誌
 「鱗状神経」吉田博哉。
 ”ぼく”は「からだを移動する隠れ神経痛」に悩まされている。その痛みを伝えているのが鱗状神経なのだろう。身体の表面の痛みを視覚化したような”鱗状”という名称が、触感まで伝えてくる。「ちぐはぐに外れた蛇の顎のような肉と鱗のあいだ」を”ぼく”は生きていかなければならないのだ。
 「知恵のあるクモ」が箴言を語り、「痺れエイ」が長い航海の話をする。「少年のぼく」は「アセチレン灯の臭気」を嗅ぎ、「蛇神さまの太古のひびき」を聞いている。

   つねに母の足音に犬の耳を傾けている 岸辺
   で魚釣りながらも犬 日照り雨の中で丸まっ
   て尾に鼻を埋めて寝る犬 猫女を妻に持つ男
   は犬の体温をしている 犬が迷わないのは死
   者の匂いを嗅いで歩くからという

 痛みの感覚の中で、世界はとりとめもなく揺れ動いている。切実な感覚があるために、取り繕ったような理屈を凌駕した展開がここにはある。この説明無用な感じを突きつけられると、構築されるものはこうした切実さを持っていなければいけないのだと(瀬崎は)あらためて思ってしまう。
 それだけに、最終連の「あなたの痛みはたぶん脳で感じる心因性のものです」という医者の言葉は、あまりにも収束を計りすぎたきらいがあるように感じた。痛みによる世界は、どこまでも拡散したままで好かったのではないだろうか。残念な気がした。
コメント
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