瀬崎祐の本棚

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夜凍河  18号  (20102/12)  兵庫

2011-01-07 23:21:00 | 「や行」で始まる詩誌
 滝悦子の個人誌。今号にはゲストの月村香の3編の作品が載っている。どれも句読点を排した柔らかい肌触りの散文詩である。
 その中の1編「白い花」は、一言で言ってしまえば母の愛情みたいなものについて詩っているのだが、こう要約してしまうと沢山のものが逃げていってしまう。それは、「息のできぬような風に襲われるような白い花のような」ものであるのだ。そして今はわたしが母となっているのだろうが、そのわたしの子どもたちは、「月の表面を平手打ちして死んだ蚊であり草に並ぶ虫であ」るのだ。
 この風にそよぐ草原の波のように押し寄せてくる直喩のイメージがなんとも心地よい。少し文脈が壊れたような(句読点を排したことが効果的に曖昧さを出している)暗喩も成功している。
 「耳のあたりをくすぐるのは何?」につづく最終部分は、

   働きすぎてからだをこわし朝お弁当を作れなかった母はどれほどの
   後悔でこの先生きてゆくのだろう鳥がさえずる少し熱をもらう
 
 後悔しながら生きていくのは、わたしの母なのか、それとも母であるわたしなのか。ここでは母という特性が個人を越えてしまい、わたしの母でもあり、わたしでもあるような地点に達している。
 発熱した朝に臥床したまま(お弁当も作れないわけだ)鳥の声を聞いている結びが美しい。
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