瀬崎祐の本棚

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詩集「紡錘形の虫」 いのうえあき (2020/12) 書肆山田 

2021-02-05 21:12:59 | 詩集
 第1詩集。142頁に30編を収める。野村喜和夫の栞が付く。
 まず冒頭の6行の作品「祭りのように」全行を紹介する。この作品でこの詩集の魅力が端的に判るのではないだろうか。

   ハサミで
   切った。

   そら
   が
   ずれた

 このようにどの作品にも、理屈や理由を跳びこえたイメージの連携がある。それによって対象物の存在そのものに迫ろうとしている。そこには付け加わろうとする思惑などをすっぱりと斬り落とした潔さがある。

 「きぎれ」は幻想的な展開を見せる作品。いすに座っていたヒトは崩れ落ちて骨になってしまう。すると、いすが立ち上がり、「前がわからず」「後ろにすすんでいく」のである。「地平線に 色が のみこまれ」いすは吊り橋に辿り着く。

   振り子のように
   ゆれている橋
   いすは足を捨ててしまった

   月のひかりがつぶやく
   以前に一度渡った橋
   帰って来たんだよ

 いなくなってしまったヒトに代わるようにして橋までやって来たいすは何だったのだろう。こんなことが以前にもあったというのは本当だろうか。しかし、作者が創り上げた世界の意味を推測する必要はないであろう。ただそれを提示されたものとして受けとればいいのだろう。作品は、受けとる意味のあるだけのものになっているのだから。
 ⅱ章では亡くなった父、母、姉を偲ぶ作品が置かれている。

 そしてⅲ章の「停滞前線」。話者は襲いかかってくる何者かと闘っている風なのだ。それは隣町までやってきている停滞前線ということになっているのだが、とにかくこの状況で話者は耐えなくてはならない。

   わたしのからだは
   夜の中で明滅している
   赤いランプが切れると
   夜のなかにある
   底の見えないたまり水で
   水葬されるだろう

 雨で世界は水びたしになり、最終部分では「魚をくわえた翡翠は/鮮やかな羽をぬらして/飛び立っていく」のだ。ここにはやはり理屈を超えた肌感覚のようなものがある。それが説明を不要とした作品の強さになっている。
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