瀬崎祐の本棚

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詩集「水辺の寓話」  水野ひかる  (2015/06)  土曜美術社出版販売

2015-07-24 16:55:55 | 詩集
 第10詩集。53頁に16編を収める。
 Ⅰ章には”水辺シリーズ”として、12ヶ月を冠した連作がある。「あとがき」によれば、作者の散歩コースに宮池があり、その水辺の道を歩いて生まれた作品群とのこと。「五月の水辺に」では、「柿若葉の明るんだ坂を下」って人に会いに行く。池には聖五月の空が映っていて、

   神の手が何処かから降りてくるような
   真昼

 どの作品でも水辺の季節折々の情景が描写されているのだが、その情景に作者の気持ちが映し込まれている。
 Ⅱの4編も、沼や池をめぐって歩いている。「沼」では、若いころに女友達N子と一緒に突然目の前に広がった沼に遭遇した思い出が詩われている。沼に、N子はきれいと喜んだのだが、わたしはずるずるとひき込まれそうな不安を感じたのだ。その後、N子は奔放な恋に身を投じ、私の恋はすすまなかったのだ。

   古希になり、いまではその沼の存在さえ不確
   かなものになっている。N子は、水面のきら
   きら光る瞬間に魅せられたのだろう。わたし
   は、沼に潜む得体の知れないものを嫌悪した。
   あれが、ふたりの分岐点だったのか。

 沼に対するわたしとN子の気持ちのあり方が、そのままそれぞれの恋との接し方となって、二人の人生が変わっていったわけだ。象徴的に存在した沼は、今はどこにあるのか、探してもわからないのだろうな。
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