瀬崎祐の本棚

http://blog.goo.ne.jp/tak4088

詩集「花狂い」 原葵 (2024/01) おいかぜ書房

2024-02-13 21:09:59 | 詩集
ロード・ダンセイニの訳書を沖積舎やちくま文庫などで出している作者の第8詩集。100頁に20編を収める。
それらの作品の初出記録を見ると、半数近くの未発表作品に混じってかなり以前に「ユリイカ」や「現代詩手帖」に発表した作品6編もあった。

幻想譚のような作品が並ぶ。月の下で輪回し大会をする少年たちがいて、永遠にさまよう花追い人もいる。湿った夜気の中で原色の花が妖しく咲き乱れている光景が浮かび上がってくる。

「誕生月」。あんたは「冷たい川の中で 夜明けに魚たちをはらませ」、「紅もくれんの陰で 猫をはらませ」、「スミレの咲く野原で 少女たちをはらませ」、「極彩色の雨の中 あらゆる蛙をはらませる」。イースターにはみんなが一せいに卵を産むようなのだ。最終部分は、

   卵を産んだ少女たちのお葬いを 午後じゅうして
   夜は 目かくしをしたあんたを
   卵のようになるまで 撫でる
   それから イースターの夜は 一晩中
   あんたのそばで うさぎとボクシング

作品世界は、無邪気な遊び心がとても残酷な生命の在りように繋がっていくようなダーク・ファンタジーになってくる。

「夏の計画」。逃亡する計画を立てて遊んだぼくは、シャボン玉を吹きながら街じゅうを走りぬける。水族館に迷いこんだ子どもたちをしらべ、風邪をひいて寝ている男の子と寝台で一緒にシャボン玉を吹く。最終連は、

   真夜中の暗い路上で ぼくは
   人形と腕を組んで
   ローラースケートをしながら
   シャボン玉を吹いている
   向こうから人形をおぶった少女がやってきても
   挨拶はしない
   そうしてぼくたちは 夜明け前に広場に群がり
   一せいにシャボン玉を吹く

ポール・デルボーの絵画、稲垣足穂の掌編、そんなものも想起させる世界が広がってくる。そんな世界で歓声をあげて走り回ることによって新しく見えてくる世界があるのだ。どこまでも自由でいなければならないのだ。

他にも、恋人に裏切られて少女の誇りだった長い髪を切った姉さんの話(「ぶどう色の涙」)や、どこかの地平線をかぎりなく走りつづける猩々の話(「走れ、どこまでも」)など、幻想的な世界が色彩豊かに閉じ込められている詩集だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする