瀬崎祐の本棚

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詩集「海を飼う」 高島りみこ (2018/07) 待望社

2018-09-21 18:54:56 | 詩集
 第一詩集。103頁に25編を収める。

 季節が音もなくうつろって、生活がしずかに積み重なっていく。そんな中でひとつひとつがていねいに書かれたという印象を与える作品が並ぶ。たとえば「春 過ぎて」では、「いくぶんか やわらかさを含んだ影のあたりに/昨日が残され」、遠くの高層ビルのきわでピンク色を帯びたそらのあたりに「まだ誰も知らない明日がいたりする」のだ。

 「海を飼う」では、ふと見たくなって出かけたら、

   あのときからだ
   わたしの耳に海が棲みついたのは

   しんと寝静まった夜になると 海はひたひた
   と耳の奥から這い出してきて 水底深く漂っ
   ているかなしみのかけらを 枕元に置いてい
   った

 それはあの東北の海であり、わたしに何ごとかを迫るように海がとりついているのだ。やがて秋になり、海のかけらを集めて作った植物を水に放つと、「耳の奥の海は/すっかり鎮ま」るのだ。話者のなかでどのような変化が生じたのか、それは語られないままに物語がうつろっていく。

 「月の王国」は、迷い犬にさそわれて森の奥へと踏み込んでいくと、老いた月が横たわり、

   おお!
   泉のなかでは 産まれたばかりの月が洗
   われているのだった

 なんという光景であろうか。誰もが無意識には、光が始まる場所がたしかにあるだろうと感じているに違いない。しかし、そこにたどり着けることのできる人は少ない。光を大切にしていないと駄目なのだろうな。
コメント (1)
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