瀬崎祐の本棚

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Donc 1号 (2018/08) 富士見

2018-09-05 17:24:16 | ローマ字で始まる詩誌
 谷合吉重の個人誌の創刊号。詩誌名はフランス語の「だから」「それゆえに」という意味とのこと。そして「あらゆる文章はなにかを引き継いでゆく作業である、という認識の下で詩誌を継続できたらと思っている」とのこと。
 24頁、中綴じで、今号には有働薫、広瀬弓の作品もゲストとして載っている。

「ソクラテスのあたま」谷合吉重。理髪店のおやじは「お客さんのあたまかたちいいですね」「お客さんかわった車乗っていますね」とか言いながら傍らの青年の頬をつねったり耳を引っ張ったりしている。蹴りも入り、青年は笑いながら泣いている。最終部分は、

   行き場のないこのやろう
   逃げだすこともできず
   ただ苦笑いでたちつくしている
   おやじが剃刀をとりにいくと
   取り残された目に出会い
   ニカッと笑ったようにみえた
   ソクラテスのあたま

 苛めとしか思えないようなおやじの行為にはどんな意味があったのか。そのおやじに”ソクラテスのあたま”と言われる青年は何を覗き込んで笑ったのか。その場に居合わせてしまった作者もまた何かを覗き込んでしまったのだろう。

 「朝山夕山」と題した12頁にわたる詩集評が載っている。有働薫、たなかあきみつ、細田傳造など6冊の詩集、訳詩集を俎上にのせて、そこから始まる谷合のしっかりとした思考が書かれている。宗近真一郎の「リップヴァンウィンクルの詩学」の書評では、阿部嘉昭の「換喩詩学」にも触れ、「暗喩は解釈(奥)を呼応する。解釈を求めないというポジションは「換喩」へ帰属する。だから、「換喩」を「暗喩」に競合させるのは、「換喩」を方法として導入するということではなく、解釈をめぐって分断の線を引こうとすることである。」のような引用をしながら解説してくれていて、なるほどと思った。

コメント
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