第1詩集。119頁に23編を収める。
さりげない日常を詩っているようなのだが、その世界には”あちら側の世界”がときおり紛れ込んでくるようなのだ。それも何の境目もなしに、だ。
冒頭の「猫石」は、家具と呼べるものすらない貧しい部屋で「だれかが残していった/猫に似た石と/暮らす」話である。当たり前のことだが、石だからごろんと畳の上にあるだけである。それなのに作者は、
時がたてば
石との暮らしにも慣れ
おたがいに分かり合うこともできるだろう
そのころには、もう
それが石なのか猫なのか
そんなことは
どうでもよくなっているにちがいない
そして、冷たい寝床で石を抱きしめていると、「猫石は甘えるように/重くなる」のだ。あちら側の世界が紛れ込んで来るのではなく、作者があちら側の世界に彷徨いでているのだろうか。
「夜光虫」は美しい作品。夜の波打ち際にはいろいろなものが流れ着いているのだが、「いまにも壊れそうな/小さな椅子」もあるのだ。そして「白い夏帽子 砂だらけの/男の子がポツンと座っている」のだ。
ときどき
椅子から降りて
砂をつかんでは
真っ暗な海に
思い切り 放り投げる
そのときだけ
暗い波間に 夜光虫がめらめらと燃え
男の子のやせた肩が
きしむのだ
男の子はなぜ現れたのだろうか、なにをしたかったのだろうか。しかし、作品はそんなことを説明するものではない。そんなことを差しだしてくるだけだ。それが作品だ。やがて男の子は、「椅子にもたれて/動かなくなり/かなしい夢を見た分だけ」崩れていってしまうのだ。
亡くなった人に捧げたと思われる「家路」もしみじみとした作品だった。
さりげない日常を詩っているようなのだが、その世界には”あちら側の世界”がときおり紛れ込んでくるようなのだ。それも何の境目もなしに、だ。
冒頭の「猫石」は、家具と呼べるものすらない貧しい部屋で「だれかが残していった/猫に似た石と/暮らす」話である。当たり前のことだが、石だからごろんと畳の上にあるだけである。それなのに作者は、
時がたてば
石との暮らしにも慣れ
おたがいに分かり合うこともできるだろう
そのころには、もう
それが石なのか猫なのか
そんなことは
どうでもよくなっているにちがいない
そして、冷たい寝床で石を抱きしめていると、「猫石は甘えるように/重くなる」のだ。あちら側の世界が紛れ込んで来るのではなく、作者があちら側の世界に彷徨いでているのだろうか。
「夜光虫」は美しい作品。夜の波打ち際にはいろいろなものが流れ着いているのだが、「いまにも壊れそうな/小さな椅子」もあるのだ。そして「白い夏帽子 砂だらけの/男の子がポツンと座っている」のだ。
ときどき
椅子から降りて
砂をつかんでは
真っ暗な海に
思い切り 放り投げる
そのときだけ
暗い波間に 夜光虫がめらめらと燃え
男の子のやせた肩が
きしむのだ
男の子はなぜ現れたのだろうか、なにをしたかったのだろうか。しかし、作品はそんなことを説明するものではない。そんなことを差しだしてくるだけだ。それが作品だ。やがて男の子は、「椅子にもたれて/動かなくなり/かなしい夢を見た分だけ」崩れていってしまうのだ。
亡くなった人に捧げたと思われる「家路」もしみじみとした作品だった。