瀬崎祐の本棚

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詩集「月虹」  野田新五  (2014/12)  洪水企画

2015-02-05 18:20:54 | 詩集
 第1詩集。119頁に23編を収める。
 さりげない日常を詩っているようなのだが、その世界には”あちら側の世界”がときおり紛れ込んでくるようなのだ。それも何の境目もなしに、だ。
 冒頭の「猫石」は、家具と呼べるものすらない貧しい部屋で「だれかが残していった/猫に似た石と/暮らす」話である。当たり前のことだが、石だからごろんと畳の上にあるだけである。それなのに作者は、
 
   時がたてば
   石との暮らしにも慣れ
   おたがいに分かり合うこともできるだろう
   そのころには、もう
   それが石なのか猫なのか
   そんなことは
   どうでもよくなっているにちがいない

 そして、冷たい寝床で石を抱きしめていると、「猫石は甘えるように/重くなる」のだ。あちら側の世界が紛れ込んで来るのではなく、作者があちら側の世界に彷徨いでているのだろうか。
 「夜光虫」は美しい作品。夜の波打ち際にはいろいろなものが流れ着いているのだが、「いまにも壊れそうな/小さな椅子」もあるのだ。そして「白い夏帽子 砂だらけの/男の子がポツンと座っている」のだ。

   ときどき
   椅子から降りて
   砂をつかんでは
   真っ暗な海に
   思い切り 放り投げる
   そのときだけ
   暗い波間に 夜光虫がめらめらと燃え
   男の子のやせた肩が
   きしむのだ

 男の子はなぜ現れたのだろうか、なにをしたかったのだろうか。しかし、作品はそんなことを説明するものではない。そんなことを差しだしてくるだけだ。それが作品だ。やがて男の子は、「椅子にもたれて/動かなくなり/かなしい夢を見た分だけ」崩れていってしまうのだ。
 亡くなった人に捧げたと思われる「家路」もしみじみとした作品だった。
コメント
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