<是川縄文館>
考古学的な面から考えれば、
胸部・臀部の膨らみや女性器を思わせる刻みなど、
「女性」「妊婦」などを示す
「証拠」が多々見られる縄文土偶を、
「豊穣や子孫繁栄を願うための造形物」
と推測するのは自然の流れです。
ただし、縄文時代の人々は、
あえて「人型」のキモである
「精密な顔の造作」を徹底的に避け、
宇宙人説まで囁かれるような
奇妙な風貌の偶像を造り上げました。
もし仮に、制作者たちが妊婦の
「安産」を祈ろうとしたのなら、
対象となる妊婦の女性に似た顔立ちや、
極めて人間に近いスタイルの
造形を選んだことでしょう。
また、当時の縄文人の技術を以てすれば、
現代彫刻に匹敵するような、
写実的な表現を極めることも容易だったはずです。
ならばなぜ、縄文の人々は
自らのスキルを封印してまで、
人間の「リアルな描写」を
拒もうとしたのでしょうか……。
もしかすると、縄文の人々の共通認識として、
「人間の顔を描いてはいけない」あるいは
「人間の形を正確に写し取ってはいけない」
という決まりがあったのかもしれません。
千差万別なデザインの土偶を眺めておりますと、
「何らかのタブー」を犯さないために、
縄文人たちはあえて土偶の輪郭をぼやかし、
曖昧に処理しようとした形跡が透けて見えるのですね。