<佐比賣山神社 さひめやまじんじゃ>
複数の佐比賣山神社を要する石見地方には、
「乙子狭姫(おとごさひめ)」という人物が
登場する昔話が残っています。
何でも、乙子狭姫の母親であるオオゲツヒメは、
スサノオに切りつけられ瀕死の状態になったとき、
娘の挟姫(さひめ・乙子狭姫の別名)を呼び、
「母亡き後は豊葦原に降り、五穀を広めて
瑞穂の国とせよ」と言い残して息絶えたのだとか……。
その後、挟姫は母親の身体から
産み出された五穀の種を手に、
赤い雁の背に乗って石見地方に降り立ち、
遺言通りに五穀の耕作を広めたのだそうです。
ちなみに挟姫は、稲作だけでなく製鉄や
タタラ技術を持ち込んだ朝鮮由来の人物であり、
挟姫が立ち寄った各地では、大山祗などの土地神が
「自分たちは肉を食らう者だから、
五穀の種などに用はない」といって、
挟姫を追い払ったという話も聞きます。
つまり、この昔話は稲作がこの地にもたらされた
経緯を示すと同時に、「縄文人と弥生人」
との摩擦を暗示した部分もあるのでしょう。