大学院1年の夏、まとまった収入のあてができたので、それを元手に、長期の北海道旅行を企画した。その頃はまだ北海道ワイド周遊券があったので、その有効期限一杯一杯を使って出かけようと思った。
その時の一番の目的は、礼文島で8時間コースを歩くこと、星観荘に泊まること、大雪山のお花畑を見ることであった。礼文のことは既に何度も書いているので、ここでは書かないとして、大雪山については、各種の写真集やガイドブックで紹介された、大雪山の広大なお花畑に魅せられたことにある。しかも日本アルプスと異なり、比較的容易にそのお花畑にたどり着けるという。中でも裾合平や五色ヶ原のお花畑がすごいという。さらに裾合平は、ロープウェーを降りて1時間ほどで着けるのだという。北海道の山の本を入手して見てみると、旭岳温泉から裾合平を周り、中岳温泉を通り、お鉢平をまわると、黒岳に至り、黒岳を下るとロープウェーで層雲峡に下りられる、黒岳には石室があり、泊まることができる、とある。その時は小樽の小さな旅の博物館を起点にして道内をまわっていたので、小樽をどんなに早く出ても、登り始めるのはお昼前になりそうだ。そうなると、層雲峡に下りる頃には夕方になってしまうことが考えられる。そこで、黒岳石室に泊まることにした。
小さな旅の博物館を、朝食もそこそこに出発した。荷物は別室に置かせてもらった。電車を乗り継いで旭川に着き、バスで旭岳温泉に向かった。バスはほぼ満員。皆登山の格好をしている。私はジーンズに半袖シャツ。食料はパンとチョコレートと、缶ジュースを3本ほど。雨は300円カッパと傘で防ごうと考えていた、今思うととんでもない軽装だった(実は今もあまり変わりないかも知れない・・・)。
旭岳温泉のロープウェー乗り場に到着すると、空は曇っている。もちろん山は見えない。ロープウェーに乗って姿見に下りると、ガスこそかかっていないものの、山はすっかり雲に覆われている(私の山行歴の中でも珍しい曇天である)。でも、雨は降っていないので、そのまま出発した。既に目の前に、エゾノツガザクラがたくさん咲いており、この先が期待された。