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桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

礼文島・星観荘に着くまで

2005-03-04 19:41:23 | 旅行記
「せいかんそう」の名を初めて聞いた翌年は、大学4年ということもあり、夏休みも旅行どころではなかった。しかし、結局進学することになり、その翌年も学生生活を続けることになった。

春先から夏休みの北海道旅行のことを考え始め、あれこれ資料を探した。礼文島の「せいかんそう」という宿の情報が載っている本を探したが、普通のガイドブックには載っていない。ようやく見つけたのが、ライダー向けの雑誌だった。しかも、宿の定員と電話番号しか掲載されていない。しかし、他には見つからなかったので、これを購入した。

「せいかんそう」は「星観荘」と書くのだった。北海道を旅行中、星空の美しさは印象深いものだった。富良野の夜空には、生まれて初めて天の川を見ることができた。きっと、礼文でも星空が美しいのだろう。そんなことに因んだネーミングらしい。どんなところなのか、関心は深まっていった。

旅程は、7月の晴海での三越のお中元バイトの後の2週間程度と決めた。バイトで得た給料を資金とし、今はなき北海道ワイド周遊券を使って、一昨年泊まった「小さな旅の博物館」を拠点にして、道内のあちこちをまわってみようと思った。

礼文島には愛とロマンの8時間コースというのがあり、宿で知り合った人同士で歩くと、実際に”愛とロマン”が芽生えることもあるという。また、礼文島は高山植物の島でもあるそうだ。北海道の高山植物の名所としては、大雪山とアポイ岳しか知らず、今回もまずそこを訪れようと思っていたのだが、礼文で高山植物を見ながら8時間コースを歩くのも悪くないな、と考えた。

旅程は、青森からはまなす号で苫小牧、そこから日高線で様似、その後アポイ岳に行き、日高線で苫小牧、千歳線で札幌に行き、利尻号で稚内へ向かい、朝一の便で礼文へ渡り、そのままバスで8時間コースの入り口へ向かい、8時間コースを歩いて、バスで星観荘へ着く、というように組んでみた。

そして、星観荘に電話してみた。男性が出て、8時間コースを歩いてから宿に行きたい、と言うと、別の男性が電話に出て、「それはかなり厳しいですよ。登山の経験はありますか?スコトン岬の5時のバスに間に合うようにしていただかないと夕食に間に合いません……」と、かなり強い口調で言われた。どうやら、私が立てたのはかなり厳しい旅程らしい。でも、まだ何もわかっていなかった私は、若さに任せて「大丈夫です。」と答えてしまった。

礼文に着くまでは、旅程は予定通り進んだ。アポイ岳は花のシーズンは終わっており、猛烈な風に煽られて、這々の体で下山した。札幌駅前では、初めてホテルのサウナというものを利用し、高い料金に驚いた。利尻号では熟睡した。

フェリーは礼文に着いた。一昨年来た時にはなかった、立派なターミナルができている。客引きや、宿の迎えとおぼしき人達がたくさんいるが、一昨年のあまりよくないイメージがあったので、無視してバス停へ向かう。雲行きは怪しい。ガイドブックにあるとおり、バスを香深井というところで降り、歩き始めた。山道に入ると結構きつい登りである。すれ違う人もいない。ここが本当に8時間コースなのだろうか、という思いが頭をよぎった。でも、目の前には1本の道しかないので、これを歩き続けるばかりである。

海辺に着いた。小さな集落がある。人の姿も見えた。ここが8時間コースなのか聞くと、そうだと言う。そのまま海沿いを歩いていくと、目の前に大きな岩が立ちはだかった。踏み跡が山側に続いているので、それに従って歩いていくと、今度は目の前に急な斜面が立ちはだかった。これを登るのだろうか?でも、ロープがあるのでそのようであるらしい。

何とか登り切ると、今度は森に入った。その次は身の丈を超える笹藪に入る。灌木帯を通り過ぎるかと思えば、崖にへばりつくようなところもある。高山植物なんかありゃしない。しかも、雨まで降ってきた。出発前に買った200円カッパを着込むが、蒸れて何にもならない。傘を差すが、風が強くて、首から上にしか役立たない。荷物の半分は稚内駅のコインロッカーに置いてきたが、それにしても重い。ザックが肩に食い込んでくる。

だんだん惨めな思いがこみ上げてきた。”愛とロマン”なんて大嘘だ。花の島なんて大嘘だ。どうしてこんな辛い思いをして俺は歩かなくちゃいけないんだ。そんな思いを抱きながら、ひたすら歩いた。

道はいつしか8時間コースの本来のルートから外れていた。すると、目の前に一軒の建物が見えてきた。中には人がいるのが見える。看板には「レブンアツモリソウ群生地」とある。どうやらガイドブックに載っていた、レブンアツモリソウの保護地を監視するための小屋らしい。雨が強くなってきたので、そこで雨宿りさせてもらうことにした。

ここでようやく一息つき、あとは星観荘があるという船泊の町までひたすら歩いた。船泊の町を通り過ぎ、本当にこの集落に星観荘があるのか、と不安に思い始めた時、突然目の前に星観荘が現れた。

それが星観荘との”運命の出会い”だった。


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