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桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

礼文島・花の島⑯

2005-04-05 21:37:27 | 旅行記
山を下りると、あとはひたすら舗装道路を行くばかりである。6月ということもあり、まだ日没までは時間があるのであるが、観光客達は皆宿に戻ったようで、観光バスも見られない。同宿だった人達も皆星観荘に戻り、そろそろ夕食の時間だろう。私は目標のスコトン岬を目指してひたすら歩く。

スコトン岬に到着した。誰もいない。売店も閉まっている。時計を見ると19:30。星観荘に電話しようと思ったが、売店が閉まっているのでできなかった。岬の先まで下りていって海を眺める。雲一つ無い空。夕陽が今まさに海に沈もうとしている。海はべた凪ぎ。素晴らしい夕陽である。星観荘では、夕陽の丘に夕陽を見に行っているかも知れない。こんな素晴らしい夕陽をたった一人で見なければ行けないのはチト寂しい。でも、まだ24時間コースの途中である。そんな感情に浸っているヒマはない。星観荘までは後2時間ほどかかるはずだ。何としても24時間以内で歩ききりたい。重い腰を上げて歩き始めた。

歩き始めてしばらくして、分かれ道を左にとった。右はさっき歩いてきた道である。道は下り坂となって船泊湾の方へ下っている。今度は右手に崖が続く。夕日は射してこないので、辺りは暗さを増してきた。夕食時ということもあり、道路を走る車もほとんどない。だんだん眠気を催してきた。

そんなところへ、前方から車の灯りが見え、だんだん近づいてきて、私の目の前で止まった。星観荘の小エース君である。彦さんが降りてきた(他にも何人かいたかも知れない)。電話が来ないので心配してやって来たのである。調子を聞いて一服し、すぐに戻っていった。でも、最後の気力を振り絞るきっかけになった。

ここから先のことは、実はほとんど覚えていない。なぜなら、この先は足の痛みよりも、とにかくひたすら眠気との戦いだったからである。道の右側を歩いていたのが、気が付くと道路の真ん中辺を歩いているようなことが何度もあった。島でなければ、きっとクラクションを鳴らされていることだろう。しかし、車のほとんど通らないので、ふらつきながら、いつの間にかとんでもないところを歩いていても、当の本人は全然気付かないのである。

さすがに船泊の集落に入ると、家々の明かりが多くなり、眠気も薄れた。途中でMTBに乗ったおじさんがやって来て、「何か希望のものはないかい?」と聞いてきた。どうやら今朝新しくやって来た人のようである。ちょうどフィルムがなくなりそうだったので、荷物の中から持ってきてくれるようお願いした。最後の場面でフィルムがないのでは困ってしまう。ところがおじさんはすぐに戻ってきて「無かったよ。」とのこと。そうか、なかったか・・・でも、Nさんあたりが写真を写してくれるに違いないから、それに期待しようと思った(実はフィルムはデイパックの中にあったのだが、細かく捜す気力すらなくなっていたのである)。

星観荘のある集落の手前から、おじさんが併走してくれた。これは、最後の気力を振り絞るのに実にありがたかった。話しぶりからすると、関西の人らしい。星観荘の手前にある崖を回り込むと、皆が待ってくれているのが見えた。車のライトを付け、ビデオを撮してくれているようだ。赤いゴールテープも見える。そうして皆が出迎えてくれているのを見ると、何だかとても嬉しくなってきた。

テープが近づいてきた。皆が声をかけてくれたのだが、どんな言葉だったか全く記憶がない。ともかく、そんな声援に囲まれながら、両手を上げてゴールテープを切った。目の前に福リンがいてくれ、男ながら「胸に飛び込んでこい」といったような様子だったのだが、私としてはやはり彦さんのところに行きたかった。そして、彦さんのところへ行き、握手した。ようやく帰ってこられた、と思った。何か言葉をかけてくれたはずなのだが、全く覚えていない。Nさんもそばに寄ってきて「お疲れ様」と言ってくれる。この後、皆で万歳をした。そして私は看板の前でビール(なぜかバドワイザーだった)を空け、本来なら一気飲みするのだが、下戸の私には半分が限度だった。飲みながらインタビューされ、その様子はビデオに収められた。どんなことを話したのかはよく覚えていない。ただ、「スコトン岬の辺りでは本当にやめようと思いました。」と話すと、カメラマンの人が「でもなぜ最後まで歩いたんですか?」と聞いてきた。私はここでカッコイイことを言えればよかったのだが、そういう機転を持ち合わせていない私は「今年初めてだったからです。」と、後から思えばものすごくつまらない言葉を発してしまったのである(もちろんその時そんなことは気付いていない。1ヶ月後に星観荘に行った時、このビデオを見てそう思ったのである)。時計を見ると、21:30。ちょうど24時間だった。

中に入り、すぐに風呂に入った。空腹よりも、疲れを風呂で流してしまいたかった。Tシャツを脱ぐと、皆が体に書いてくれた言葉がシャツに移って、シャツがいろいろな色で染まっていた。この色は、その後Tシャツを何度洗濯しても、結局落ちなかった。体に付いたマジックのインクもなかなか落ちなかった。湯船に浸かって、ようやく帰ってきたんだ、ということを実感した。

とにもかくにも今回の礼文行きの目的のすべては達成された。




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