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桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

火打山

2011-10-13 22:58:02 | 旅行記

10/12(火)

ここのところ登っている山は、どこかからその姿を眺めて登ってみたいと思って登るケースが多かったのですが、この間登った甲武信岳と、今回登った火打山はそうではなく、ただ登ってみようと思い登ってみたわけです。火打山については、ネットでちょうど紅葉が見頃だとあるのを見て、そして高いところに湿原があり、木々の紅葉は終わっていても、草紅葉はきれいだろうと思われたのも、登ろうと思った理由です。

平日(休暇を取りました)とはいえ、紅葉が見頃とくれば混雑が予想されたので、3:40におきて4時に出発しました。眠気に勝てずに途中のPAで30分ほど眠り、妙高高原インターで下り、登山口に笹ヶ峰に着いて登り始めたのは7:25でした。笹ヶ峰でもすでに紅葉は見頃で、シラカバやダケカンバの黄色と、カエデの赤のコントラストが見事でした。

黒沢という沢まではなだらかな木道が続きます。木道はシラカバとダケカンバの木々の間に付けられており、あたりは一面黄色。ところどころにカエデの赤が点景となっていて目を引きます。

黒沢を渡るのですが、このあたりからブナが目立ち始めます。それにしても見事な紅葉です。カエデの赤も増え始めます。ここからきつい登りが始まりました。十二曲りという難所です。しかし、それほどきついとは思いませんでした。それは、この十二曲りのところの紅葉が一番きれいだったからです。あちこちで足を止めて写真を写しました。ただ、日が射す前ということで、しっとりとした美しさはあるものの鮮やかさには欠け、下山の際の午後の光の当たった紅葉の方がよりきれいだろうと思われました。

十二曲りを登り切ると、いっそうきつい登りが待っていました。よくこれだけの急な登りのところを、ロープや鎖もなく登らせるな、と思ったほどでした。この笹ヶ峰からの登りは登山道がよく整備されていてとても登りやすかったのですが、なぜこの難所だけ整備されていないのか不思議でした。

きつい登りを登り切ると目の前が開け、富士見平というところに出ました。このあたりの紅葉はすでに終わっており、辺り一面冬木立でした。日は射してきたものの、右手の妙高山には雲がかかり、左手の、まだ見えない火打山のある辺りにも大きな真っ白い雲が浮かんでいるのが見えます。これはどうやら雲の中の残念な登山に終わりそうな不安が頭の中をよぎります。

富士見平からは妙高山への登山道が分かれているのですが、今日は火打山への道をとります。低い灌木の間に木道が続き、歩いていくと左手の方角に、山頂部分が雲に覆われた火打山が見えてきました。ここまでの登りがきつかったので、なんだかがっかりして、引き返そうと思い始めてしまいました。山の手前には湿原が広がっています。高谷池です。草紅葉がきれいです。池塘の横には高谷池ヒュッテが建っているのが見えます。

高谷池ヒュッテの横を通り過ぎ、高谷池の縁の斜面を登り切ると、また別の湿原が現れ、そこを通り過ぎ、木道が下りになった時、ふと前を見上げると、なんと目の前に突然火打山が姿を現したのです!そう、さっきまで山を覆っていた雲が突然晴れたのです。そういえば、雲の流れが速いなと思っていたところでした。しかも雲は晴れたまま、もう山にかかる様子はありません。もう引き返すのはやめにしました。そこにも湿原が広がり、天狗の庭と名付けられています。石や池塘、木々の配置は、とても自然のものとは思えないほどです。ある石など、どう見ても池塘と池塘の間に人工的に置かれたのではないかという感じで置かれていました。きっとこれは天狗の造作に違いないということで、天狗の庭と名付けられたのでしょう。そう考えると、今まで厚い雲に覆われていた火打山が、ここへ来て突然晴れたのも、天狗のいたずらだったのかもしれません。

ここから稜線に出る斜面を登り切ると、おそらく古代の噴火か地滑りか何かで大きくえぐれた斜面が眼下に広がりました。ここから山頂まで稜線歩きが続きます。歩き始めてすぐに足下がぬかり始めました。日陰を見るとなんと雪があります。これは今年の初雪なのです。それが融け始めたところで、登山道がぬかっているのです。この稜線の登りは、斜度はそれほどではないにしても、ここまでの登りでかなりへばっているので実にきつかったです。

山頂直下にライチョウ平というところがありました。ライチョウは日本アルプスでは普通に見られますが、この火打山にも局所的に生息していると以前聞いたことがあったのを思い出しました。ライチョウ平にはいませんでしたが、山頂直下のナナカマドの木立の根元に一つがいいるのが見えました。ちょうどレンジャーの人たちが観察しているところだったので、彼らが見ている先を見るとすぐに見つけられました。冬毛に抜け替わる途中で、足のあたりは真っ白、首の下あたりまでは灰色になっていました。

最後のきつい登りを登り切ったところに山頂はありました。コースタイム3時間55分のところ、3時間25分で登れました。途中で写真をたくさん写したこともありますが、30分しか縮められなかったのは、やはり寒さと、山に雲がかかって気勢が上がらなかったことによるものでしょう。

山頂は二十畳ほどの広さがありました。大きな岩が転がっているわけでもなく、三角点のまわりに中くらいの岩がいくつかあるだけで、いささか殺風景な山頂です。山頂の西側と北側はガスに覆われ、南側と東側だけが見えます。南側には高妻山、戸隠山、東南方には黒姫山、東側には妙高山がそびえています。妙高山の手前には高谷池が広がり、池塘が点在しているのが見えます。

それにしても寒く、ガスが吹き付けるハイマツには霧氷ができているのが見えました。でもこの風だと、さっきのように一気にガスが晴れて眺望が望めるかもしれません。寒さに負けた男性3人組はあきらめて下りていきました。おしゃべりな1人のおじさんがいたので、妙高山の方を向いて山の話などしてふと後ろを振り返ると、なんとガスが突然薄くなって、背後にそびえる焼山の姿が見え始めたではありませんか!しかもガスはどんどん薄くなり、ついに焼山やそのまわりの山々が姿を現しました。

焼山は活火山です。今から三十数年前には噴火で死者が出たほどの山です。フォッサマグナの間に盛り上がった溶岩ドームが山体を形成しており、北側斜面には火砕流が流れた後がはっきりわかりました。山頂の東側斜面には噴気口があり、白い噴煙が上がっているのがよくわかります。火打山から見るとずいぶん低く見えますが、それでも標高は2,400メートルと、火打山と62メートルしか変わらないのです。

はるか遠くには白馬連峰、五竜岳、鹿島槍ヶ岳が見えます。おじさんによれば、五竜岳のさらに奥に小さく見えるのは立山と剱岳だとのことでした。ようやく見えてきた景色を眺めながら、いつものように湯を沸かし、今日は天ぷらそばを食べました。

ややもやっていたのは残念ですが、周囲を飽かず眺め、昼飯も食べ、結局1時間ほど山頂にいました。名残惜しく山頂を後にし、相変わらずライチョウを観察しているレンジャーの横を通って、あのぬかるんだ登山道を下って、再び天狗の庭に着きました。その時突然風がやみ、登山道の横の池塘の水面が水鏡となって、火打山がくっきりと姿を写しました。これも天狗のいたずらなのでしょうか。

この後は何度も何度も火打山を振り返り、そのたびに写真を写しました。高谷池を過ぎると、焼山と影火打、火打山の三山がきれいに並んで見えるようになりました。

富士見平が近づいてくると、この山々も見えなくなり、またあのきつい斜面の、今度は下りが始まります。特に十二曲りまでの急斜面は、よくもこれだけのところを登ってきたものだと思ってしまうほどのきつさでした。しかし、その後の十二曲りも含め、それほど大変に思わなかったのは、午後になって日が当たり、鮮やかさを増した紅葉のおかげでした。真っ青な空に、赤と黄色、そして常緑樹の緑が見事なコントラストをなして映えています。美しい光景に出会うたびに足を止め、繰り返し写真を写しました。

辺りから赤い色が少なくなると十二曲りも終わり、斜度も緩くなって黒沢に出ました。ここからは黄色く紅葉した木々の間に付けられた木道を下っていくばかりです。午後の光が射すシラカバ林は実に気持ちよかったです。

下りは3時間5分でした。駐車場のまわりもきれいに紅葉していました。車を飛ばして妙高高原で温泉に入りました。たまたま雑誌に載っていたところを選んだのですが、脱衣所から浴場に入ると、なんと目の前に妙高山がドンと聳えています。素晴らしい眺めです。入浴料はちょっと高かったのですが、この素晴らしい眺めならそれも仕方がないかなと思えるほどの眺めでした。

あとは高速を3時間、料金を3,000円もかけて飛ばして帰るばかりでした。小布施PAの栗ソフトが美味しかったです。

ふと思い立って登った火打山でしたが、思いがけず晴れてきれいな景色が見られ、途中の紅葉もきれいで、温泉も気持ちよく、満足しました。