目が覚めて外を見ると、かなり風が強い。空も曇っている。今日は天気が良くて利尻山が見えればハイジの谷、そうでなければ宇遠内から6時間コースを歩くつもりである。この空の様子からすると後者になりそうである。
今日は以前8時間コースを一緒に歩いたSさんが島抜けする。もちろん見送りに行く。フェリーターミナルは日曜日ということもあってか、大変な賑わいである。この不況の中、高い金を払って(実際フェリーの中ではツアー代金が10万円以上するような声も聞いた)こんな北の果てまでやって来る人がこれほどまでにいるのはやはり驚きである。でも、年々観光客は少なくなってきているそうだ。
Sさん達を見送り、私は香深井で降ろしてもらった。ここから6時間コースの始まりである。まずは単調な林道歩き。峠を越えると道はひたすら下り坂となる。途中、礼文ではここでしか見られないオオタカネバラの花を見ることができる。林の中にきれいに咲いているものがあるので写真を撮ろうとしたがうまくいかない。仕方なしに林から出て歩き出すと、前から坂を登ってくる人がいる。こんな朝早くから歩いている人がいるとは驚きである。すれ違うときに挨拶を使用としたら、私がずるっと滑ってしまった。スニーカーを履いていたからである。その人は思わず「大丈夫ですか?」と声を掛けてくれたが、その顔に私は見覚えがあった。でも、思い違いかも知れないのでそのまま通り過ぎようとしたものの、やはり気にかかって思い切って声を掛けた。「確か以前一緒に8時間コース歩いた方ですよね。」するとその人、Nさんは「そう、確か学校の先生している人でしたよね。」と答えてくれた。思い出してくれたのが嬉しかった。Nさんは、その朝島抜けしたSさんとともに、私が3年前に8時間コースを一緒に歩いた人だったのである。なんでもNさんはすっかり礼文が気に入ってしまい、去年から島で山と花のガイドをしているのだそうだ。この偶然の再会には本当に驚いてしまった。もし私がNさんとすれ違う時にコケていなかったら、この再会はなかっただろう。人の縁とは相変わらず不思議なものである。
宇遠内に降りる途中には、島で一番早くレブンウスユキソウが咲く斜面がある。そこに行ってみると、もう花は終わっていて、矮小化したハマナスが咲いているばかりであった。
そこを過ぎると、礼文島特産の花、フタナミソウが咲いている岩場がある。ここは礼文で何度も一緒になったFさんが、フタナミソウの存在を教えてくれた場所である。その花が咲く場所は、この宇遠内への道が大改修された時にもかろうじて残ったのであった。その内緒の場所を見てみると、あった。既に散ってしまった花もあるが、まだ咲いている花もある。他の人に見られないうちに、急いで花を写真に収めた。そこから宇遠内の浜辺は近い。途中、Fさんとここを訪れた時に、ミヤマオダマキの花で紫色になった斜面を見た時のこと、水道関係の仕事をしていたSさんと、宇遠内に水を送る施設を内緒で見てしまった時のことなどを思い出しながら、浜辺へ下っていった。