○3年生の頃⑥
その後は、藤井有隣館、逸翁美術館、陽明文庫などの展示施設の他、今井凌雪先生のお宅に伺って、明清の書画のコレクションを拝見した。
藤井有隣館は中国系の様々なコレクションを展示している。中でも古銅印と明清の書蹟が私達の関心を引いた。特に王鐸の条幅のみずみずしい筆致は印象深かった。しかし、すべての展示物の中で最も印象的だったのは、科挙の時に受験生が衣服の下に着用したと伝えられる、四書五経の全文を、極細字で一面に書き込んだ紙製の下着である。科挙に何としても合格するという執念のようなものすら感じたことであった。
逸翁美術館は日本の書蹟や茶道具のコレクションが有名である。特に訪れた時期には、平安時代の仮名書道の名品を数多く展示しており、来た甲斐があった。特に「継色紙」は、同行されている村上翠亭先生が論文の対象として扱ったもので、一層印象深く見ることができた。
陽明文庫は有志で見学した。村上翠亭先生が事前に話を付けてくださっていたので、普通に申し込んだのでは見学できない場所であった。ここでは何と言っても藤原道長の自筆日記「御堂関白記」でよく知られている。コレクションが知られる古筆は見られなかったが、薄暗い展示室の中でも、「御堂関白記」は、平安の昔の藤原道長の息づかいを確かに伝えるものであった。