みちのくの山野草

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背筋がひんやりしてしてくるような冷酷さ

2021-02-13 16:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
〈『【賢治】の心理学』(矢幡洋著、彩流社)〉

 矢幡氏はこんなこと、
 時折、高圧的な賢治が姿を見せる。露は、意に沿わぬ相手と結婚するよりは独身でいたい、とした手紙で「独身主義」という言葉を用いたらしい――賢治にさとされて、次の手紙には結婚の方向で考えると書いたようだが、それに対する賢治の下書き群のひとつには「お手紙拝見、いちいちご尤もです。独身を主義だなんて云ふからいけないですな。ゴム靴主義パン食主義の類いです。」という高飛車な表現がある。自分が出した厳しい拒絶の手紙については「あゝいふ手紙は(よくお読みなさい)私の勝手でだけ書いたものではありません。」と露が第三者に潔癖を証明する材料になるように配慮して書いたものだと(露に対しては手紙の交換すら拒んでいるのに)わずかばかりの自分の配慮は是非呑みこんでおけ、という。露が賢治に写真を送ったことに対して、「あゝいふことは絶対なすってはいけません。」と露骨な命令口調で言う。
 露宛の下書き書簡群から伝わってくるものは、背筋がひんやりしてしてくるような冷酷さである。ここにおける、一点張りの拒否と無配慮とは、賢治の手紙の大半の折り目正しさと比べると、かつての嘉内宛の自らをさらけ出した書簡群と共に、異様さにおいて際立っている。
             〈『【賢治】の心理学』(矢幡洋著、彩流社)154p~〉
も論じていた。

 まず、ここで言う「賢治の下書き群のひとつ」とは、252cの下書(十四)、
お手紙拝見、いちいちご尤もです。独身主義だなんて云ふからいけないですな。ゴム靴主義パン食主義の類いです。
              〈『新校本 宮沢賢治全集〈第15巻〉書簡 校異篇』146p〉
のことであり、「あゝいふ手紙は(よくお読みなさい)私の勝手でだけ書いたものではありません。」や「あゝいふことは絶対なすってはいけません。」については、既に引いた252cの中の文言である。たしかに賢治は書簡下書の中にこう書いてあった。

 そこで、前回同様に、この下書群は露宛であると断定できるものではないのだから、矢幡氏が論じている「露」を「彼女」に置き換えてみると下掲のように、
 時折、高圧的な賢治が姿を見せる。彼女は、意に沿わぬ相手と結婚するよりは独身でいたい、とした手紙で「独身主義」という言葉を用いたらしい――賢治にさとされて、次の手紙には結婚の方向で考えると書いたようだが、それに対する賢治の下書き群のひとつには「お手紙拝見、いちいちご尤もです。独身を主義だなんて云ふからいけないですな。ゴム靴主義パン食主義の類いです。」という高飛車な表現がある。自分が出した厳しい拒絶の手紙については「あゝいふ手紙は(よくお読みなさい)私の勝手でだけ書いたものではありません。」と彼女が第三者に潔癖を証明する材料になるように配慮して書いたものだと(彼女に対しては手紙の交換すら拒んでいるのに)わずかばかりの自分の配慮は是非呑みこんでおけ、という。彼女が賢治に写真を送ったことに対して、「あゝいふことは絶対なすってはいけません。」と露骨な命令口調で言う。
 彼女宛の下書き書簡群から伝わってくるものは、背筋がひんやりしてしてくるような冷酷さである。ここにおける、一点張りの拒否と無配慮とは、賢治の手紙の大半の折り目正しさと比べると、かつての嘉内宛の自らをさらけ出した書簡群と共に、異様さにおいて際立っている。
となる。
 さてこうなると、これらの下書群の「彼女」に相当する女性は露であることの保証は何等なくてせいぜい推定にすぎないし、一方でこの下書そのものは賢治自身が書いているものと言えるのだから、矢幡氏からの、
・時折、高圧的な賢治が姿を見せる
・……という高飛車な表現がある。
・(彼女に対しては手紙の交換すら拒んでいるのに)わずかばかりの自分の配慮は是非呑みこんでおけ、という
・「あゝいふことは絶対なすってはいけません。」と露骨な命令口調で言う。
・下書き書簡群から伝わってくるものは、背筋がひんやりしてしてくるような冷酷さである。
・ここにおける、一点張りの拒否と無配慮
・異様さにおいて際立っている。
という指摘は、そのとおりか、あるいは少なくとも否定はできないということを私は教わる。そしてその件数が多いことから、たしかに、矢幡氏が「背筋がひんやりしてしてくるような冷酷さ」や「際立つ異様さ」を感じ取ることには、客観的には私も納得させられる。それは、この下書群にそちこちで垣間見られる、見下したような賢治の口吻等はかつての私が持っていた賢治像からは全く想像もできなかったものが多すぎるからなおさらにである。

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 なお、目次は次の通り。

 〝「宮澤賢治と髙瀨露」出版〟(2020年12月28日付『盛岡タイムス』)
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