みちのくの山野草

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憤怒の〔聖女のさましてちかづけるもの〕

2019-02-02 08:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
《『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲・鈴木守共著、友藍書房)の表紙》

 ここからは昭和6年のことである。
鈴木 それでは、「昭和6年」分については賢治の〔聖女のさましてちかづけるもの〕がその中心となりそうだが、いよいよ始めるとするか。
荒木 そもそも、その〔聖女のさまして云々〕とはどんな詩なんだ?
吉田 それは、『雨ニモマケズ手帳』にこのように書かれていて、実際文字に起こしてみると次のようになる。
  10・24
 ◎ 聖女のさまして
       われにちかづき
           づけるもの
   たくらみ
   悪念すべてならずとて
   いまわが像に
        釘うつとも
   純に弟子の礼とりて
   乞ひて弟子の礼とりて
           れる
   いま名の故
          足を
            もて
   わが墓に
   われに土をば送るとも
   あゝみそなはせ
   わがとり来しは
   わがとりこしやまひ
   やまひとつかれは
      死はさもあれや
   たゞひとすじの
       このみちなり
           なれや
           <『校本全集 資料第五(復元版雨ニモマケズ手帳)』 (筑摩書房)より>
荒木 それにしても、書いては消し、消しては書きと何度も書き直しているところからは賢治の葛藤や苛立ちが窺えるね。
吉田 内容的にもまた然りで、相手に対しては「悪念」という辛辣な表現を用いたり、その人を「乞ひて弟子」となったと見下したり、「足をもて/われに土をば送るとも」というようにどうも被害妄想的なところがあったり、一方自分のことは「たゞひとすじのみち」を歩んできたと高踏的な表現をしたりしていて、この〔聖女のさましてちかづけるもの〕から浮き彫りになってくる賢治は、女性から言い寄られた男のそれではなくて、無理に虚勢を張っている男ともとられかねない。
鈴木 それから「あゝみそなはせ」とあることからは、賢治はこの相手の女性のことを以前はかなり評価していたということも言えそうだ。
荒木 にもかかわらず、そのような女性に対して「悪念」という言葉を賢治が使おうとしたとはな…それも「詩」においてだぞ。今まで抱いてきた賢治のイメージからは程遠い詩だ。おそらく、この詩を詠む直前に賢治にはよっぽどのことがあったんだべ。
吉田 それにしても、昭和2年の夏頃から賢治は露を拒絶するようになったということのようだが、それから約4年以上も時が経ってからもなお、佐藤勝治が「彼の全文章の中に、このようななまなましい憤怒の文字はどこにもない」と表現する<*1>ような詩、〔聖女のさましてちかづけるもの〕を詠む賢治の心理が僕にはわからん。いくら何でもこれだけの長期間怨念を持ち続けることは普通の人にはできんだろう。
鈴木 常識的にはあり得ない。だから逆に、さっき荒木が言ったように、その直前にはおそらく我々には及びもつかないような劇的な出来事が賢治に起こっていたともやはり考えられる。
吉田 実は、この〔聖女のさましてちかづけるもの〕とよく似た詩を賢治はもう一篇詠んでいるんだ。

<*1:註> 佐藤勝治は「賢治二題」という論考において、〔聖女のさまして近づけるもの〕の詩を挙げ、次にこの詩について、
 「雨ニモマケズ」の書かれた十一月三日の十日前、十月廿四日の手記である。『決シテ瞋ラズ、イツモシヅカニワラツテ』いたいと祈る十日前に、彼はこのように瞋り、うらんでいる。さればこそ、彼は痛切に瞋るまいとしたのであろう。が、彼の全文章の中に、このようななまなましい憤怒の文字はどこにもない。
 これがわれわれに奇異の感を与えるのである。
             〈『四次元44』(宮沢賢治友の会)〉
と論じている。

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