みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

〔最も親しき友らにさへこれを秘して〕

2019-02-02 16:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
《『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲・鈴木守共著、友藍書房)の表紙》

荒木 それは一体どんなものなんだ?
吉田 それは「文語詩未定稿」の中の〔最も親しき友らにさへこれを秘して〕というもので、ほらこのような詩だ。
   最も親しき友らにさへこれを秘して
   ふたゝびひとりわがあえぎ悩めるに
   不純の想を包みて病を問ふと名をかりて
   あるべきならぬなが夢の
     (まことにあらぬ夢なれや
      われに属する財はなく
      わが身は病と戦ひつ
      辛く業をばなしけるを)
   あらゆる詐術の成らざりしより
   我を呪ひて殺さんとするか
   然らば記せよ
   女と思ひて今日までは許しても来つれ
   今や生くるも死するも
   なんぢが曲意非礼を忘れじ
   もしなほなれに
   一分反省の心あらば
   ふたゝびわが名を人に言はず
   たゞひたすらにかの大曼荼羅のおん前にして
   この野の福祉を祈りつゝ
   なべてこの野にたつきせん
   名なきをみなのあらんごと
   こゝろすなほに生きよかし
           <『校本全集第五巻』(筑摩書房)226p~より>
荒木 へえ~たしかにこれって、さっきの〔聖女のさましてちかづけるもの〕の雰囲気とよく似た雰囲気の詩だな。
吉田 なっ、そう思うだろう。ましてこの「校異」(前掲書818p)を見れば、「最も親しき友ら」とは藤原嘉藤治のことだと判る。
鈴木 ということは、「親友」の嘉藤治にさえも言えずに悶々としていたようだから、賢治にとってこの詩もまた「憤怒」の詩とも言えそうだ。しかも、今『宮沢賢治必携』を見てみたのだが、それによれば、
 文語詩制作開始は昭和4年12月頃で、昭和5年8月以降のある時、明確な目的意識のもとに文語詩制作へ向かったと推定できる。
            <『宮沢賢治必携』(佐藤泰正・編、學燈社)83pより>
とあるから、昭和6年10月24日付の〔聖女のさましてちかづけるもの〕とも時代的にも重なっている。
吉田 そこでこれらの「憤怒」の詩といえる2篇の詩と、例の「昭和6年」のものと考えられる関徳弥の『短歌日記』の10月4日、同6日のことなどを時系列に従って並べてみれば、
  昭和6年9月28日:賢治東京で発病し、花巻に戻って病臥。
  〔昭和6年〕10月4日:「夜、高瀬露子氏来宅の際、母来り怒る。露子氏宮沢氏との結婚話」
  〔昭和6年〕10月6日:「高瀬つゆ子氏来り、宮沢氏より貰ひし書籍といふを頼みゆく」
  昭和6年10月24日:〔聖女のさましてちかづけるもの
   推定同時期 :〔最も親しき友らにさへこれを秘して
  昭和6年11月3日:〔雨ニモマケズ
となる。
鈴木 今までは、この10月24日付〔聖女のさましてちかづけるもの〕の詠まれ方があまりにも不自然だと思っていたが、こうやって並べてみる何かが少し見えてきたような気がする。このような「憤怒」の詩をほぼ同時期に二つも賢治は詠んでいたようだから、賢治は余程この二人の女性に対して腹立たしくて、苦々しく思っていた可能性が大だ。 

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               電話 0198-24-9813

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