みちのくの山野草

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1345 「雨ニモマケズ」は標準語で書かれている

2010-02-09 08:00:47 | 岩手の冷害・旱害
      【↑ Fig.1 「雨ニモマケズ手帳」(51~52p)】
   <『校本宮澤賢治全集 資料第五(復元版雨ニモマケズ手帳)』、筑摩書房より>

 今まで大正15年と昭和6年の岩手日報の記事を調べてきたのは他でもない
  『ヒドリノトキハ』
が気になっていたからである。
 というのは、W氏が
 「ヒドリ」とは南部藩が使っていた公用語で日傭労働のことを意味し「日用取」と表記していた。
 したがって、
  ヒドリノトキハ  ナミダヲナガシ
とは、冷夏にヒデリはなく、その秋に収穫の農作業はなくなる。そこでヒドリの日銭で生活するしかなく、そのヒドリにナミダが流れるという意味なのである。
 したがって、「雨ニモマケズ」の中の
  ヒドリノトキハ  ナミダヲナガシ
  サムサノナツハ  オロオロアルキ
の”ヒドリ”はヒドリで正しいのだ。

という論理で持論を展開していることを最近知ったが、はたしてそうなのだろうかという疑問を持ったからである。

 そこで、大正15年と昭和6年の岩手日報の記事を調べてみた結果、やはり定説のとおり
「雨ニモマケズ」の中の
   ヒリノトキハ  ナミダヲナガシ

   ヒリノトキハ  ナミダヲナガシ
の誤記だろうというのが私の結論である。

 このことについて以下順に述べてゆきたい。
1 「雨ニモマケズ」は標準語で書かれている
2 ”日傭労働”は「ヒドリ」と読まれていたか
3 日傭労働のときに涙を流すか
4 昭和6年の稲作に懐いた賢治の虞
5 「ヒドリ」は限りなく誤記に近い
6 メモ「土偶坊」
7 『ヒデリにケガチなし』とは
8 渇水に心痛める賢治
9 皆んなヒデリに涙した
10 ヒデリによる農民の苦闘
11 紫波の未曾有の旱害と義捐
12 赤石村の旱害罹災状況
13 旱害惨状は紫波地方一帯に
14 『ヒデリに凶歉あり』
15 自分自身に涙を流す?賢治
16 順番が逆では?
17 ”デクノボート ヨバレ”の役割
18 賢治も間違うことがある

**************************************************************************
1 「雨ニモマケズ」は標準語で書かれている
 かつて
  「ヒドリ=ヒトリの誤記」説
というものもあったという。つまり、”ヒドリ”は”一人”の方言だということらしい。
 いくら東北人は訛るからとはいっても、私の知る限りでは”私”が”わだし”と訛るようなことはあっても、”一人”を”ひどり”と訛るような喋り方はこの花巻辺りではないと思う。
 そして、それよりなにより「雨ニモマケズ」は標準語で書かれれているはず。因みに以下に「雨ニモマケズ」の全文を載せてみる。
 11.3
  雨ニモマケズ
  風ニモマケズ
  雪ニモ夏ノ暑サニ
  モ マケヌ
    丈夫ナカラダヲ
         モチ
  慾ハナク
  決シテ瞋ラズ
  イツモシヅカニワラッテ
           ヰル
  一日ニ玄米四合ト
   味噌ト少シノ
       野菜ヲタベ
  アラユルコトヲ
  ジブンヲカンジョウニ
        入レズニ
      ヨクミキキシワカリ
ソシテ
  ワスレズ
  野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
   小サナ萱ブキノ
      小屋ニヰテ
  東ニ病氣ノコドモ
      アレバ
  行ッテ看病シテ
       ヤリ
  西ニツカレタ母アレバ
  行ッテソノ
     稲ノ束ヲ
        負ヒ
  南ニ
    死ニソウナ人
         アレバ
  行ッテ
    コハガラナクテモ
      イヽ
        トイヒ

【Fig.2 「雨ニモマケズ手帳」(57~58p)】

   北ニケンクワヤ
      ソショウガ
         アレバ
  ツマラナイカラ
     ヤメロトイヒ
  ヒドリノトキハ
     ナミダヲナガシ
  サムサノナツハ
     オロオロアルキ
  ミンナニ
     デクノボート
         ヨバレ
  ホメラレモセズ
  クニモサレズ
    サウイウ
       モノニ
    ワタシハ
      ナリタイ

  <『校本宮澤賢治全集 資料第五(復元版雨ニモマケズ手帳)』、筑摩書房より>
というわけで、「雨ニモマケズ」は方言では書かれていないからこの「ヒドリ」の部分だけが方言になってしまう「一人」説は付会と言わざるを得ないのではなかろうか。

 そこで、「ヒドリ」は方言ではなく標準語あるいは公用語ではなかろうかと考えられることになる。

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