みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

1377 ”デクノボー”の役割

2010-03-20 08:00:52 | 岩手の冷害・旱害
     【↑Fig.2 「雨ニモマケズ手帳」(57~58p)】
   <校本宮澤賢治全集 資料第五(復元版雨ニモマケズ手帳)、筑摩書房より>

 今回は「雨ニモマケズ」の中の”デクノボー”の役割について考えてみたい。
 もちろん『ミンナニデクノボートヨバレ』の中のそれのことであり、この直前部分はブログの先頭のようになっていて、文字を拾うと
<57p>
  北ニケンクワヤ
      ソショウガ
         アレバ
  ツマラナイカラ
     ヤメロトイヒ
  ヒドリノトキハ
     ナミダヲナガシ

<58p>
  サムサノナツハ
     オロオロアルキ
  ミンナニ
     デ(コ→訂正)クノボート
         ヨバレ
  マタ(削除)

となっている。そして直後は次のように続いている。
【Fig.2 「雨ニモマケズ手帳」(59p~60p)】

   <校本宮澤賢治全集 資料第五(復元版雨ニモマケズ手帳)、筑摩書房より>
<59p>
  ホメラレモセズ
  クニモサレズ
    サ(一字書き掛け)ウイフ
       モノニ
    ワタシハ
      ナリタイ


したがって、抜き出して整理し直すと
   ヒドリノトキハナミダヲナガシ
   サムサノナツハオロオロアルキ
   ミンナニデクノボートヨバレ
   マタ(削除)
   ホメラレモセズ
   クニモサレズ
      サウイフモノニワタシハナリタイ

となる。

 そこでまず確認したいのはこれらの部分の
  各行の主語はいずれも賢治である
ということである。このことを踏まえてこの部分を私流に解釈すれば、
  旱のときには近隣の農民の艱難や惨状に涙を流して祈り、
  冷夏のときには稲の生育状況を見廻り、心配しながらおろおろと歩き回る。
  (さりとてこのようなことをしたからといって何の役にも立たぬことだから)
  皆からは木偶坊と嗤われ、罵られるかもしれないし
  (あるいはまた)
  流石だと褒められもしないし、さりとて邪魔にも心配もされない
    私は周りからそのような見方をされる人間になりたい
となる。
 そしてここで私が特に言いたいことは、この文章中での”デクノボー”が書かれた位置から来るその役割であり、それは
  『ヒドリノトキハナミダヲナガシ/サムサノナツハオロオロアルキ』
   ≒『デクノボー』の行為

ということである。換言すればその役割は二つあり、
 その第一は
  『ヒドリノトキハナミダヲナガシ』
という行為は『デクノボートヨバレ』たい賢治自身の行為であり、賢治以外の人の行為ではないということ示しているという役割である。したがって、W氏の言うように
  『ヒドリノトキハナミダヲナガシ』
を『日傭労働の辛さ惨めさに涙を流す』ことだと解釈してしまうと、涙を流すのは賢治ではなくなってしまうので文法的に破綻する。したがって、
  『ヒドリ』日傭労働(日用取)
だと思う。

 その第二は、『ヒドリノトキハナミダヲナガシ』という行為は『デクノボー』の為す行為だから褒められも苦にもされないような行為となるはずであるが、『日傭労働』ならばそれは糊口を凌ぐ行為だから褒められる行為であり感謝される行為である。つまり、『ヒドリ(日傭労働)ノトキハナミダヲナガシ』という行為は『デクノボー』の行為たり得ないということを示す役割である。したがって、やはり 
  『ヒドリ』日傭労働(日用取)
だと思うのである。

 なお蛇足ながら、
  『ヒドリ(日傭労働)ノトキハナミダヲナガシ』
と解釈するならば、 
  サウイフ者ニ賢治ハナリタイ
ということになる訳だから
  賢治は日傭労働をしてその辛さに涙を流すような人になりたい
と思っていたことになる。まさか、そんなことはあるまい。
 よって、この点からも 
  『ヒドリ』日傭労働(日用取)
となるではなかろうか。

 以上のことより、W氏の主張する『ヒドリ』は『日傭労働(日用取)』のことであるとするのには無理があり、やはり『ヒドリ』は『ヒデリ』の書き間違いだとするのが妥当だと思うのですが…。

 なお、60pは全ページ
   曼荼羅
であり、「雨ニモマケズ」と同時に書いたとは考えられない、と小倉豊文は『「雨ニモマケズ手帳」新考』(東京創元社)で述べている。

 続きの
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