みちのくの山野草

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関徳弥の『短歌日記』(『短歌日記』の持主訪問)

2014-02-03 07:00:00 | 賢治渉猟
《創られた賢治から愛すべき賢治に》
『昭和五年短歌日記』の持ち主U氏
鈴木 実はそもそも、この平成15年7月29日付“関徳弥の『昭和五年短歌日記』発見”の新聞報道があったことを知ったのは、私がしばしばお邪魔している古書店『イーハトーブ本の森』の店主高橋征穂氏から聞いたからなんだ。他でもないこの新聞報道の際に
   日記を入手した北上市花園町の古書店経営、高橋征穂さんが…
と紹介されている高橋さんその人だ。
 そして高橋さんは、関徳弥のその『昭和五年短歌日記』を東海地方に住まわれるU氏に売ったということも教えてくれていたのだが、私にとって東海地方はあまりにも遠くて行けそうもないので、先ずは北上に行ってみたというわけだ。
荒木 その結果、「関が一九三〇(昭和五)年に書いたとみられる日記」と報道された同日記が、鈴木から見れば筆跡が確かに関のものであることは判ったし、新発見の日記の曜日欄が消されていたということも確信できたが、それだけでは曜日欄が消された訳までは知ることなどできなかった。そこで、何はともあれその現物を見るしかないと思ったんだべ。
鈴木 まさにその通り。こうなると東海地方に住まわれているU氏を直接訪ねるしかないと思って、高橋征穂氏にお願いしてU氏の住所と電話番号を教えてもらった。
 直接U氏にお電話をした。U氏には高橋征穂氏から紹介していただいたことを告げながら、直接お邪魔して関徳弥の『昭和五年短歌日記』を見せていただきたいこと等をお願いしたところ快く承諾していただいた。もちろん新聞報道の写真上では曜日の欄が消えた跡があるので直接拝見したいことと共に、この方は書簡『中舘武左衛門宛て〔241a〕』もお持ちになっているということを私はある方から教えてもらっていたので、その書簡も見せていただきたい旨も併せて申し述べ、その年の夏のある日に訪問していいと承諾をいただいたのだった。
荒木 ところでなんだ、その中舘云々というのは?
鈴木 実はこの中舘武左衛門宛て書簡は『新校本宮澤賢治全集別巻(補遺篇)』(筑摩書房)で公になっているものだが、同書においてはその日付が
   口絵:〔昭和8〕・7・30
となっているのに、
   本文:〔昭和3〕七月三十日
となっているんだ。
荒木 ちょっと変だな。
鈴木 実は、これと似たことは詩人時代社編輯部宛て書簡〔446〕においてもあるんだ。その場合も、昭和3年と昭和8年の混乱がある。
吉田 なるほど。考えてみれば数字の「8」と「3」はスタンプで押された場合にかすれれば似ているからな、人間の意思が入り込める余地がある…。
一回目のU氏訪問
荒木 それでその訪問結果はどうだった?
鈴木 私は喜び勇んで、切符を買い、宿を予約してその出発の日を首を長くして待っていた。すると、その出発の前日U氏から都合が悪くなったので明日は無理になったとご連絡を頂いた。
吉田 そうかそれは残念。
鈴木 そこで私は、それでは明後日にお訪ねしますということで承諾を頂き、出発は予定日通りの日にした。初日は、実は前々から一度訪れてみたいと思っていた身延町に行って久遠寺の賢治碑を見て、その後韮崎市に行って保阪嘉内のことを調べ回ればいいかと思ったからだ。
 すると初日のその道すがらU氏から携帯に電話が入り、明日も仕事の都合で会えなくなったという連絡が入ったのでやむを得ず諦めて、泣き泣き花巻に帰った。
荒木 何?、またもか。もしかすると始めっから会うつもりなんかなかったのじゃないのか、U氏は。
鈴木 そもそもこの曜日の消去の経緯については、日記の持ち主に会って日記の現物を見ればばかなりわかると私は思っていたから、先の古書店主高橋征穂氏にはあまり問いただしていなかったので、U氏訪問の顛末報告方々高橋氏を訪れて、あの新聞に載った日記の曜日が消されているのはなぜだったのでしょうかと改めて訊いてみた。
吉田 その回答は?
鈴木 そのことは気にも留めなかったし、そのことが当時話題になった記憶もないということだった。
荒木 そこで、しつこさがウリの鈴木のことだ、やはりその現物、関の『昭和五年短歌日記』を見るしかないと再度思ったんだべ。
鈴木 わかるか? そうなんだよな。しかし、年金暮らしの私がまた東海地方まで行くのはお金もかかるので無理。そこで、U氏にお電話をしてその日記には例えば「元日」の曜日欄は消えているのか、もし消えていれば曜日は何と記載されているのでしょうか、せめてそこだけでも教えてもらえないでしょうかと懇願したところ、それではその旨手紙で連絡して下されば調べてご返事をしますということだった。
吉田 その曜日がどう書いてあるかで、実はその日記が書かれた年が昭和何年であったかがわかると踏んだわけだな。
荒木 それでそれで、元日の曜日欄には何と書いてあったというのだ?
二回目のU氏訪問
鈴木 ところが待っても待ってもその返事が来ないのさ。私もしつこいとは思ったが、どうしても諦めきれず二ヶ月程経ってから再度そのお願いの手紙を出した。しかしやはり梨の礫さ。
荒木 そうか、だからこの前もまたその東海地方に「大人の休日倶楽部パス」を使って行ってきたという訳だったんだ。
鈴木 そうでもしないと私には無理。そして、今度は事前には連絡せずに直接U氏のお宅にお邪魔した。
吉田 どうせ約束してもドタキャンされたのでは意味がないからな。
鈴木 そうなんだ。すると、今度はU氏に会えた。会っただけで、この方はいい人だと直感した。遠いところわざわざ訪ねて来て下さってと仰って、その日記を見せてくれるということで奥の方に行った。私は再度訪ねて来た甲斐があったと心の内で快哉を叫んだ。
 ところが戻ってきたU氏の返事は、ちょっと事情があって今は見せられないので夕方また連絡して欲しいというものだった。そこで私は宿を取って夕方を待って連絡した。
荒木 じれったいな、それで結局…
鈴木 結論を言えば、見ることが出来なかった。
 夕方電話をしたところ、本が沢山あってその日記が紛れていてどこにあるか今は不明なので探してみますから、また明日連絡をしてくださいということだった。
 するとその明くる日の昼前に連絡が入り、探してみたのですがその日記は見つかりませんでしたというものだった。
荒木 なんだ、結局また無駄足だったのか。
鈴木 そうなんだ、一時のぬか喜びに過ぎなかった。
吉田 何かあるんだよ。その裏には深い事情が…。
鈴木 割り切れなさを感じつつ、富士山を眺めながらそこを後にした。
 花巻に戻ってから、再び高橋征穂氏にその報告に行った。高橋さんは非常に訝っていた。あの日記は「○○○万円で売った」ものだから、他の本と紛れるようなところに保管などしておくはずがない、と。
 それでは最後の頼みの綱と思って、私は先の新聞報道の際の記者会見で高橋征穂氏と同席した牧野立雄氏を紹介していただて、ついこの前牧野氏とお会いした。
吉田 それでその結果は?
鈴木 牧野氏からは、その日記の曜日欄の記載に関しては特に話題にも問題にもなったことがないという回答だった。
吉田 進展はなかったのか。
『昭和五年短歌日記』は昭和5年に書かれたものでない可能性
鈴木 それを受けて私はまた高橋氏を訪れて、次のような話しをした。
 高橋さんには申し訳ございませんが、どうやら同日記の曜日欄が消されていたのは始めからであり、ついては逆に、同日記は昭和5年のものではないという可能性が高いと私は思っておりますが。
と。すると高橋さんは、それはあり得ることだと肯って下さったので今こうやって二人に喋るんだが、前に荒木も言ったように
 関徳弥の『昭和五年短歌日記』は実は昭和5年に書かれたものではなく、他の年に関がそれを使って書いた日記である可能性が極めて高い。
と判断し、次に進むしかないと覚悟した。
吉田 “関徳弥の『昭和五年短歌日記』”の曜日欄の記載が明らかに人の手で消されていることは間違いないから、それが消されているという事実がまさにあの記載内容は昭和5年のものではないということの証左であり、この推論は当然の帰結だろう。
 しかしだ、たしかに“関徳弥の『昭和五年短歌日記』”の元日の曜日欄等がどうなっているかを知ることによってそれが何年に書かれたものであるかということは特定しやすくなるだろうが、このルートはたぶんその裏に深い事情があると思われるのでこれ以上もう踏み入ることはできないだろうから、このまま当面保留にしておくしかない。
 その代わり、僕たちの調べ方次第によっては“関徳弥の『昭和五年短歌日記』”と言われているその日記が書かれた年を絞り込むことだって可能かもしれないから、これからはこちらのルートを探ってみよう。
鈴木 なお、関登久也は物を大切にする人だったというようなことを私は仄聞しているから、たまたま未使用の『昭和五年短歌日記』が手に入ったのでもったいないと思った関が、曜日の部分だけを消して使ったということもあり得ると推測している。
荒木 そうそう、俺もその可能性はあると思ってた。それじゃ、この日記は昭和何年に使われた関徳弥の『短歌日記』なのかを、そのルートで特定してみっぺ。

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