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klepsydra

2017-03-10 | art

『Sanatorium pod Klepsydra』 邦題:砂時計
ポーランド映画 1973年公開 1982年日本公開
日本版DVD紀伊国屋2014年発売

 昨年は、Quay Brothersの展覧会が開催されて、久しぶりにブルーノ・シュルツを読み返したりしていましたが、ひょっとして『砂時計サナトリウム』のポーランド映画が日本でDVD化されていないだろうか、と検索してみると、2014年に国内発売していました。それで、早速取り寄せて観てみました。
 日本語解説が付いた、嬉しいパッケージ。
 気になったのが、パッケージの表と解説リーフレットの1ページめ見開きで載っている、胸を露わにした娼婦風の女性たちの画像。
こんなの「砂時計サナトリウム」に出てきただろうか…と思いつつ、ディスクをセットして本編スタート。
 主人公のユゼフが入院中の父を見舞いに、サナトリウム(療養所)へ向かうローカル列車の旧式車両に乗っている場面から始まります。
 その古風な車輌は、原作ではとても奇妙で、想像してもなかなか思い描き難いのですが、映像は原作の雰囲気をそのまま再現してあり、感動しました。監督&脚本を手掛けたヴォイチェフ・イエジ―・ハス(ポーランド人)監督は、全編通してシュルツの世界観を見事に具現化してくれてました。
 ユゼフの父が身を置いている世界は、幻想と狂気が入り混じった混沌としたところでした。最初こそ戸惑っていたユゼフも、元気な時のように生き生きとしている父の姿を見て、サナトリウムを運営するゴタール医師の開発した治療(?)方法を受け入れます。彼が行っているのは、砂時計の砂が落ちきる前にひっくり返す、というようなこと。ですから、過去と現在がいったりきたり…そしてサナトリウムの外で、ユゼフは少年期の友人ルドルフやビアンカに会います。彼らは少年少女の姿ですが、ユゼフは大人の姿のままです。でもその行動と話し方は、子供のそれです。アデラも彼を子供扱いし、彼の前で平気で着替えます。
 さて、ブルーノ・シュルツの作品を読んだことがない人が観たら、チンプンカンプンだろうと思いました。平凡社『シュルツ全小説』を読んだ私でも、全ての作品が気に入って記憶している訳ではないため、切手帳を持った少年が誰だか、なぜ色々な国の人たちが登場するのか、すぐ理解できませんでした。
 映画は「砂時計サナトリウム」と「春」を合体させた作品なのです。私にとって『春』はちょっと退屈で、気を入れて読んでいなかったために気づくのが遅れました。そして映画でも、その辺りは若干退屈でした。
 さらに、原作の『砂時計サナトリウム』にはアデラや母は登場しませんが、映画ではシュルツの他の作品からも少しずつ取り入れているので、シュルツ読者はそれがどの作品から取ってきたのかわかるので、興味深いです。
 また、ちらっと見えるゴタール医師の診療室の診察台は、クエイ兄弟の『失われた解剖模型のリハーサル』を彷彿させましたし、医師と看護婦の関係は、ヤン・シュヴァンクマイエルの『ルナシー』の医師と看護婦(本物の医者と看護婦か疑わしい…精神病院の入院患者かも)を思い出させました。クエイ兄弟とシュヴァンクマイエルは、ハス監督の映画を観たことがあるのでは?
 他の作品を入れ子的に挿入する手法は、S.ソダ―バーグ監督作品『カフカ/迷宮の悪夢』(1991年作品)が頭に浮かびました。この映画も、カフカ自身のことや作品を読んでいないと面白さが半減するようなカルト作品でした。
 ハス監督作品もカルト映画ですが、パッケージの退廃的な裸の女性たちの画像が、よりカルト感を醸し出しているような気がします。映画の中ではほんの数カットしか出てこないのですが・・・
 全体的に、ハス監督が造り出した“シュルツの世界”は、1つを除いて私の想像を裏切るものではありませんでした。しかし、その1つは、私にとって比重が大きいので、残念でした。
 それは、アデラです。
 私が想像していたアデラは、黒髪でしたたかなクール・ビューティーなのですが、映画のアデラは金髪でクールではありませんでした。なので、最初はその女性がアデラとは思いませんでした(「砂時計サナトリウム」にはアデラは登場しませんし)。
 『シュルツ全小説』の訳者解説内に載っている、シュルツの許婚ユゼフィーナ・シュリンスカの写真が、私の中ではアデラ像なのですが。



 
 
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