好きな詩・詩人6 堀口大学:夕ぐれの時はよい時

2008年09月14日 | 生きる意味

 ここのところ連続して、やや深刻なテーマの「今日のことば」を取り上げましたので、久しぶりに少しやわらかに「好きな詩・詩人」を引用、紹介しようと思いました。

 堀口大学(ほりぐちだいがく、1892-1981)は、訳詩集『月下の一群』などで知られるフランス文学者、詩人です。

 『月下の一群』は、詩の選択も訳文もとても洒落れていて、若い頃、愛読したものです。

 自作の詩にもいいものがあり、次の詩はもっとも好きなものの一つです。

 四季折々、夕ぐれになると、しばしば思い出します。

 今日も夕ぐれ、少しだけツクツクボウシが鳴いた後、すぐに虫の声に変わり、蒸し暑さが少し残ってはいますが、初秋の風情です。

 連休で来る予定だった娘一家が孫娘の熱で来られなくなり、孫たちに会えなくてちょっと気抜けしているじーじとばーばの静かな夕ぐれですが、それでもやはり「夕ぐれの時はよい時」と感じます。



       夕ぐれの時はよい時

    夕ぐれの時はよい時、
    かぎりなくやさしいひと時。

    それは季節にかかはらぬ、
    冬なれば暖炉のかたはら、
    夏なれば大樹の木かげ、
    それはいつも神秘に満ち、
    それはいつも人の心を誘ふ、
    それは人の心が、
    ときに、しばしば、
    静寂を愛することを、
    しつてゐるもののやうに、
    小声にささやき、小声にかたる……

    夕ぐれの時はよい時、
    かぎりなくやさしいひと時。

    若さににほふ人々の為めには、
    それは愛撫に満ちたひと時、
    それはやさしさに溢れたひと時、
    それは希望でいつぱいなひと時、
    また青春の夢遠く
    失ひはてた人々の為めには、
    それはやさしい思ひ出のひと時、
    それは過ぎ去つた夢の酩酊、
    それは今日の心には痛いけれど
    しかも全く忘れかねた
    その上(かみ)の日のなつかしい移り香

    夕ぐれの時はよい時、
    かぎりなくやさしいひと時。

    夕ぐれのこの憂鬱は何所(どこ)から来るのだらうか?
    だれもそれを知らぬ?
    (おお! だれが何を知つてゐるものか?)
    それは夜とともに密度を増し、
    人をより強い夢幻へみちびく……

    夕ぐれの時はよい時、
    かぎりなくやさしいひと時。

    夕ぐれ時、
    自然は人に安息をすすめるやうだ。
    風は落ち、
    ものの響は絶え、
    人は花の呼吸をきき得るやうな気がする、
    今まで風にゆられてゐた草の葉も
    たちまちに静まりかへり、
    小鳥は翼の間に頭(こうべ)をうづめる……

    夕ぐれの時はよい時、
    かぎりなくやさしいひと時。



 ワークショップなら、この詩を紹介した後で、「夕ぐれはなぜ来るか?」というコスモロジーの話をするのですが、今日はやめて、次の機会にしておきます。



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コメント (5)
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