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深く哀しい短編集『恋文』by連城三紀彦

2016年08月24日 | 小説レビュー
~マニキュアで窓ガラスに描いた花吹雪を残し、夜明けに下駄音を響かせアイツは部屋を出ていった。結婚10年目にして夫に家出された歳上でしっかり者の妻の戸惑い。しかしそれを機会に、彼女には初めて心を許せる女友達が出来たが…。表題作をはじめ、都会に暮す男女の人生の機微を様々な風景のなかに描く『紅き唇』『十三年目の子守歌』『ピエロ』『私の叔父さん』の5編。直木賞受賞。「BOOK」データベースより


5つの短編小説が収められているんですが、どれも秀作揃いで、さすがは直木賞受章の素晴らしい作品です。

短編なのに内容が濃く、重みと深みがあって、とても考えさせられますし、連城さんの書く文章は、どこか物悲しく、台詞や描写がジワジワと心に染みわたるんですよね。

タイトルになっている『恋文』の中で、結婚して10年経つ夫婦の旦那が妻に向かって言う台詞があります。

「・・・虫のいいことを承知で言うけど、惚れるって、相手に一番好きなことをやらせてやりたいっていう気持ちのことじゃないかな。惚れるってそういうことだよ」

全くもって都合のいい解釈かも知れませんが、実に真理を捉えていると思いますね。

この『恋文』をはじめ、その他の作品でも、夫婦愛や親子愛を様々な色と形で、実に見事に読ませてくれます。

どの物語もスゴく良かったんですが、特に「十三年目の子守唄」は、主人公をはじめとする登場人物の心理描写が巧みで、クライマックスのどんでん返しから、爽やかなエンディングに至るまで、グイグイ引き込まれていく傑作だと思いました。

連城氏の最高傑作との呼び声高い「戻り川心中」も買ってあるので、じっくりと楽しませてもらいたいと思っています。

★★★★4つです。