「コーヤン流」の極意 中田功vs勝又清和 2006年 NHK杯戦

2024年01月06日 | 将棋・名局

 中田功のさばきと来たら、まったく官能的なのである。

 振り飛車のさばきといえば、まず最初に出てくるのは「さばきのアーティスト」こと久保利明九段だが、将棋界にはまだまだ腕に覚えのある達人というのはいるもの。

 中でも玄人の職人といえば「コーヤン」こと中田功八段にとどめを刺す。

 中田八段の得意とする「コーヤン流三間飛車」は、その独自性が過ぎるため、だれもマネできないと言われているが、そのさばきのエッセンスは見ているだけで楽しい。

 


 2006年NHK杯戦。中田功七段と勝又清和五段の一戦。

 ふだんは三間飛車のイメージがあるコーヤンだが、この日はゴキゲン中飛車を選択。

 勝又が▲36銀とくり出す急戦にすると、中田功も敵の銀2枚をあえて前線に引きつけて、強く反撃していく。

 力戦模様でゴチャゴチャやりあって、むかえたこの局面。

 

 

 

 先手の勝又が▲66桂と打ったところ。

 ▲54成銀ヒモをつけながら、▲74桂という美濃囲いの弱点であるコビンにねらいをさだめている。

 パッと見、ちょっと嫌な感じに見えるが、ここからコーヤンが、さわやかに相手をかわしていくのを見ていただきたい。

 

 

 

 

 

 △84角と出るのが、いかにも好感触のさばき。

 遊んでいたを好所に使いながら、逆に▲66に照準を合わせる。

 ▲74桂が一瞬怖いが、△92玉とでも逃げておいて、の突きこしも大きく、すぐにはつぶれない。

 先手もここで決まらないなら、桂を跳ねてしまうと成銀がブラになるし、のちのち△73歩とかで取り切られたりするとヒドイことになる。

 そこで▲64歩とここから手をつけていくが、後手はシンプルに△66角と切って、▲同金△54飛と取ってサッパリと指す。

 

 

 

 これで収まれば駒得の後手が指せそうだが、ここで先手にはねらいがあった。

 ▲63歩成として、△同銀▲41角が痛烈な一撃。

 

 

 

 教科書のような金銀両取りがかかって、一目先手必勝である。

 だがもちろん、これで投了などプロの将棋ではありえない。

 一連の手順は中田功の読み筋通りで、むしろ先手がハマリ形なのだ。

 私がこの将棋をおぼえているのは、ここで

 

 「なるほど、△32の金を取らせてさばくのが、プロの振り飛車か」

 

 なんて感心していたから。

 △52になにか受けて、▲32角成とソッポに行かせてから、△39角とか△84角とか反撃する。

 この呼吸が、振り飛車という戦法の醍醐味ではないか。

 じゃあ△52に打つのはか、ちょっと迷うかもなあ。

 てゆうかこういう金を取らせてさばく手を思いつくオレ様って、マジでセンスあるよなあ。強いわー。アーティストやん。

 なんて一人悦に入っていたのだが、スルドイ人はもうおわかりであろう。

 そう、そんな回りくどいことをしなくても、この両取りは最初から受かっているのだ。

 ヒントは先手玉の位置が……。

 

 

 

 

 

 △23角のレーザービームが、目もあざやかな切り返し。

 王手だから▲56歩と受けるしかないが、これで△32ヒモがついたから、両取りが受かっているどころか、△52銀打で打ったばかりのが死んでいる。

 私の言うように金をタダで取らせるより、こっちの方が、断然いいに決まっているではないか。

 以下、勝又は▲32角成と取って、△同角▲55銀とがんばるが、手持ち遊んでいる△32のを交換するようでは気持ちも萎える。

 △34飛▲35歩△46銀と捨てて、▲同銀△39角で一丁あがり。

 

 

 

 こんなきれいに、決まるもんなんですねえ。

 最後は△32にいたまで△14角と活用させて、先手陣を攻略。

 

 

 すべての駒が見事にさばけて、中田の快勝となった。

 自分が見えなかったから、よけいにそう思うのかもしれないけど、△23角とはカッコイイ手があったもんですねえ。

 


 (中田功の三間飛車編に続く)

 

 


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