「新山崎流」を撃破せよ 山崎隆之vs羽生善治 2009年 第57期王座戦 第3局 その1

2024年06月18日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。
 
 2009年の第57期王座戦

 挑戦者決定戦中川大輔七段を破りのタイトル戦登場を決めた山崎隆之七段
 
 王座戦18連覇(!)をねらう羽生善治王座(名人・棋聖・王将)相手に、初戦は山崎流の独創を見せるも完敗
 
 第2局勝ちの局面を作りながらも、終盤で一手バッタリのような手を指してしまい惜敗
 
 ここでは、長期戦にそなえてテンションを上げていた羽生が、拳のおろしどころがわからなかったか、山崎に当たりが強く、
 
 
 「羽生が怒っている」
 
 
 と話題になった一局だった。
 
 今期棋聖戦と同じく2連敗カド番に追いこまれたが、もうこうなったら開き直るしかない。
 
 先手の山崎はやはり初手▲26歩だが、羽生は初戦とちがって△34歩から横歩取りに誘導する。
 
 羽生がこの戦型を選んだ理由は、よくわかる。
 
 そう、対横歩取り「新山崎流」を受けて立つためだ。
 
 山崎隆之といえば、その「独創性」が売りであり、そのなかのひとつに当時は後手番の有力戦法だった
 
 
 「横歩取り 中座流△85飛車戦法」
 
 
 これへの対策があった。
 
 「」があるということは、まずはノーマル山崎流があるわけで、それがこちら。
 
 2000年新人王戦
 
 決勝北浜健介六段を破って優勝した山崎は、丸山忠久名人との記念対局に挑んだ。
 
  
 
 
 まあ、ふつうは▲87歩で、そこで△85飛と引くのが中座真八段発案の「中座飛車」だが、ここで先手が新構想を見せる。
 
 
 

 


 
 
 ▲33角成△同桂▲88銀
 
 ここで早々と、角交換をするのが「山崎流」の対策。
 
 続けて▲88銀と、を打たずにで守る。
 
 意味としては、この後の戦いで8筋を使いたいということ。
 
 具体的には後手の飛車に動けば、▲82歩桂取り
 
 △82飛△84飛と引けば▲83歩△同飛▲84歩のタタキと▲66角の筋を組み合わせて、指し手のがグンと広がるというわけなのだ。
 
 本譜は▲88銀以下、△84飛▲58玉△62銀▲48銀△51金

 そこで、▲23歩△同金▲82歩とねらい通りに8筋で攻めて、先手が快勝する。

 
 

 


 
 この「山崎流」は中座飛車に手を焼いていた居飛車等の中で大ヒットするが、流行戦法は足が速いのが宿命で、やがて指されなくなる。
 
 だが、山崎の創作意欲はおとろえることを知らず、その数年後には「新山崎流」なる新構想を用意していたのだった。
 
 それが、この図。
 
 
 
 
 居玉のまま、をくり出すというシンプルこの上ない形。
 
 ふつうは相手の得意戦法に飛びこむのは怖いところだが、好奇心旺盛で、オールラウンドプレーヤーでもある羽生にとっては自然な選択だろう。
 
 実際、谷川浩司九段もそのような予想を立てていたし、羽生からすれば大舞台最新型を戦えることに、胸を躍らせていたのかもしれない。

 以前、藤井猛九段がこんなことを言っていたことがある。

 


 「羽生さんは、タイトル戦の防衛戦を楽しみにしてるんじゃないかな」


 

 そのココロは、

 


 「だって、将棋が強くなる最良の方法は自分より強い人と指すことだけど、今の羽生さんにはそれがいない

 「だから、そのとき一番調子のいい人と戦えるタイトル戦の防衛戦は、羽生さんにとって、もっとも勉強になるから、うれしいんですよ」


 

 たしかこんな内容で、なるほどなーと思ったものだが、この「新山崎流」を正面から迎え撃つところなど、まさに藤井九段の言う通りなのかもしれない。  
 
 ここで後手は、△74歩からじっくり指すか、△86歩と合わせて、横歩をねらいに行くか。
 
 前例△74歩が多かったそうだが、こういうとき羽生は積極的な手を選ぶことが大半で、やはり△86歩と行った。
 
 ▲同歩△同飛▲35歩と、先手は飛車の横利きで横歩を守る。
 
 そこで△85飛と引いて、今度は伸びてきたをねらいにいくが、それには▲77桂(!)と跳ねて、△35飛▲25飛(!)。
 

 

 
 

 ここで飛車をぶつけるのが山崎のねらいで、いやあ激しい戦いですわ。
 
 △同飛▲同桂△15角▲23歩がきびしい反撃。
 
 
 
 
 
 
 ここまでは定跡手順のようなものだが、このタタキの対応は後手もむずかしい。
 
 形は△同銀だが、そこで▲65桂と跳ねるのが、すこぶるつきに味の良い手。

 

 

 空中戦で、角道を開けながらの桂跳ねは、これが指せれば負けても本望というくらいだ。

 ならば△同金はどうかだが、これにも▲24歩と打って、△同角▲65桂でやはり先手が気持ちいい。

 ▲23歩でもでも取りにくい。
 
 どうするのか注目だったが、なんと羽生はわずか1分で次の手を選んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 △33銀と、桂の利きに逃げるのが、おもしろい手。
 
 この手自体は研究会などで検討されていたそうだが、公式戦で登場するのは初めて
 
 ▲33同桂不成は後で△36桂の反撃が鬼だから、▲85飛にヒモをつけながら、▲81飛成を見せる。

 
 

 


 
 さすが、山崎はこういう将棋のスペシャリストで、これには羽生も、
 
 


 「この局面では一番いい手」



 
 
 と認めたが、それに対する応手がまた感嘆を呼んだ。

 

 (続く
 
 


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