「早石田」退治の名手 久保利明vs郷田真隆 2012年 第37期棋王戦 第2局 

2022年10月23日 | 将棋・名局

 「自分では絶対に思いつかない手」

 これを観ることができるのが、プロにかぎらず強い人の将棋を観戦する楽しみのひとつである。

 前回は「早石田」における、鈴木大介九段の斬新すぎる新手を紹介したが、それで思い出したのがもうひとつの将棋。

 

 2012年、第37期棋王第2局

 久保利明棋王郷田真隆九段の一戦。

 鈴木大介と並んで「振り飛車御三家」と呼ばれた久保が得意の石田流を選択すると、郷田は棋風通りそれを正面から受けて立つ。

 久保は▲76歩、△84歩、▲75歩、△85歩にすぐ▲74歩と行く「鈴木流」ではなく、一回▲48玉として、△62銀▲76飛△88角成、▲同銀、△22銀と進めてから▲74歩と突く。

 △同歩に▲55角と打ち、△73銀▲74飛と出る強い手は部分的には定跡形

 郷田は△64銀と迎え撃って、この局面。

 

 

 

 飛車がせまく、逃げ回っているようだと手に乗って押さえこまれそうだが、ここで久保にねらっていた手があった。

 

 

 

 

 

 

 ▲84飛とぶつけるのが、「さばきのアーティスト」ならぬ、ずいぶんとゴツイ頭突き

 △同飛の一手に▲22角成と飛びこむ。

 

 

 

 先手はができているうえに、自陣は飛車の打ちこみに強く、桂香を回収して駒損を回復できれば指せそうに見える。

 久保が一本取ったかに見えたが、これは実が無理筋だった。

 といっても、それはここからの後手の指しまわしが見事だったからで、そうでなければ充分成立していたかもしれない。ここは郷田をほめるべきだろう。

 ▲22角成には一回△44角と合わせて、▲同馬、△同歩に▲22角ともう一度打ちこむ。

 そこで、△86歩と方向転換。▲同歩に、やはり佐藤康光棋聖と同じく△12飛と打つ。

 

 

 

 ▲44角成が切れた筋に、△46歩と頭からこじ開けていくのが、後手のねらいだった。

 

 

 

 

 

 ▲同歩と取るが、△86飛が次に△46飛王手馬取りを見て、すこぶる気持ちの良い手。

 それはたまらんと△86飛に▲77馬と引くが、幸便に△46飛王手して、▲47歩△42飛と大駒を敵玉頭の急所に格納。

 

 

 「さばきのアーティスト」のお株をうばう、見事な空中アクロバットだ。

 ▲95馬の王手に△73歩と受け、▲58金△35歩▲77桂△32飛コビンにも大砲のねらいをつけて、これではいかにねばり強さが身上の久保棋王でも、いかんともしがたい。

 

 以下、▲66歩△36歩▲同歩△46歩から気持ちよく攻めて後手快勝

 その勢いで一気に棋王位奪取するのだが、乱戦ねらいの大暴れを、しっかり受け止めた郷田の強さが、光った一局であった。

 

 (久保利明の石田流からの珍型編に続く)

 

 ■おまけ

 (郷田の振り飛車退治の名手はこちらから)

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

 


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