レバノン系オランダ人に「アムステルダムで寿司職人にならないか」と誘われる その2

2017年03月25日 | 海外旅行
 前回(→こちら)の続き。

 「アムステルダムに着いたら、オレのすし屋で働かないか」。

 ヨーロッパで乗った深夜バスで、レバノン系オランダ人に誘われた私。

 なんともわけがわからないが、とりあえず話を聞いてみると、彼はオランダ在住でレバノンに里帰りしていたのだが、アムスに戻ると新規でビジネスをはじめるという。

 まず皮切りにアムステルダムで「スシ・バー」をはじめるそうな。そこで働かないかとスカウトされたのだ。

 スシが世界で人気の日本食となって久しいが、いきなりそんなことを言われてビックリである。

 自分はオランダ語がしゃべれないどころか、そもそもスシなど握れないとうったえると、レバノン系は、

 「問題ない、スシはオレが握るから大丈夫」。

 そう請け合うのだった。若いころ日本に行ったこともあって、そこで少し習ったらしい。

 ではなぜ私が必要なのか。自分で握って、店員にはオランダ人を雇えばいいではないかと問うならば、レバノン系は苦笑しながら、

 「それがそうもいかんのや。だって、寿司いうたら日本の食べ物やろ? レバノン人の握ったもんなんて、これがあんまり、よろこばれへんから不思議やなあ」。

 うーむ、なるほど。

 たしかに「本格タイ料理の店」と看板が出ているところで、店員が全員ナイジェリア人だったりしたら興ざめというか、なんでやねんであろう。

 まあ、外国には結構そういうアバウトな店というのがあり、韓国人のやっている日本料理屋とか、アメリカ人がやってるタコス屋台とか、パキスタン人がやってるインドカレーの店とか、中には「アフリカン・レストラン」とか、それだからどこの国や! といいたくなるくらいに適当なのもあったりする。

 そこは日本も、日本人がやってる中華屋とか焼肉屋がふつうだから、人のことは言えないかもしれないけど、それにしたって、日本と中韓とかタイとカンボジアとかなら、まだいろいろ「近い」からわからなくもない。

 けど、オランダでレバノンで寿司といえば、これはもうどう見たって意味不明であろう。バッタもん臭さが半端ではない。

 「だから、お前を雇って、そういう体にして店をやっていこうと思ってるんだ」

 なるほど、一見私がと見せかけて客を入れて、その実ウラではレバノン系が握る。

 まあ、ちゃんと修行した彼がやるなら問題なさそうだし、「日本人がにぎる」とはどこにも書いてないから、詐欺でもない。

 じゃあ、私はなにをすればいいのかと問うならば、

 「適当に店内をウロウロしておいてくれ」。

 要は店のインテリアみたいなもんである。

 三谷幸喜さんのドラマ『王様のレストラン』で、

 「それっぽい雰囲気が出るから」

 という理由で、料理も日本語もできないフランス人をレストランで雇っているというギャグがあったが、それと同じであろう。

 さらに言うことには、言葉については、オランダ人は英語が得意だから問題ない。英語もできなくて困るなら、なにかあったら適当に

 「ドスコイ、ドスコイ」

 とでもいってごまかしてくれればいい、などとわけのわからないコンセプトを示された。

 そんなことでお客さんが納得するんだろうかと思ったが、案外それで通用しそうな気もして、日本人としてそこは深入りするのはやめておいた。

 提示されたお給料も悪くなく、住むところも斡旋してくれるというのでかなり魅力的ではあったが、迷った末に断ることとなった。

 やはり私は旅行を楽しみたかったし、ビザのこととかめんどくさそうだし、なによりトラブルがあったときに語学力の心配もあった。

 この話をすると、学生さんとか普通の旅行者の多くは

 「それは断って正解ですよ。あやしすぎます」

 というのだが、バックパッカーや、学生でも昔の私のようなボーッとしたボンクラ青年たちは口をそろえて、

 「もったいない、ボクだったら働きますけどねえ」。

 うーん、そうかなあ。そういわれると、もったいなかったような気もしてきた。

 彼らのうち何人かはオランダにも行く予定だったそうなので、案外今ごろレバノン系の店で、楽しく働いてるかもしれない、あードスコイドスコイ。




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