「アムステルダムに着いたら、オレのすし屋で働かないか」。
レバノン系オランダ人に、そんな誘いを受けたのは、ヨーロッパで乗った夜行バスの中のことであった。
人はときに、思いもかけないスカウトを受けたりすることがある。
街で芸能事務所に誘われるとか、逆ナンされたと思ったら宗教の勧誘とか、イルカの絵を買わされそうになったりと様々だが、たとえば友人テンジン君は、大阪の難波や神戸の三宮といった繁華街を歩いていると、しょっちゅう黒服を着たお兄さんに、
「ウチの店で働かないか」
そう声をかけられるという。
ありていにいえば、キャバクラや風俗店からなのだが、彼の場合「いい娘いるよ」という遊びの勧誘ではなく、「ウチで働け」という、職業的ヘッドハンティングなのであった。
あまりにも頻繁に声をかけられるので、不思議に思った彼は、ある日スカウトマンに思い切って
「なんでボクに声かけたんですか。こういうの、ホンマにようあるんですよ」
とたずねると、
「あー、やっぱりそうか。うん、キミにはね、風俗店店員のオーラが出ているんや」
こんな返事が返ってきたそうだ。
スカウトマンに言わせると、
「キミは水商売の女の子の相手がうまそうだから、きっといい仕事ができるよ。プロなら、適性は一目でわかるからね。絶対に才能があるよ」
たしかに彼自身、そういった夜のお店は好きだし、女性の、なべても水商売系の女性のあつかいは上手でモテもするのだが、そういった店の店員の才能があると、さわやかにいわれても困る話であろう。
まあプロが、それもランダムに接する、けっこうな数のそれが言うのだから、それなりに説得力はあり、一応はまっとうなサラリーマンであるテンジン君も、
「リストラにあったら、ちょっと考えてみようかな」
といって笑っていたものだ。
かくのごとく、スカウトの種はどこに転がっているかわからないものだが、私の場合これが「オランダのすし屋」だから、テンジン君に負けずおとらずアクロバティックである。
あらかじめ言っておくが、私は寿司の修行などしたことはなどころか、寿司屋でバイト経験すらない。食べる方も回る専門だ。
見た目は眼鏡の文化系で、江戸っ子的要素はない。そもそも料理も下手で、自分のにぎったものがまともな商品になるとも思えない。『将太の寿司』はおもしろいけど、あんな人情もないドライなタイプだ。そんな奴の寿司、だれが食うねんと。
しかも、オーナーがオランダ人。おまけにレバノン系。なにかこう、全体的にツッコミどころが多いというか、はっきいりいって怪しさが渋滞しているではないか。
(続く→こちら)
レバノン系オランダ人に、そんな誘いを受けたのは、ヨーロッパで乗った夜行バスの中のことであった。
人はときに、思いもかけないスカウトを受けたりすることがある。
街で芸能事務所に誘われるとか、逆ナンされたと思ったら宗教の勧誘とか、イルカの絵を買わされそうになったりと様々だが、たとえば友人テンジン君は、大阪の難波や神戸の三宮といった繁華街を歩いていると、しょっちゅう黒服を着たお兄さんに、
「ウチの店で働かないか」
そう声をかけられるという。
ありていにいえば、キャバクラや風俗店からなのだが、彼の場合「いい娘いるよ」という遊びの勧誘ではなく、「ウチで働け」という、職業的ヘッドハンティングなのであった。
あまりにも頻繁に声をかけられるので、不思議に思った彼は、ある日スカウトマンに思い切って
「なんでボクに声かけたんですか。こういうの、ホンマにようあるんですよ」
とたずねると、
「あー、やっぱりそうか。うん、キミにはね、風俗店店員のオーラが出ているんや」
こんな返事が返ってきたそうだ。
スカウトマンに言わせると、
「キミは水商売の女の子の相手がうまそうだから、きっといい仕事ができるよ。プロなら、適性は一目でわかるからね。絶対に才能があるよ」
たしかに彼自身、そういった夜のお店は好きだし、女性の、なべても水商売系の女性のあつかいは上手でモテもするのだが、そういった店の店員の才能があると、さわやかにいわれても困る話であろう。
まあプロが、それもランダムに接する、けっこうな数のそれが言うのだから、それなりに説得力はあり、一応はまっとうなサラリーマンであるテンジン君も、
「リストラにあったら、ちょっと考えてみようかな」
といって笑っていたものだ。
かくのごとく、スカウトの種はどこに転がっているかわからないものだが、私の場合これが「オランダのすし屋」だから、テンジン君に負けずおとらずアクロバティックである。
あらかじめ言っておくが、私は寿司の修行などしたことはなどころか、寿司屋でバイト経験すらない。食べる方も回る専門だ。
見た目は眼鏡の文化系で、江戸っ子的要素はない。そもそも料理も下手で、自分のにぎったものがまともな商品になるとも思えない。『将太の寿司』はおもしろいけど、あんな人情もないドライなタイプだ。そんな奴の寿司、だれが食うねんと。
しかも、オーナーがオランダ人。おまけにレバノン系。なにかこう、全体的にツッコミどころが多いというか、はっきいりいって怪しさが渋滞しているではないか。
(続く→こちら)