「天才」ではないかと思わされる人に、ときおり逢うことがある。
スポーツや芸術でその才を発揮する人というのは学校や社会人になってからでも出会う機会はあるが、私が中でも印象に残っているのは、コミコちゃんという女の子。
彼女は「数学の天才」だったかもしれない。
しれない、と歯切れが悪いのは、本当に「天才」なのかは私の能力値ではよくわからなかったから。
天才かもしれないし、紙一重のアレかもしれない。
コミコちゃんと出会ったのはパリのユースホステルであった。
某有名国立大学に通っているという才女で、数学を学んでいるという。
そんな彼女と、お茶を飲みながら談笑していると、話題は自然、数学のことになった。
なんといっても私はといえば、数学は高2の時から卒業まで、テストはすべて0点というとんでもない落ちこぼれ。
3年の時には、授業に出席すらしなかった怒涛の理系劣等生だ。
文系人間はけっこう、数学や物理など理系科目にコンプレックスがある人がいるが、私などそこまで勉強していないと、逆に能天気なもので、たいした引け目もない。
むしろ、積極的に未知の世界に飛び込むつもりで、彼女の話を聞いていたものだ。
「でさあ、フェルマーの定理って、どうやって解くの? ちょっとここの紙ナプキンに書いてみて」
などと、無知の勢いで素人丸出しなことをたずねたりしたが、ひとしきり盛り上がったのちに、彼女が突然こんなことを訊いてきたのだった。
「ところでシャロンさん、『7+5』っていくつになるかと思いますか?」
はあ?
おいおい、なにをいっておるのか。
いくら私が数学どん底落ちこぼれ兄さんだとしても、そんなもんわからないわけがないではないか。
答は12である。
こりゃ、相当バカに見られているらしいぞと笑いそうになったが、彼女の表情を見ていると、どうもそういうことでもないらしい。
コミコちゃんは真剣な様子で
「ですよね、そうなんです。12なんですよ」
そう、だれがどう見たって12である。
が、続けて出た言葉というのが、
「でも、あたし、時々ふと考えるんです。7+5って、もしかしたら12にならないんじゃないかって」。
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