前回(→こちら)の続き。
「仕事の話は、すべて英語ですること」
楽天やユニクロが、社員にそのようなことを義務づけたというニュースに、
「別に英語じゃなくてもいいじゃん」
反感をおぼえる「チーム第二外国語」の私。
世界共通語はあったら便利だけど、英語がそれだと不公平感が強すぎるよなあと考えるわけだ。
これには テレビ番組「クレイジージャーニー」にも出演した高野秀行さんも同じ感想をいだいておられて、そのブログでこんな提案をされていた。
「(英語の代わりに)コンゴの共通語リンガラ語はどうだろう」
リンガラ語。
さすがは「辺境作家」として、アジアやアフリカなど世界を駆けめぐる高野さんである。おもしろい提案だ。
コンゴといえば高野さんの名著『幻獣ムベンベを追え』の舞台だが、高野さんはちゃんと出発前にリンガラ語を学習してから現地におもむいている。
ではなぜリンガラ語なのかといえば、
「覚えやすくてノリがいい」
さらにつけ加えることには、
「それに英語ネイティブや昔英語圏に住んでたってだけで威張るやつもいなくなるし」
ここだよなあ。
私や高野さんだけでなく、たとえばロシア語の米原万理さんみたいな非英語圏を主戦場とする「チーム第二外国語」が「英語=共通語」になんかおもしろくないと感じるのは、先ほどもいったこの
「言語的既得権」
ここがひっかかるのだ。
もう一度言うけど、いっちゃあ悪いが、英語なんて別にすぐれた言葉でもなければ、日本人が感じるように「しゃべれるとカッコイイ」言葉でもない(カッコイイとしたら「タイ語」や「スワヒリ語」をしゃべれるやつだってカッコイイ)。
ただの、「イギリス人とかの言葉」なのである。
けど、外国人と話していると、ときおり英語ネイティブの傲慢さに、本当にガッカリさせられることがある。
英語が出来ない人を、露骨にバカにしたり(そら、あんたは英語圏に生まれたから英語しゃべれるだけや)、英語なぞ縁もゆかりもない地域でも、かたくなに英語で押し通し、通じないと「なんでだ?」とあきれたような顔をする。
「なぜ外国人(移民)は英語が苦手なのか」
というアンケートがアメリカで行われた際に、多くの人が、
「頭が悪いから」
と答えたと、ある語学の本に載っていたのを読んだことがあるが、なにをかいわんやである。
英語だろうがフランス語だろうが、通じないところでは通じない。だって、よそさんからしたら「外国語」だもの。
外国人や移民が英語が苦手なのは、フィンランド人以外の人間がフィンランド語を苦手なのと同じなんだって。「外国語」だから。
そのことをわからない人とまれに接すると、心底なえる。
日本が大東亜戦争に勝っていた世界を想像したとして、そこで日本人がアジアや南の島なんかで、なんでもかんでも日本語で押し通し、
「なんで、日本語通じないの?」
と言ったり、
「こいつらはバカだから、日本語も話せないんだ」
とか言ったりしたら、どう思われます? それみたいなもんです。
もちろん、悪気がないケースもあるんだけど、悪気がない分よけい傲慢ともいえる。
なので、高野さんの「世界語をリンガラ語に」というのは、極論ではあるが、英語帝国主義へのアンチテーゼとも言えるのである。私は大賛成だ。
高野さんは、
「リンガラ語がだめなら、マレー語やインドネシア語もおすすめ」
とも言っておられるが、先日ここで取り上げた東京外国語大学の学生さんである「知の師匠」キタハマ君(彼については→こちらから)も、
「マレー語って、すごくシンプルで学びやすいんですよ。英語みたいな学習しにくい言葉より、マレー語を共通語にしたらいいのに」
同じことを言っていた。高野さんの極論は、ただの極論ではないのである。
英語だけでなく、マレー語、インドネシア語、オランダ語なども駆使するキタハマ君もまた、
「英語ばっかなんて、おかしいですよ。世界には、魅力的な言語がいくらでもあるのに」
やはり英語帝国主義に首をかしげていた。私のようなボンクラではなく、彼のようなスペシャリストが語ってくれると、説得力も増すというものだ。
ちなみに、キタハマ君をはじめ、高野さんはリンガラ語以外にも英語やフランス語に、その他各種の言語をマスターしているし、米原さんをはじめ「第二外国語」を仕事にしている人もたいていは英語ができるため、これは決して、
「英語コンプレックス」
からの逆ギレではない。
そんなわけで私としては相当に本気で、
「世界の企業は全員リンガラ語(もしくはマレー語かインドネシア語)で」
という「世界マイナー言語化計画」には賛成している。
なんてことで、今回の結論はこれでいいかとまとめかけたのだが、いやいや世の中にはさらなるアイデアを持っている人というのがいるものである。
それがミュージシャンで芥川賞作家の町田康さん。
町田さんは世界言語についても一家言持っておられて、これが高野さんに匹敵するくらいに気ちが……もといユニークなのだ。
その提案というのは……。
(さらに続く→こちら)