「今日は暖かいね、あん」と私は愛犬あんに声を掛け、多摩川まで春の陽射しが潤いだした風を浴び、散歩に行った。
「今日は多摩川に行こう」と言うと、あんはちゃんとそれが分かり、多摩川までの道をトコトコと歩き出す、その後ろ姿を眺めながら、もうあんが家に来てから八年になるが、今もなお、あんが来てくれて良かったとしみじみと思った。
多摩川にも春の風が吹いていた、水色の小さな花が咲き始め、その傍にはヨモギの子供が顔を出していた、昔、ばぁーちゃんが草餅を作るのに、このヨモギを良く取っていたな、と思い出し懐かしく、それを眺めた。
だが、突然の出来事だった。
いや、突然ではなかったかも知れない、お腹が何かを語り始めた。
いやいや、私はその声は聞きたくないと思った。
お腹はグルグルと言い始めた。
「待て、今じゃない、家まで持つのか、持たないのか?」
「グルグル、グルグル、どうだろうね、でも、始まったよ・・・そろそろだよ」
「いやいや、待て、待てよ」
「あそこにトイレがあるじゃないか」
「そうだけど、そうだけど、あんもいるし、出来たら家が良い」
こんなおじさんになってから漏らしながら家に帰ることになったら、それはたいへんだと思いながら、私はお腹の声に言い聞かされ、トイレに向かった。
「でも、待てよ。トイレットペーパーがなかったら、それこそ、絶体絶命だ」
「良いじゃないか、葉っぱがそこら中にあるじゃないか」
あらゆる可能性を考慮し、対処出来るような心構えをして、のんびりと楽しそうに辺りをクンクンしている、あんに「緊急事態だ、トイレに行く」と言い、小走りにトイレに向かった。
多摩川にあんと来てから辺りには誰も見えず、それは確実にトイレが誰も使っていないだろうことは分かったいた、後はトイレットペーパーがあるかないかの問題だった。
油断を許さない状態になっていた。
急いでトイレの前まで行き、近くの小さな木にあんのリードを繋ぎ、「あん、待ってって」と言い、願いを込めながら、トイレのドアノブを右に回した。
「良かった!あった!」と呟き、心のなかでも「あぁ、怖かった・・・」と安堵のうちに呟いた。
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