渓流の音に雨添ふ田植かな (渡辺 水巴) 田んぼの水が空の色を映すみずみずしい季節。整然とならぶ若苗を眺めていて、ふとひらめいたことがある。それは、これは蚊絣のきものと同じ景色だ。蚊絣って、この田んぼの景色の写しなんだ、ということ。 ずいぶん唐突な思いつきだったけれど、それから精緻な蚊絣のきものを見るたび、どうしてもこの田んぼの景色と重なってしまう。蚊絣をさいしょに織った偉大な人も、絣の技法を継ぎ展開してきた人たちや身にまとってきた人たちも、もちろんそんなことを考えなかったろう。でも、その無意識の底流に、きっとこの景色があったはず。 ‥そう思わずにいられない。 |
微細な藍の薩摩絣。 人はこれを“技術”というけれど、“無意識に湧出するもの”ととらえたら、これこそこの国の個性であり、文化なのだとおもう。 |