小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

ウクライナ紛争で、日本が対ロ制裁を強化することは、国益上プラスかマイナスか。(前)

2014-07-31 06:17:35 | Weblog
 思わず、笑ってしまった。テレビを見ながら声を出して…。そして、怒りが込み上げてきた。
 見たテレビの番組は、NHKのニュース7である。ニュースの内容は、ウクライナ問題で、欧米がロシアへの経済制裁の強化に踏み切り、日本も同調することを菅官房長官が記者会見で発表したことについてである。
 なぜ、腹の底から笑ってしまったのか。読者の予断を避けるため、NHKオンラインから報道記事の主要な部分を転載する。なお菅官房長官の発言部分はカットされていた。

 ウクライナ情勢を巡り、EU=ヨーロッパ連合とアメリカが連携してロシアへの大規模な追加制裁を発表したことを受けて、ロシア中央銀行は、制裁の対象となった政府系銀行への支援を打ち出しましたが、経済への影響は避けられない見通しです。(中略)
 EU=ヨーロッパ連合のファンロンパイ大統領らが、制裁の合意に当たって発表した声明では、「ウクライナを不安定化させることは、ロシアの経済にとって、大きな代償を伴うことを、ロシア指導部に強力に示すものとなる」として、ロシアに強く警告を発しています。EU各国は、ロシアとの経済的な結びつきが強いため、これまで経済制裁には、慎重な立場を示してきました。
 今回の合意に向けては、ロシア経済に大きな影響を与えるため、ロシアの基幹産業にかかわる金融、防衛、エネルギーの3つの分野で、制裁を科すことにしましたが、その中身については、EU経済への影響を抑えるよう慎重に検討が行われました。
 このうち金融分野では、ロシアの政府系銀行が、ヨーロッパの市場から新たに資金調達することができなくなるため、欧米の金融市場に大きく依存しているロシア経済にとって、痛手となることが予想されています。
 一方、エネルギー分野では、深海の掘削技術や北極海での油田開発など、主に石油産業への先端技術の供与を制限していますが、EUにとってロシアへの依存度が高い天然ガスの取引については、制裁の対象から外されました。
 また、今回の制裁では、ロシアとの武器の取引も制限されていますが、対象となるのは、今後、新たに結ばれる契約で、3年前にフランスがロシアと結んだ強襲揚陸艦2隻を売却する契約については、対象になりませんでした。

 私が思わず声を出して笑ってしまったのは、制裁対象から除外された「天然ガスの取引」とフランスの「強襲揚陸艦売却契約」である。なんと、ご都合主義的な「制裁」か。こんな制裁を国際社会が「正義」と認めるとでも思っているのだろうか。
 マレーシアの民間航空機の「誤撃墜」は、すでにウクライナ東部の反政府過
激派グループによるものであることは明らかになっている。フライトレコーダーも過激派グループから国際調査団に提供されている。
 私は、メディアが「親ロシア派」と位置付けている過激派集団について、「反政府過激派グループ」(「集団」でもいい)と書いた理由を述べておく。
 ウクライナ全土で投票が行われた大統領選挙でポロシェンコ現政権が誕生した。大統領選挙は正常に行われ、親ロシア派の国民が選挙をボイコットしたかどうかは分からないが、少なくとも選挙妨害を行ったという報道はされていない。ロシアのプーチン政権も、ウクライナの新政権を承認している。
 ウクライナで新政権が誕生する前の紛争は、まぎれもなく「親欧米派vs親ロシア派」だった。そもそもメディアは当初、この対立を「暫定政権vs親ロシア派」と位置付けていた。私がブログでも書き、主なメディアにも、そういう対立軸で紛争を位置付けるのはおかしいと主張し、メディアは私の主張を受け入れて「親欧米派vs親ロシア派」と対立構造を位置付け直した。
 ウクライナに国際社会が承認する新政権が誕生した以上、その政府の政策であるEUへの加盟はウクライナの国民が選択した道であり、ロシアもそのことは承認している。その瞬間から、対立構造は「親欧米派vs親ロシア派」ではなく「新政権(あるいは新政府)vs反政府過激派」に変わった。そう理解するのが、ウクライナ情勢のフェアな認識方法である。
 そのことを踏まえ、ポロシェンコ大統領も国内の軍事紛争を打開するため、一時的な攻撃停止を軍に命じた。そのうえで、東部2州には大幅な自治権を与えることも提案した。また、過激派に対する制裁も極力行わないとまで譲歩の姿勢を見せていた。
 が、反政府過激派は、ウクライナからの分離独立を要求して一歩も引かない姿勢を崩さなかった。彼らの多くはロシア系民族のようだが、ロシアのプーチン政権にとっては「鬼っこ」になってしまった。クリミア自治共和国が住民投票でウクライナから分離独立して、ロシアに編入したことについては、もはや既成事実として欧米も黙認している。ロシアにとっても、これ以上欧米との対立は回避したいはずだ。
 またウクライナは鉄鋼などの重工業を基幹産業としている国であり、産業を支えるエネルギー源である天然ガスはロシアに依存している。そうした事情から、ポロシェンコ大統領も、EUへの加盟は表明したが、ロシアとの友好関係は継続したいとプーチン大統領との会談を希望していた。プーチン大統領もポロシェンコ大統領との話し合いには前向きだった。
 が、ウクライナとロシアの関係が一気に悪化したのは、実は東部の反政府過激派の軍事的抵抗ではない。ウクライナがロシアの勢力圏にとどまっていた時代までは、ウクライナへの天然ガスの供給は、国際市場価格の約半値で提供するという最恵国待遇を行ってきた。またロシアの天然ガスのヨーロッパへの供給のためのパイプラインはウクライナ国土に敷設されている。そのため、ウクライナの企業による「盗み」の疑いが前々から指摘されていた。
 そうした経緯もあってロシアはウクライナへの天然ガス供給について、それまでの最恵国待遇を中止し、国際相場価格に引き上げることと、それまでの未払い分を支払うまでウクライナへの天然ガスの供給をストップすると宣言した。こうして発足したばかりのポロシェンコ政権は、たちまち窮地に立たされることになる。ロシアへの対抗策として反政府過激派への攻撃も再開し、ウクライナ紛争は泥沼化していった。
 そうした中で生じたのが、マレーシア機に対する反政府過激派の「誤爆撃」だった。航空機には軍用機か民間機化の識別装置が必ず搭載されており、プロの軍隊だったら「誤爆撃」など絶対にしない。正規のロシア軍の行為でないことは明らかだ。ただプーチン大統領にとっては、この反政府過激派の行動はまったくの誤算だったと言えよう。だが、「鬼っこ」みたいにロシアによる制御不可能な状態になっている反政府過激派の行動に対して、親の言うことを聞かない子どもを叱るように、お灸をすえるくらいのことはすべきだったと思う。
 EUも、本音はロシアとあまり事を構えたくなかったと思う。実際、対ロシア制裁も、私が思わず笑ってしまったように、「そんな勝手な話はないだろう」というものだ。EU諸国にとって必要不可欠なロシアの天然ガスは従来通り供給してもらいたい、フランスが建造中の軍用船のロシア売却は契約通り進める。そんな自分勝手な「制裁」行為が、ウクライナ紛争に利害関係のない国から笑いものになるのは当然だろう。
 そういえば、日本もウクライナ紛争とは利害関係がないはずだ。なぜ欧米による「対ロ制裁」を笑わず、同一歩調をとるのか。果たして日本が対ロ制裁を強化することは、日本の国益(安全保障と北方領土問題の解決、ロシア東部の眠れる資源開発に技術的・経済的に協力することで得られるものなど)にとって、どういう意味を持つのか。
 今日はこれから出かけなければならないので、続きは明日書く。読者も日本の対ロ制裁強化は、国益上プラスになるのかマイナスになるのか、明日までに考えたおいてほしい。