小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

誤報を訂正しないNHKは公共メディアと言えるか?

2021-05-27 00:53:08 | Weblog
メディアにとって「誤報」はつきものである。なぜ「つきもの」か。
まず「誤報」と「ねつ造記事」とは天と地ほどの違いがあることをご理解いただきたい。「誤報」は意図せざるケアレス・ミスによって生じる。人間のやることだから、ある程度は仕方がない。
が、「ねつ造」は、明らかに何らかの意図(多くは政治的意図)によってつくられる。「ねつ造」かどうかを見極めることは難しい。明らかなでっち上げは最も悪質な「ねつ造」であり、まず大手メディアが手を染めることはない。
たとえば、いま東京オリ・パラ開催を巡って世論が大きく分かれている。が、開催派は少数であり、中止・延期派があらゆるメディアの世論調査でも明らかに多数である。そういう場合、例えば政府筋が開催すべきか否かの公聴会を開いたとしよう。当然両論が飛び交う。その公聴会についてメディアが報道する場合、政府側の主張だけを取り上げ、最後に「反対の意見もありました」と報道した場合、私は「ねつ造報道」と解釈する。NHKの報道姿勢を検証する。

●私は何度も「誤報訂正」を要求したが…。
まず単純なケアレス・ミスによる「誤報」についてのNHKの対応である。ケアレス・ミスと私は考えているから、何らかの政治的意図が働いたとは考えていない。誤報は5月24日のNHK『ニュース7』の冒頭報道で生じた。
いまコロナワクチン接種は高齢者レベルに入っている。が、優先接種に対象である「医療従事者等」の接種もまだ終了していない。このワクチン接種の遅れを報じたのが24日のNHKだ。当日の『ニュース7』の冒頭で、NHKはこう報じた。
「約480万人の医療従事者のうち1回目の接種を受けた割合は82.6%、2回目の接種を受けた人は51.5%にとどまっている」
これが実は誤報なのだ。まず優先接種の対象は「医療従事者」ではなく「医療従事者等」である。厚労省が名で「医療従事者」ではなく「医療従事者等」としたのか。私は4月19日付ブログ『コロナワクチン問題で厚労省にコケにされたメディアの無能を追及する』で、厚労省が優先接種の対象者に「等」を付け加えたのかを明らかにし、NHK、朝日、読売には伝えた。その後、NHKだけが報道番組で「医療従事者など」と報道するようになったが、なぜ「など」を付け加えることにしたかの説明は一切ない。そこには、明らかに政治的意図が働いていると考えられる。
ただ24日の『ニュース7』で「など」を付け加えなかった理由は分からない。とくに政治的意図を働かせなければならないようなニュースではないから、アナウンサーの思い込みによるケアレス・ミスだったと私は思っている。
問題は接種率が誤報だったことである。私は翌25日の午後3時半ごろNHKふれあいセンターのコミュニケーター(窓口担当者)にそのことを伝え、直ちに誤報の訂正をしてほしいと頼んだ。が、その日の『ニュース7』では誤報の訂正は行われなかった。そのためスーパーバイザーに「なぜ誤報の訂正をしなかったのか」と電話した。スーパーバイザーは「現場には伝えています。訂正の必要なしと現場が判断したのではないでしょうか」と答えた。
NHKの報道現場にはそんな権限はない。現に、森友学園問題を事実上最初にキャッチしたのはNHKの相澤冬樹記者だった。が、相澤記者のスクープ報道は上層部の指示によって握りつぶされ、相澤氏は閑職に左遷された。氏はNHKを退職し、いまは大阪日日新聞の記者兼編集局長として自死した赤木俊夫・元財務省近畿財務局職員の妻が、国と公文書改ざんを命じたとされる佐川宣寿・理財局長を相手取って起こしている訴訟の相談相手にもなっているという。
相澤氏がつかんだ特ダネを政治的配慮によって潰した件を考えても、現場の判断で誤報を握りつぶすようなことができるわけがない。おそらく報道局長の判断だと私は思っている。
さらに26日にも再度、誤報訂正を要求したが、無視された。
さてどこが誤報だったのか。
じつは最新の「医療従事者等」の接種数は厚労省ではなく首相官邸のホームページに記載されている。24日の時点では21日までの接種者数しか公表されていず。その日の公表データはこうだ。
1回目の接種者数:3,965,411人
2回目の接種者数:2,472,976人
これらの接種者数が分子で、優先接種対象者数が分母にして百分率(接種率)が計算できる。分母の優先接種対象者数をNHKは480万人として計算した。そうすると接種率は1回目が82.6%、2回目が51.5%となる。この計算自体は間違っていない。
が、実際の優先接種対象者数は480万人ではなく470万人なのだ。で、分母を470万人にして接種率を計算すると、1回目は84.37$、2回目は52.61%となる。明らかにNHKの誤報である。私がウソをついていると思われたら、厚労省でも厚労省ワクチンコールセンターにでも確認してもらいたい。私が間違えていたら、首をつって自死する。

●なぜNHKは横浜IR誘致の応援団になったのか?
いま横浜市民はカジノを含むIR誘致を巡って意見が二分している。東京オリンピックの開催を巡って国民の意見が二分しているのと同じ状況だ。
いま元日弁連会長の宇都宮健児氏がオリンピック中止のオンライン署名活動を行っていて、25日現在、38万7000票を超えたという。が、この署名活動で何票集めようと、はっきり言って何の意味もない。法的拘束力がまったくないからだ。
一方、横浜市では住民投票を求める署名活動を行った。この署名活動は選管に届け出て、署名集めも受任者としての資格を与えられた人しか行えない。そのうえ受任者は自分が住んでいる区内でしか署名集めはできず、また署名自体も自分の住民票がある区の署名以外は無効になる。そのくらい法的拘束力のある署名は厳格なのだ。
その署名は最終的に193,193票に達し、法定数の3倍を超えた。が、実際に住民投票に持ち込むには横浜市議会での議決が必要で、林市長は「住民投票が行われた場合、市民の意思に従う」と公言していた。が、実際に法定数をはるかに上回る票が集まったことから、市議会に上程するに際して「住民投票を実施することには意義を見出しがたい」との意見を付し、市議会で住民投票の実施を否決した、
この横浜市民を二分するカジノを含み誘致問題を2月6日、NHKが、当日横浜市が行ったオンライン説明会を報道した。その中でNHKは一方的に市の説明を代理報道し、最後に「一方、カジノ誘致に反対する意見も寄せられました」とアリバイつくりのひと言をアナウンスしただけだった。
なお、このNHKの報道姿勢については翌2月7日のブログ『とうとうNHKは横浜カジノの応援団に堕した』で告発し、公正さに欠ける報道としてBPO (放送倫理・番組向上機構)に告発した。
このケースは明らかに政治的意図を持った悪質な報道であり、私は「ねつ造報道」と位置付けている。
なぜなら、例えば東京都が主催して「オリンピック開催についてのオンライン説明会」を行ったとして、推進側の主張にほぼ報道内容のすべてを割き、最後に一言「一方、オリンピック開催に反対する意見も寄せられました」と報道するのと同じだからだ。あたかもカジノに賛成する人、オリンピックに賛成する人の方が圧倒的多数を占めているかのような報道姿勢だからだ。


【追記】NHKふれあいセンターに何度も通告しているにもかかわらず、今日27日の『ニュース7』でもNHKは誤報の訂正をしなかった。ふれあいセンターは私の主張をフェアに理解してくれている。ふれあいセンターは私の「誤報の指摘」を理解し、報道局に伝えているという。
NHKの報道局が腐りきっていることは、森友学園問題をスクープした相澤冬樹記者の記事を握りつぶし、あまつさえ記者職を外したことは今回のブログでも書いた。だから、NHKに記者は必要ない、通信社が配信する記事をアナウンサーが読み上げるだけで十分、とブログで書いたことさえある。
が、せめてケアレス・ミスの報道を私から指摘され、すでに報道局は厚労省に事実を確認しているはずだ。私は「私が間違っていたら首をくくる」とまで書いた絶対自信のある事実だ。厚労省に何回も確認しているからだ。
NHKの記者がケアレス・ミスを犯した事情は理解できないでもない。政府は最初、優先接種の対象「医療従事者等」の人数について480万人と公表していたからだ。だから私も前に書いたブログ記事では480万人としていた。が、その後、その人数が470万人に減った。減った理由についても私は何度も厚労省に問い合わせたが、教えてもらえなかった。
これは私の推測だが、メディアとくに民放がワクチンの副作用について国民の不安感を煽るような報道をしていたため、いったん接種を申し込んでいた「権利者」のうち10万人が辞退したからではないか。
実は前にも書いたが、厚労省が優先接種の対象とした「医療従事者等」は医療従事者196万2000人に加え、医療機関で仕事をしている人すべてを含む数字である。つまり医療行為には従事していないが、医療機関で仕事をしている人(医療機関の従業員だけではない)すべてを含んでいるのだ。具体的には受付や案内、会計、雑用係、食堂の調理人からコンビニの店員まで含まれている。
かなりの国民(当初はメディアも)480万人はコロナ患者の治療に当たっている医療従事者と勘違いしていたようだが、私がブログで厚労省のホームページを完全コピーしたように、コロナ患者の治療に当たっている方たちだけでなく、全国あらゆる医療機関(およそコロナ患者とは縁がありそうもない美容整形外科クリニックまで含む)で仕事をしている人たちがすべて含まれる。医師や歯科医師(なぜ医師と歯科医師が資格として区別されているのかは不明)、看護師、薬剤師などの資格者は厚労省も把握しているはずだが、病院などの医療機関で仕事をしている窓口や会計、ましてや調理師や清掃人、コンビニの店員までは把握できるわけがない。
だから、「医療従事者等」に優先接種することを政府が明らかにした時、すでに全国のあらゆる医療機関に対してワクチンの優先接種を希望する人の名簿の提出を求めていたはずだ。もちろん、名簿に記載された人全員が本当にその医療機関で仕事をしているかどうかのチェックなどできるわけがない。たとえば小さなクリニックの医師や看護師、受付が自分たちだけでなく、親族なども医療機関の従業員と偽って名簿に載せることも100%可能である。実際、そういう証言もある。
ただし、いちおう厚労省は「えこひいき」ではないためのアリバイ作りもちゃんとしている。優先接種対象の医療機関は「コロナ患者・疑い患者に頻繁に接触する」という条件を付けたが、もちろん医療機関の申告内容を調査したりはしていない。補助金詐欺は調べても、医療機関が虚偽申告などしっこないことにしたようだ。
なぜ、これほど厚労省は医療機関で仕事をする人たちを上級国民として優遇したのか。旧厚生省が日本医師会の下請け機関にさせられる、きっかけとなった事件がある。今から半世紀ほど前になるが、武見太郎率いる日本医師会が旧厚生省と真っ向からぶつかったことがある。日本の医療行政は1961年の国民皆保険制導入とともに、保険医療を基本制度としてきた。が、国民所得に比べて開業医の収入が多すぎるとして、旧厚生省が医療収入の72%を非課税にしてきた税制を改め確定申告納税に変えようとしたとき、日本医師会が「保険医一斉脱退」という「スト」を実行しようとして世論の猛反発を食い、武見が「こんなとき病気になる方が悪い」と暴言まで吐き、さすがに開業医たちも「武見会長にはついていけない」と「スト」は実現しなかった。こうしたすったもんだの挙句、当時の厚生大臣のミッチー(渡辺美智雄)が開業医に対して「みなし必要経費72%継続」を認めて騒動を収拾したいきさつがある。つまり旧厚生省が日本医師会に完全屈服したのである。以来、厚労省に衣替えした今日に至るまで、医療行政は日本医師会の言うがままになってきた。
今回のワクチン優先接種にも、厚労省が絶対に言い訳ができない差別が現に含まれている。高齢者施設の職員に対する差別だ。医療機関の敷地内に設置された高齢者施設の職員は優先接種の対象だが、それ以外は対象外なのだ。その結果、とんでもないクラスター事件が高齢者施設で生じた。医療法人の清春会が経営する高齢者施設「サニーヒル神戸」で入所者・職員133人が集団感染し、入所者25人が死亡するという悲惨なクラスターが生じたのだ(5月8日発表)。
高齢者施設は言うなら密閉空間である。いくらコロナと言えども密閉空間では自然発生はしない。高齢者施設の入所者は病院の入院患者ほどではないが、こういう時期だから入所者にはかなり厳しい外出制限がかかっていたはずである。ということは、「サニーヒル神戸」で発生したクラスターは職員が感染源と考えられる。医療機関が運営している高齢者施設なのに、なぜ職員はワクチンを優先接種してもらえなかったのか。施設が医療機関の敷地内に設置されていなかったからである。
さすがに厚労省も、医療機関が運営する施設と、医療機関ではない民間業者が運営する施設を、あからさまに差別するのは気が引けたのであろう。医療機関の敷地内に設置された高齢者施設に限るというせこいやり方で、優先接種の差別待遇を隠蔽せざるをえなかったというわけだ。
実は私はNHKのふれあいセンターには、厚労省のワクチン優先接種対象とした「医療従事者等」の「等」の意味は伝えてある。それまではNHKも他のメディアと同様、優先接種対象者については「医療従事者」と「等」を外して報道していた。
私が情報提供して以降、NHKは「医療従事者など」と報道することが多くなった。が、NHKの職員すべてが理解しているわけではなく、『日曜討論』では伊藤アナが「など」を外して発言したり、内部での統一もとれていない。そうした報道姿勢が、ワクチン優先接種対象者の数を確認せず、思い込みの480万人を分母に計算してしまったことによるミスだったと思う。だから私は本稿で、このミスは格別の意図をもっての「ねつ造報道」とは区別して単純なケレス・ミスとした。が、ケアレス・ミスであろうと誤報は誤報だ。誤報であったことがわかったはずなのに、隠ぺいを図ろうとしたのであれば、これはもはやケアレス・ミスでは済まされない。こうしたケースは間違いなく報道局長の決済を受けているはずだから(もし報道局長が知らなかったとすればNHKのガバナンスが問われる)、報道局長の責任は重大である。
こうしたケースの責任の取り方はどうあるべきか、NHKのガバナンスが問われている。(27日)



東京オリンピックを「安心安全」に開催する方法教えます。

2021-05-17 00:47:44 | Weblog
5月3日に『東京オリンピック――開催か、中止か? いやそもそも開催できるのか』と題したブログをアップしたが、開催・中止を巡ってメディアや世論がにわかにかまびすしくなってきた。
きっかけになったのは、血液の癌と言われる白血病に侵されながら、闘病生活を経て復活した水泳選手・池江璃花子選手が、7日、会員制交流サイトを通じてオリンピック辞退や反対を求めるメッセージが少なからず寄せられていることをツイッターで明かし、メディアが大きく取り上げたことによる。

●「内定」「最有力候補」の選手たちが苦しい胸の内を表明 
池江選手はツイッターで、こう苦しい胸の内を訴えた。
「この暗い世の中をいち早く変えたい。そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです」「オリンピックの中止を求める声が多いことは仕方なく、当然のことだと思っています」「持病を持っている私も、開催されなくても今、目の前にある重症化リスクに日々不安な生活を送っています。私に反対の声を求めても、私は何も変えることはできません」「私も、他の選手もきっとオリンピックがあってもなくても、決まったことは受け入れ、やるならもちろん全力で、ないなら次に向けて、頑張るだけだと思っています」
池江選手のこの心の叫びは多くの国民の心に響いたようだ。池江選手には「頑張れ」「屈するな」といった励ましのメッセージが多く届いたようだ。それでも「オリンピック中止」を求める声は日増しに強くなっている。政府や組織委の度重なる失態や海外メディアからの強行開催姿勢に対する厳しい批判が寄せられるようになったからでもある。
池江選手はまだ若いから病を克服すれば次のパリ大会出場チャンスはあるが、年齢的に最後のチャンスになるだろう内村航平選手にとっては辛い状況だ。16日のNHK杯で鉄棒代表の座を確定したい内村選手は取材に応じて「まだ僕は東京五輪の代表でもないので、あるかないかを議論する立場でもない。選手で決められることでもない」「僕は体操選手なので体操をすること、練習すること、試合があれば試合をすることが仕事。それができなければ、そもそもそこに立つこともできない。議論をしている暇があったら練習しようと日々過ごしていたら、勝手にその立場になった」(中日スポーツ)と、胸の内を語った(※これはNHK杯直前のコメント)。
こうした状況の中で、男子テニス代表選手で、自身もコロナに感染した錦織圭選手が10日、海外の試合の後「死者がこれだけ出ているということを考えれば、死者が出てまでも行われることではない」とコメント、波紋を呼んだ。
この錦織発言に噛み付いたのが、もはや作家生命を失ったと同然の元都知事・猪瀬直樹氏だ。11日、ツイッターで錦織氏の発言を取り上げ、「僕は錦織選手のファンだが、テニスにはウインブルドンなど四大大会があって、五輪は昔から重要視されていない、という事情が背景にあってのこの発言は、五輪にすべてをかけている他のスポーツ選手に対してフェアとは言えないと思う」と批判したのだ。
私は先述のブログだけでなく、東京オリンピック開催について何度も書いてきた。今年に入ってからも、2月22日には『東京オリンピック――やるべきか、やらざるべきか』を、3月22日にも『緊急事態宣言解除の目的は東京オリンピックのためか?』を書き、「オリンピックありき」の政治を批判してきた。
猪瀬氏の主張に百歩譲っても、錦織選手が「俺にはオリンピックよりカネが稼げる大会がいっぱいある。だから生命の危険を冒してまで出場するつもりはない」と言ったのであれば、錦織発言の無神経さを批判してもいいだろう。が、錦織選手はそうしたエゴで物申したわけでは、多分ない。少なくとも錦織選手の発言から、そういう感じは受け取れない。
そもそも猪瀬氏は日本人についての鋭い考察を、様々な事柄を題材にしながら書いてきたノンフィクション作家だった。東京オリンピック招致を、石原慎太郎都知事時代の副知事として一緒に進めてきた人物でもあり、2013年9月8日、アルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されたIOC総会で2020年のオリンピック開催都市が東京に決まったときの都知事でもある。このIOC総会で最後のプレゼンテーションを行った滝川クリステル氏の「お・も・て・な・し」発言はその年の流行語大賞に選ばれた。このときの東京都知事は猪瀬氏である。
さて今年東京オリンピックを強行開催する場合、海外観光客は「お・こ・と・わ・り」するにしても、海外選手団を「新型コロナウイルス東京型」で「おもてなし」するつもりなのか。もっとも、猪瀬氏は2013年12月、「収賄or借金」問題で都知事職を辞任しているが…。

●コロナ禍は予想できなかっただろうが、死者が出かねない真夏の開催条件を猪瀬都知事(当時)が知らないわけがない
そもそも、2020年の東京オリンピック開催が決まったときの猪瀬氏が、都知事として真夏の7月下旬から8月にかけて開催することが最初からエントリーする際の条件だったことを知らなかったわけがない。IOCが多額の放映権目当てに、米テレビ局のNBCの「真夏開催」条件を丸呑みしてエントリー条件にしていたことは、立場上、確実に知っていたはずだ。
猪瀬氏がついていたのは、真夏開催が明らかになって「死人がでるぞ」と反発の声が国内に巻き起こったのは、彼が都知事を辞任した後だったことだ。小池都知事の時、築地市場の豊洲移転問題で大騒ぎになっていた時期、実は東京都庁に殺到した苦情の電話はオリンピックの開催時期についてだった。石原氏と二人三脚でオリンピック招致運動を繰り広げてきた猪瀬氏が、オリンピックがアスリート・ファーストの大会ではなく、商業主義・カネまみれの「IOCの、IOCによる、IOCのための」大会に変貌していたことに気が付いていなかったわけがない。言うなら、バッハの掌の上で「詐欺」の片棒を担いできたのが猪瀬氏。自分のカネにまつわる疑惑で辞職に追い込まれていなかったら、東京オリンピック利権にありついていたかもしれない人物だ。
はっきり言って、テニスはサッカーとともに、世界中で最も盛んなプロスポーツ。だから錦織選手ではなくても、ジェコビッチなど一流選手はコロナ・リスクまで冒してまでは絶対に日本には来ない。オリンピックの金メダルに異常なほどの名誉心を抱いているのは日本人くらいで、それが証拠に国際サッカー連盟(FIFA)は明らかにオリンピックよりワールド・カップのほうを上位に位置付けている。FIFAがオリンピックのサッカー試合の出場者に年齢制限を課していることを、猪瀬氏も知らないはずはないだろう。
バスケットボールでも、アメリカで活躍している八村塁、渡邊雄大、馬場雄太選手などの候補選手は内定が出れば日本チームの一員として出場する可能性が高いとみられているが、プロバスケット・リーグが人気のアメリカの一流選手はまず来ない。野球も同様。日本にオリンピックのために来る海外の一流アスリートは、プロ化されていない陸上や水泳などの選手だけだ。また日本人選手が活躍しそうな競技には日本人も関心を持つが、有力な選手がいない競技には関係者を除いてほとんどの国民はそっぽを向く。
実際、オリンピック開催について声をあげだしたアスリートが続々現れ始めた。たとえばラクビー7人制の女子代表候補の中村知春選手は4月23日、ツイッターで「東京オリンピック・パラリンピックをやりたい、と声を大にして言えないのは、それはアスリートのエゴだとわかっているから」と、忸怩たる思いを吐露している。
五輪に向けてのテストイベントが国立競技場で行われた5月9日、会場外からオリンピック中止を求めるシュプレヒコールが巻き起こったとき、女子1万メートル代表に内定している新谷仁美選手は報道陣に感想を聞かれ、「彼らも国民。私たちアスリートは国民の理解と応援、サポートがあって成り立つ職業だと思う。無視して競技するだけなら、それはアスリートではない。応援してくれる方たちとだけ向き合うのでは、胸を張って日本代表とは言えない」と答えた。重ねて報道陣から池江選手に対するバッシングについて聞かれ、「いや、苦しいですよ。正直、今年に入ってからはやっぱり振る舞い方を考えています。五輪開催に関して、命より大事なことはないので、命を優先して考えてほしいという思いもあります。ただアスリートとしてどういう答えが望ましいのかというのはわからない」と、戸惑いを隠さなかった。
女子テニス代表が決定している大阪なおみ選手も「オリンピックは開催してほしいとは思っている」としたうえで、「もしオリンピックが人々を危険にさらすのであれば、そして人々が開催を居心地悪く感じているのであれば、私たちは今すぐ議論すべきです」と語った。
いみじくも猪瀬氏が錦織選手の発言にクレームを付けた理由を改めてこうしたアスリートたちのオリンピックへの向き合い方と突き合わせて考察すると、自らの仕事への向き合い方を反映しているとしか思えない。ま、真夏の東京にオリンピックを招致した人らしい感覚だということが分かるエピソードだ。

●一見、感染者数が少ない日本で、なぜ緊急事態宣言拡大や医療崩壊状況が生じているのか
これまでも何度も述べてきたように、日本人はなぜかオリンピックに特別な感情を抱いている。「世界が一つになる大会」でもないし、「平和の祭典」でもないし、まして「スポーツの世界最高の大会」でもない。プロ化されていない競技にとっては「世界選手権」より上位に位置するが、プロスポーツが盛んな競技にとっては、「優勝したところで、懐が豊かになるわけじゃない」お祭りでしかない。とはいえ、日本人にとっては、なぜか特別のイベントなのだ。
1940年にオリンピック開催を返上した日本が、戦後再び招致活動に乗り出したのは連合軍による占領状態から脱して2年後の1954年で、1960年の開催を目指した。が、このときは翌55年のIOC総会の投票でローマに敗れる。が、ローマに継ぐ大会にも立候補、59年5月26日に行われたIOC総会で64年の東京オリンピック開催が決定した。その間、56年の『経済白書』は「もはや戦後ではない」と、日本経済の復興を高らかに宣言した。
実際、64年東京オリンピックは日本の経済復興のシンボルとなった。新幹線開通、東名高速道路開通、首都高速道路開通、東京の道路網整備などが、急ピッチで進められ、ホテル建設ラッシュなど東京中心部の近代化が急速に進んだ。大会自体もオリンピック史上最大の参加国数を記録、日本が近代国家として生まれ変わった印象を世界中に与え、日本の高度経済成長に大きく寄与したオリンピックでもあった。
それから半世紀余。真夏の東京でオリンピックを開催する意義がどこにあるのか。私はずっと、その疑問を抱いてきた。とくに「オリンピックの華」と言われるマラソンが、東京ではなく札幌で開催されるということになると、果たしてオリンピックによるインバウンド効果は期待できるのかという強い不信感すら持った。
そうした状況の中で、世界を襲ったのがコロナ・パンデミックである。が、なぜか、特別な対策を講じたわけでもないのに、日本ではコロナ患者の発生が海外に比べて異常に少なかった。実際には発生が少なかったのではなく、PCR検査のハードルが高く、その結果、感染者数が少なく見えていただけではないかと私は思っている。多くの医者もそういう疑いを持っているようだ。現に、緊急事態宣言発令中にもかかわらず直近1週間(5月7~13日)のPCR検査実施数(全国)はたった659,387件(人)にすぎず、1日当たりの平均検査数は94,198件でしかない。1年前の今頃に比べて、せいぜい2倍程度の検査数だ。
いまインドの感染者急増が日本でも大きな話題になっているが、人口100万人当たりの直近1週間の新規感染者数のランキングは(5月14日現在)、アルゼンチン3348.4人と断トツに多く、次いでブラジル2056.3人、インドはその次で1561.0人である。その後はヨーロッパ諸国が続き、フランス1546.8人、トルコ1153.7人、イタリア892.7人、ドイツ844.3人だ。またコロナ禍を克服したとして規制をほぼ撤廃したアメリカは731.5人、イギリスは233.5人、韓国も84.7人である。なお日本は357.5人となっている。人口当たりの感染者数はイギリスよりは多いが、アメリカの半分である。
米バイデン大統領は4月28日の施政方針演説で自身のコロナ対策について「我が国が成し遂げた史上最大の成果だ」と勝利宣言をぶった。バイデン氏は就任後100日で1億回分のワクチン接種を目標にしたが、「(それをはるかに上回る)2億2000万回分を接種することになる」と、ワクチンに懐疑的な国民に協力を呼び掛けた。
ワクチン接種にコロナ対策の重点を置いたバイデン政策は確かに効果を上げている。1月20日の就任日には19万人強だった新規感染者数は、この時点で約5万4000人と7割も減った。現在はさらに減少している。そのアメリカに比べ人口当たりの新規感染者数が約半分の日本が、いまなぜ緊急事態宣言地域を拡大し、医療崩壊状態に陥っているのか。それはすでに述べたPCR検査の体制による。一見、日本は感染の抑え込みに成功したかのような数字のカラクリに気づかない、大バカ者がいる。「さざ波」「笑笑」ツイートを発し、メディアや識者から手厳しい批判を浴びた高橋洋一・内閣官房参与である。

●インチキ学者のインチキ「コロナ説」は数学を知らない人の暴論
高橋氏は世界的な数学者になることを夢見て東大理学部で数学を専攻、卒業後、東大経済学部経済学科に学士入学し、卒業して大蔵省(現・財務省)に入省した異色の経済学者である。経済学に数学的思考を持ち込むことは確かに重要だが、中途半端に数学的思考を持ち込むと、操作された数字にとらわれ、おかしな論理を展開してしまいかねないことになる。
そのことはあとで証明するとして、高橋氏はのちに小泉内閣の経済財政政策担当相の竹中平蔵氏の補佐官に就任、現在は嘉悦大学教授を務めながら菅内閣の内閣官房参与として経済政策のアドバイザーの任についている。
高橋氏はいろいろな意味で知る人ぞ知る、ある意味では有名人である。その彼が一躍知らない人も知る存在になったのは、やんごとなき人に頼まれたのかどうかは知る由もないが、オリンピック開催の応援団長を買って出たことによる。具体的には5月9日、各国感染者数と比較して「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止かというと笑笑」とツイートしたのである。このツイートに対して野党やメディア、評論家たちが一斉に反発、「不謹慎」「人命軽視」といった批判が渦巻いたのだ。
高橋氏はよほど自分の「日本コロナ禍観」に自信があったのだろう。今度はユーチューブで猛反論を展開した。「私はいつもマスゴミと言っているんだけど、毎日朝から追いかけられている。だけど取材には応じない。切り取られるだけだから」と前口上を述べたうえで「さざ波」と「笑笑」についての説明を始めた。まず「さざ波」という表現については「(元厚労省技官で医師の)木村盛世さんの言葉なので、だから私はカギかっこを付けた。日本の感染者数は大幅に減らしたイギリスと同程度で、いま騒いでいる人たちの方がおかしい」と反論した。また「笑笑」表現については、「この程度の感染状況でオリンピックを中止すると言ったら、世界中から日本が笑いものになるという意味」と、自らが使った用語について説明した。
なるほど、よーく分かった。つまり高橋氏の「コロナ認識」は現在のコロナ禍は大騒ぎするような状況ではないということらしい。
だったら、高橋クンよ。キミは内閣官房参与として菅総理にアドバイスする権利と責任がある。だとしたら、キミは菅総理にこうアドバイスすべきではないか。
「日本の感染状況なんか大したことないですよ。感染者を大幅に減らしたイギリスと同程度なんですから(※これは大ウソ。人口当たりの感染者数は日本はイギリスの1.5倍強。小学生にでも出来る簡単な計算ができない人がよく東大の数学科を卒業できたね)。あんたが緊急事態宣言を出したりするから、日本のマスゴミが感染拡大、医療崩壊などと騒いだり、オリンピック中止を叫ぶ国民が増えたりするんです。すぐ、緊急事態宣言やまん延防止措置を解除して、三蜜OK。Go Toイベント倍増で景気を回復させましょう」と。
ねえ、高橋クン。キミは内閣官房の参与なんだから、総理が政策を間違えて、あたかもコロナ感染が拡大しているかのような政策を打ち出すから、マスゴミやマスゴミに踊らされた国民が不安を持つのだと、総理を諫めるべきではないかね。だって、それがキミに与えられた任務でしょ。
「オリンピックも、予定通り堂々とやるべきだ。IOCのバッハ会長がファイザー社から提供されるワクチンを全世界の選手団に接種するなんて言ってるけど、日本は安心安全、そんな必要はないとバッハに一言あってしかるべきです」と。
「第一、組織委会長の橋本氏がオリンピック期間中、ボランティアでコロナ感染者対策に当たってくれる看護師を1日当たり500人集めてくれなどと日本看護協会に要請したりするから、肝心の看護師たちから総スカンを食らい、そのうえ、国民も国内の患者より海外のオリンピック選手を優先するのかと怒りを爆発させる。日本は安心安全の国だから、選手の怪我対策のためにスポーツドクターは用意するけど、コロナ対策なんかする必要がありません、と橋本氏に言わせるべきだ」とも。
 どうした、高橋クン。キミは数学者でもあるのだから、この数理的解釈は理解できるよね。ゴミは、マスコミかキミか、日本中からキミは(笑笑)の対象になっているんだよ。わかっているのかね。

●日本でオリンピックを開催できる唯一の方法
 高橋氏の妄想的「コロナ感染論」は置いておくとして、高橋氏よりもう少し頭がいい私なら、イギリスではなくバイデン大統領が勝利宣言を発したアメリカと比較する。
直近の感染者数はすでに書いたように、人口当たりで日本はアメリカの約半分である。そういう意味では日本はコロナ・パンデミック状態ではないと言えなくはない。などと書くと、高橋氏がぬか喜びしそうだが、アメリカはバイデン大統領のワクチン接種大作戦でコロナの抑え込みに成功した結果だ。実際、バイデン氏が勝利宣言を打った4月28日の感染者数は5万4000人だったが、いまはさらに減少して13日38,087人、14日42,298人を数える状況だ。
ただ、これもすでに書いたが、バイデンが大統領に就任したときの感染者は1日当たり19万人を数えていた。人口比ではアメリカは日本の2.6倍だから、もし当時のアメリカの感染者数を日本人口比に換算すると7万3000人の感染者を出していたことになる。
なぜこんな計算をしたかというと、仮に陽性率を6%として感染者を明らかにするためには、PCR検査を約120万人に実施する必要がある。つまりアメリカ人の人口が日本並みだとしてそれだけのPCR検査の能力を持ち、そして検査していたということを意味する(実際の検査数はその2.6倍)。一方日本は感染が拡大しているなかにあっても、PCR検査数はすでに書いたように1日平均9万4000人でしかない。つまりバイデン大統領が就任した1月20日ごろ、アメリカは日本の13倍近い(人口比で)PCR検査を行っていたということを意味する。一見、感染者数だけみると日本はコロナ優等生の国に見えるが、背景にはこうした「感染者をあぶりださないため」のカラクリがあったのだ。
とくにオリンピック主催都市である東京の場合、感染者としてあぶりだされたのは15日までの7日間の平均で876.4人、前週の112.9%と増え続けている。
そうした状況を反映してか、直近の世論調査でも、NHKの調査では【中止49%、開催44%】、読売新聞の調査でも【中止59%、開催39%】と、いずれも中止派が開催派を上回っている。さらに海外メディアもアメリカやイギリスなどで中止論を主張し始めている。まさに四面楚歌状態になってきた東京オリンピックだが、政府や組織委が開催理由の最後のよりどころとして強気の姿勢を崩していないのは「日本側が中止を決めたら莫大なペナルティをIOCに支払わなければならなくなる」という空理空論だ。
先に「日本のコロナ感染なんかたいしたことがない」と言ってのけた高橋氏も「日本が中止したら数千億円のペナルティをIOCに支払わなければならなくなる」と、根拠を示さず主張しているが、ペナルティ条項がどうなっているか調べるまでもなく、ほぼ日本国民の大半が納得できる「開催可能」方法が、実はある。そのことに、政府も組織委も気づいていないだけの話だ。

実は無傷で東京オリンピックを開催するためには、たった一つ方法がある。
その方法とは、PCR検査をどんどん実施して隠れ感染者をあぶりだし、日本の感染状態を世界各国に正確に伝えること。そのうえで、「我が国自体が医療ひっ迫状態にあり、オリンピック・パラリンピック開催に当たり参加各国の選手団および関係者等に対するコロナ対策は取ることができません。従ってコロナ感染対策のための医療団を必ず同行させてください。なお、選手以外の関係者についてはコロナ抗体ができている免疫者以外の入国は禁止します」という趣旨の通達をIOCを通じて各国に行えばいい。それだけのことだ。
なお「選手以外」としたのは、選手は全員、IOCがワクチン接種を義務付けるという前提である。
日本国民もオリンピックが見たくないわけではない。私自身も、池江選手や内村選手たちには、何が何でもひのき舞台でこれまでの努力の積み重ねの結果を実らせてもらいたいと願っている。多くの国民も、「国内の感染対策よりオリンピック優先」に、少なくとも見える政府や組織委の姿勢に対する反発から、中止論に傾いているだけだと思う。もし、私が提案したような方針を政府、組織委、東京都が明確に打ち出せば、おそらく中止論はほぼなくなる。
後は日本選手の「自分たちだけがワクチンを優先接種してもらうことへの忸怩たる思い」だが、選手に対するワクチン接種はIOCが行うことであり、とくにサッカーとかラクビー、バスケット、柔道やボクシング、水球など外国人選手との格闘競技でコロナ感染リスクを負う選手たちの安全確保のためにIOCが行う当然の措置であり、選手たちがそのことを負い目に感じる必要はまったくないし、それは国民も理解してくれると思う。
こうして完全武装した選手団や関係者が海外から大挙して日本にやってきてくれれば、オリンピック・パラリンピックが日本の中心部の集団免疫環境を作り出してくれるかもしれない。また、もしそんなにリスクが大きいなら、日本に行くのはやめようと参加を取り消す国が増えれば、それはそれで日本選手のメダル獲得数が増えるだけだから、言うことなし。またそういう事態が雪崩現象を生じて参加国が急減してIOCが「今回のオリンピックはやめよう」と言い出したら、日本が巨額の賠償金をIOCに請求すればいい(※契約上、IOCに賠償義務はない)。

なお、医療団を結成できない小国については、すでにコロナ禍を克服して医療体制に余裕がある国に対して、IOCが協力を呼び掛けてほしい。日本はOICに対して東京オリンピック・パラリンピックを成功させるために絶対必要な措置として、強く要請すべきである。
 ただし、日本としてやるべきこともある。万一コロナ患者が出た場合に備えて、患者と医療団を完全隔離するため、現在運航停止中の観光クルーズ船をオリンピック期間中借り切って、感染の拡大を完全防止すること。そこまで日本がやれば、「コロナ禍に打ち勝ったオリ・パラを成功させた人類の証として歴史に名を留めることができる。



誰が「赤木ファイル」をマスキング開示させることにしたのか?

2021-05-11 00:50:58 | Weblog
赤木雅子さんの執念がとうとう実りそうだ。言うまでもなく、森友学園問題について、財務省の上層部から公文書の改ざんを命じられ、国家公務員としての自責の念に駆られながら改ざんプロセスを記録し、無念の自死を遂げた赤木俊夫・近畿財務局職員が残した、いわゆる「赤木ファイル」が陽の目を見る可能性が生じたのだ。雅子さんは俊夫氏の妻。国などに対して損害賠償を求めて大阪地裁に提訴し、「赤木ファイル」の開示を求めていた。
が、財務省側はファイルの存否も含めて明らかにせず、その一方ファイルの存在を前提にして「原告の訴えの原因にファイルの内容は関係しない」と提出を拒み、国会でも野党の開示要求に対しては「裁判に影響する」と支離滅裂な対応を続けてきた。
が、財務省が「赤木ファイル」の存在をとうとう認め、6月23日には大阪地裁にファイルを任意提出することにしたというのである。ただし、ファイルの全文を開示するわけではなく、一部をマスキング処理(黒塗り)したうえで開示するという。果たして裁判でどこまで真実に迫れるか、早くも懸念と疑問の声が出ている。

●売却から賃貸へ、さらに大幅値下げで売却へ
森友学園問題は、政治家がらみのスキャンダルとしては奇妙な事件ではある。ふつう政治家のスキャンダルは、利権が絡み金銭を収賄する構造がほとんどと言っていい。が、このスキャンダルは、森友学園の経営者である籠池泰典氏が、便宜を図らってもらいながら、かつ政治家から「お祝い」として100万円を授受したという(籠池証言)、異例のプロセスをたどった。
森友学園問題とともに社会問題になった加計学園問題においても、政治家が金銭を授受したという疑惑は持たれていない。
「モリカケ問題」の中心人物である、当時の総理大臣が絡んだスキャンダルだが、肝心の総理大臣が直接指示したこともないようだし、しかも受益者から金銭を収賄するどころか、逆に「お祝い金」を差し上げているという話なのだ。奇妙といえば、これほど奇妙なスキャンダルは聞いたことがない。ざっと経緯を振り返っておこう。
森友学園に払い下げられた国有地は1974年、伊丹空港周辺の騒音対策区域として国が土地所有者から買い上げ、大阪航空局が管轄する「使い道のない」土地となっていた。が、関西空港の開港によって騒音問題が解消したことで民間への払い下げが決定し、財務省近畿理財局が売却を担当することになった。
2011年には大阪音楽大学が約7億円で購入を近畿理財局に申し入れたが、鑑定価格の9億5600万円に達しなかったため交渉は不調に終わっている。
その後、近畿理財局は13年6月、公募による売却を決定、森友学園が応募して同学園への払い下げが決まった。が、購入資金の手当てができなかったためか、売却交渉の過程で森友学園は近畿理財局に対して賃貸への変更を申し込む。このときの近畿理財局長は枝廣直幹氏だが、のちに枝廣氏はこの案件については「自分は知らない。担当者レベルのやり取りではないか」と頬かむりの証言をしている。森友学園側との交渉に当たったのが赤木氏だったか否かは、「赤木ファイル」に記録されているはずだ。ただし、売却から賃貸への変更という重要な案件の決済が担当者レベルで行われていたとしたら、近畿財務局のガバナンスはどうなっていたのか。なお枝廣氏は翌14年に退官し、後任には武内良樹氏が就いている。
国有地の払い下げに関して売却から賃貸への変更は通常、そんなに簡単ではない。が、なぜか15年5月、森友学園と国との間で10年間の定期借地契約が締結された。12年12月に第2次安倍政権がスタートして2年半後である。
その後、16年3月1日に森友学園・籠池理事長が財務省理財局の国有財産審理室長と面会し「新たにごみが見つかった」としてごみの撤去を要請する。その直後の24日、学園側は賃貸から売却への再変更を申し入れている。
本来、新たに見つかったごみの処理を要求するのであれば、それまで交渉してきた近畿理財局が相手であるはずなのだが、その記録は明らかにされていない。その経緯も「赤木ファイル」に記録されている可能性がある。
16年6月17日、財務省理財局長に佐川宣寿氏が就任し、20日には国と森友学園の間で代金1億3400万円とする売買契約が締結された。鑑定価格との差額は8億2200万円(名目はごみの撤去費用)となり、その不自然さが国会で問題になった。

●森友学園問題スクープの裏事情
2017年2月9日、朝日新聞がこの「事件」を1面トップでスクープ報道し、森友学園問題はいっきに政界を揺るがす大問題になった。が、朝日に情報を提供したのは、当時NHK大阪放送局司法キャップだった相澤冬樹氏ではないかと言われている。
相澤氏はこの「払下げ問題」をいち早くキャッチし、NHKでスクープ報道しようとしたが、安倍官邸の逆鱗に触れることを恐れた上層部によって阻止され、あまつさえ記者職を解かれて考査部という閑職に異動になる。相澤氏は18年8月、NHKを退職し、大阪日日新聞に記者兼編集局長として再就職、赤木氏の自死後も雅子さんの相談相手になりながら裁判を取材し続けているという。
私自身のジャーナリストとしての現役時代の経験から推測するのだが、スクープ報道の大半は内部告発である。ただ、メディアにとって報道しづらいケースの場合(例えば大クライアントのスキャンダル事件など)、他媒体の友人記者に情報を提供することがしばしばある。
スクープというのは、犬棒つまり「犬も歩けば棒に当たる」ような偶然性でネタをつかめるケースはそんなに多くはない。しばしば「文春砲」が民放メディアでも話題になるが、文春だけが特別な取材ルートを持っているわけではなく、また大新聞社より多くの記者を抱えているわけでもない。「文春砲」の多くは他社の記者から自社媒体では取り上げにくい情報の提供を受けたり、いまでは「文春砲」の強力さが多くの人の知るところとなって内部告発(たれ込み)の有力媒体先になったことによる。
いずれにせよ、朝日の報道がきっかけになって政界に大激震が奔った。2月17日の衆院予算委員会で野党の追及を受けた安倍総理が国会史上、空前絶後の答弁を行ったのだ。
「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」
おそらく安倍総理は妻の昭恵夫人が籠池氏夫妻と極めて密接な関係にあることを知らなかったのかも。政治家にとって命取りになるスキャンダルは、誰かのために便宜を計らい、その謝礼として金銭をもらう収賄事件や、選挙で票を買収するといったケースがほとんどである。
森友学園問題や加計学園問題の場合は、安倍総理や昭恵夫人が友人のために便宜を図らったとしても、その見返りに金銭を授受したり、また籠池氏や加計孝太郎氏は安倍氏の選挙区の人たちではないから、スキャンダルにはなりえないという認識があったのではないかと思われる。まして、森友学園に小学校設立の許可が下りたことで、昭恵夫人が「これは主人から」とお祝い金100万円を包んだくらいだから(籠池氏の証言)、自分の利益のためではないという確信があったのかもしれない。が、自分の利益のためではなかったとしても、わきの甘さは総理大臣としての品位に著しく欠けると言わざるを得ない。

●根っこは「政治主導」の名の下での官邸による官僚人事権の掌握
が、この総理答弁が官邸を激震させた。絶対にスキャンダル化を防がなければならないという空気が官邸を支配した。そうした空気が一気に官邸を支配したのには、それなりの事情もあった。
第2次安倍内閣が発足したのは12年12月だが、安倍氏が自民党総裁に就任したのは12年9月。当時の党則では自民党総裁任期は2期6年までだった。つまり1年半後には安倍総裁は退任することになっており、党執行部内の水面下では総裁任期延長論がささやかれ始めていた。そうした状況もあって、森友学園問題をスキャンダル化させてはならないというのが官邸の至上課題になったというわけだ。
そういう意味では当時、理財局長の地位にあった佐川氏が「火中の栗」を拾わなければならない立場に立たされたという解釈もできなくはない。そう解釈した場合、佐川氏も官邸の被害者と言えるかもしれない。
なぜ官邸がそこまで力を持つようになったのか。森友学園問題の根っこには、ある問題が横たわっていることを、まず明らかにしておく必要がある。
かつて日本の官僚システムは世界一優れている、と海外から高く評価されていた。実際、私の年代で官僚になった人たちは、すべてとまでは言わないが「国のために、国民のために」という強い自負心を持っていた。その反面「省益優先」「省益あって国益なし」と厳しい批判を浴びるような事態も「官僚主導」の政治で生じたことも事実である。例えば金融機関の大蔵官僚に対する非常識な接待攻勢「ノーパンしゃぶしゃぶ」事件も、そうした状況下で官僚のおごりが背景にあったことは否定できない。
こうした状況を改革すべく旧民主党が政権を担ったとき、旧民主党は「政治主導」を強く打ち出した。もちろん政治家とりわけ省庁の担当大臣の政治家が、担当する分野についての高い見識と知識を持って官僚を指揮するのであれば、永田町と霞が関は互いに協力し合える「二人三脚」の関係を築けるのだが、自公が政権を奪還したことで、歪んだ「政治主導」の世界が構築された。
第2次安倍政権下の2014年5月30日、内閣官房に内閣人事局が新設され、官僚たちの人事権を官邸が掌握することになったのである。初代の局長は菅総理の片腕、現官房長官の加藤勝信氏。このとき、実は初代局長には警察官僚の杉田和博氏が内定していたのだが、直前に菅官房長官(当時)がひっくり返したと言われている。その後、杉田氏は菅総理の懐刀として菅政権に刃向かいそうな人物の動向に目を光らせているようだ。
こうして官僚の人事権を官邸が掌握したことによって、官僚とりわけ事務方責任者の局長クラスは政権スキャンダルをもみ消す任務を担わされることになる。森友学園への国有地払い下げにまったくタッチしたこともない佐川氏が理財局長の座に就いたことで、安倍総理の「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」という国会答弁を何としても守り抜かざるを得ない立場に追い込まれたというわけだ。佐川氏が国と森本学園との交渉過程を記録した公文書から、昭恵夫人の関与を記した個所を消し去るための改ざん処理を近畿財務局に命じたのも、そういう事情が背景にあったと思われる。
そして実務として、改ざんを命じられたのが赤木氏であり、上から命じられたとおりに昭恵夫人の関与を消去する作業を強いられ、良心の呵責に耐えかねてうつ病を発し自死に至った。が、赤木氏は森友学園への国有地払い下げの経緯を記した個所のどこを改ざんしたかの記録を残していた。それが「赤木ファイル」である。
赤木氏はおそらく、のちに改ざんが問題になったとき、自分の意志ではなく、上から命じられたとおりに改ざん作業をしただけという自身の防衛手段として記録を残したと思われる。それだけに、おそらく「赤木ファイル」は精緻を極めていると思われ、それゆえ財務省はファイルの存在そのものをひた隠しに隠してきたのであろう。

●「赤木ファイル」の法廷提出の裏事情は?
では、なぜ今になって財務省は「赤木ファイル」の一部をマスキング処理(黒塗り)して法廷に提出することにしたのか。「勘ぐりすぎ」と言われるかもしれないが、最近、安倍復権待望論が自民党内部で勢いを強めだしてきたことと無関係ではないと私は考えている。
自民党で安倍復権待望論が勢いづいたのは「4・25ショック」と言われる国政補充選挙で自民が3連敗したことによる。次期総選挙の前哨戦とされた衆院北海道2区、参院長野選挙区、参院広島選挙区で自民候補が全敗、「菅体制では次の総選挙を戦えない」という「菅おろし」の声が、自民党内部で広がりつつあるようだ。
安倍前総理自身は表向き「菅支持」を表明しているが、カモフラージュに過ぎないという見方もある。中途半端なコロナ感染対策の失敗でコロナ禍は広がる一方、オリンピック優先と見えるコロナ対策などで、発足時は未曽有の高支持率を誇った菅内閣だが、直近の世論調査はほぼ全メディアで不支持率が支持率を上回る状態だ。世論調査では最も信頼性が高いとみられているNHKの5月7~9日の全国世論調査の結果でも、菅内閣の支持率は発足以来最低の35%を記録し、不支持率は43%に上っている。政治評論家の中には「三木降ろしの時と同じような状況だ」と指摘する声もある。
安倍氏自身、「いい薬が手に入った」と健康状態に自信を示し、実際、全国を遊説で飛び回っている。「菅支持」の発言も自民党内の反応を見るための観測アドバルーンと言えなくもない。
言わば四面楚歌状態に見える菅総理だが、9月の総裁選で勝利するためには安倍復権の芽を摘んでおく必要がある。安倍復権の芽を今のうちに摘んでおくためには、「赤木ファイル」はガースーにとって最高の武器になる。今やガースーの懐刀となっている元警察官僚の杉田氏が、財務省に圧力をかけたのではないかという読みもできる。ガースーにとって「赤木ファイル」は、原爆にも匹敵する安倍殺しの威力を持ちうるというわけだ。
だとすれば、財務省が法廷に提出する「赤木ファイル」のマスキング人物も容易に特定できる、いわばアリバイ作りのためのマスキングである可能性も十分考えられる。

私の読みが当たるか外れるかは、6月23日には明らかになる。ただ官邸は私のブログ記事をかなりチェックしている可能性があり、このブログを安倍陣営が読んだ場合、思い切った巻き返しに出る可能性はある。
いま私は身の危険を感じているわけではないが、私のブログは何者かによってサイバー攻撃を受けている。
私の名前でネット検索した場合、私のブログ記事はかつてはどの検索エンジンでもトップに出ていた。が、いまは違う。検索数も激減しているし、訪問者数・閲覧者数も大幅に減少している。検索エンジンが私のブログ記事をどのように扱っているか、私にとってはきわめてリスキーではあるが、明らかにしてしまう。
グーグル  検索数:4,470件  ブログ記事:3ページ目(29件目)
ヤフー   検索数:4,470件  ブログ記事:3ページ目(31件目)
エッジ   検索数:185,000件 ブログ記事 :1ページ目(トップ)
このデータは5月10日現在である。グーグルやヤフーでは私のブログ記事より上位を、過去上梓した著作の販売宣伝が大半を占めている。私の過去の著作がそんなに売れているわけがなく、アマゾンや楽天が私の著作を売るために宣伝費をかけるはずもない。だいいちグーグルとヤフーの検索数がまったく同じということもあり得ない(5月10日だけではないから)。
私は最近、毎週月曜日にブログを更新している。それを今回1日ずらしたのは、サイバー攻撃を可能な限り回避するためである。
なお、私は横浜IR誘致問題について書いたブログで、ブログの閲覧者は私が横浜市の住民であることは容易に察知できたと思う。が、ある検索エンジンには私の住所区まで記載されている。私の住所は家族と現在の友人以外には誰にも教えていない。現役時代の出版社の編集者とも、いまはまったく付き合いがない。現在の私の住所区を知り得るものは、住所を完全に把握していることを意味する。相当の有名人でも、住所をネット検索はできない。私の住所を区まで特定して明らかにしているのは、私に対する何らかの警告なのか。

【別件】急加速し始めた憲法改正の動きについて
コロナ禍が拡大するにつれて国会で憲法改正の動きが急加速しだした。私に言わせれば「案の定」といった感じだ。
憲法の制約によってロックダウンのような強制手段が取れないことを奇貨として憲法改正の動きが活発化するだろうことは、私はすでに見抜いていた。4月26日にアップしたブログ『緊急事態宣言より集団免疫状況をつくるワクチン接種を!!』で、こう書いている。

日本がロックダウン政策をとらない理由について、当時の安倍総理は昨年4月1日の参院決算委で「日本ではロックダウンはできない」と述べただけで、その根拠は示さなかった。野党議員のだれも、その理由を質さなかった。野党議員も聞くまでもなく、「私権の制限」を意味するロックダウンは、憲法の制約によって実施できないと理解したのだろう。
確かに現行憲法には非常事態での「私権の一時停止」を可能にする条項がない。先の戦争への反省から国家権力の発動を厳しく規制したと思われる。それは現行憲法がコロナパンデミックのような異常事態が発生する可能性を考慮に入れていなかった欠陥と言えなくもない。
が、特措法を改正して、コロナ禍を封じ込めるための、ある程度の強制力を持てるようにすることは可能だったし、現に今年に入って一定程度の強制力を有する特措法改正も行われた。
そう考えると、なぜ安倍氏は特措法の改正をしようとしなかったのか、が疑問として残る。「うがちすぎ」と言われるかもしれないが、国民を犠牲にしてコロナウイルスに日本中を蹂躙させ、「ほら見たことか」と憲法改正への機運を高めようと考えていたのではないか。
安倍氏は自衛隊を憲法9条に書き込むための憲法改正をいきなり行うことはさすがに無理と分かり、とりあえず非常時における私権の制限と憲法の一時停止を可能にする非常事態条項を憲法に追加することで、憲法改正への道筋を付けようと考えていたのではないか。
そう考えると、安倍氏の唐突な総理辞任も、コロナパンデミックが終息した後、後継者の菅総理にコロナ禍による経済混乱などの責任を取らせて辞任させ、三度総理の座に返り咲いて自らの手で憲法改正を断行しようと考えたのではないかという疑念が生じる。それが杞憂で済めばいいのだが…。





東京オリンピックーー開催か、中止か? いや、そもそも開催できるのか

2021-05-03 01:50:52 | Weblog
東京オリンピック・パラリンピック中止論が、オリンピック開会日の7月23日まで3か月を切って勢いを増してきた。
きっかけは4月21日、オンライン開催されたIOC理事会後の記者会見で、IOCバッハ会長が東京都などの3度目の緊急事態宣言発令について「オリンピック開催とは関係ない」と答え、オリンピック・パラリンピック開催に否定的な日本世論を逆なでしたことにある。
翌22日には野党もこの発言に猛反発。共産党の志位委員長は「憤りを感じた。責任ある立場の発言とは思えない」と批判。国民民主党の玉木代表も「公衆衛生の在り方はわが国が考えることで、バッハ氏からとやかく言われる筋合いはない」と拒絶反応を示した。新立憲はなぜか枝野代表ではなく泉政調会長が「緊急事態宣言に関与するような発言はいかがなものか」とやんわり批判した。

●日本世論は「中止」「再延期」に二分されていたが…。
 さらにバッハ氏は4月28日に行われたIOC、国際パラリンピック委員会、日本政府、東京都、大会組織委員会によるリモート5者協議の冒頭でこうあいさつした。「日本人の粘り強さや不屈の精神は世界の歴史が証明している。これまで逆境を乗り越えてきたように、いかなる状況下でもオリンピックを開催できる」と述べたのだ。
 この発言に対してネットでは「ふざけるな。戦時中の特攻隊精神でやれというのか」「日本人を舐めているのか」「IOCは『安心・安全』なオリンピック開催のために何をしてくれるというのか。何もせずに自分の懐勘定だけしか考えていない」と痛烈な批判が飛び交った。
 国内世論は、「中止すべき」「再延期すべき」にほぼ二分されているが、再延期は事実上不可能なようだ。報道によれば、日本オリンピック委員会(JOC)も再延期はありえないと考えているようだ。来年は北京冬季オリンピックが予定されており、同じ年に夏季と冬季の二つのオリンピック開催は現実的ではないし、さらにその翌年まで延期となると、次の年にはパリ夏季オリンピックが開催される。唯一現実的可能性があるのはドミノ倒し式に夏季オリンピックを4年ずつずらすか、28年のロス大会の次がまだ決まっていないので、その次の32年という選択肢が残っていたが、IOCはその先手を打って32年オリンピックの最優先候補地として豪ブリスベンを選定した(決定ではない)。
 そうなると日本側の選択肢は、この1,2か月のうちにコロナ禍を終息させるか、さもなければ無観客開催にするか、中止という英断を下すかに絞られたといっても過言ではない。日本の世論を二分していた「中止」「再延期」のうち、「再延期」という選択肢が消えた以上、残るのは「中止」しかない。
 
●バッハ会長にとってオリンピックは「アスリート・ファースト」ではない。
 じつは主催都市の東京都も組織委も本音は「安心・安全」なオリンピックの開催が困難なことはわかっている。オリンピック開催についての決定権はIOCにあり、IOCが「やめよう」と言い出さない限り、日本側が自己判断で「中止決定」をすることは規約上簡単ではない。
 東京都がオリンピック招致運動を始めたのは石原都知事で、東京開催が決まったのは石原氏の後継都知事の猪瀬氏の時。56年ぶりの東京オリンピック招致成功に世論はいったん沸いたが、小池都知事の時になって初めて東京オリンピックの開催時期が酷暑の梅雨明け直後ということが分かり、世論はこの時すでに「死のオリンピック」と猛反発した。
 小池都知事体制は発足直後から築地市場の豊洲への移転問題で揺れに揺れた。新設の豊洲市場の建屋の地下で汚染された地下水が漏れ出すという事件が生じ、東京都は対策に大わらわになった。
 豊洲市場は、元は東京ガスの施設があった場所で、建屋地下室で地下水が漏れ出したことで土壌汚染が発覚した。鉛・ヒ素・六価クロム・シアン・水銀・ベンゼンの6種類の有害物質が国の環境基準を超えていることが判明、築地の仲卸業者の間で移転反対運動が生じていた。そうした時期に東京オリンピックの開催時期が梅雨明けの酷暑ということが判明したのである。
 多くの国民は酷暑のピークは8月中旬の「お盆」の時期と思っているようだが、東京の場合は梅雨明けの7月20日ころから8月中旬にかけてである。最高気温もほぼ7月下旬に記録されている。そのため東京都には「なぜ、こんな時期にオリンピックをやるのか、死者が出るぞ」という抗議が殺到した。
とくにオリンピックの華であるマラソンが危険視されるなか、小池氏は走路の遮熱材塗装やミストシャワーなどの対策を講じ、マラソン競技のスタートも午前6時という早朝に設定したり、沿道の商店街には観客の熱中症対策をお願いするなど、リスク回避の対策を講じていた。が、2019年10月、ドーハで行われた世界陸上のマラソンで猛暑のため途中棄権する選手が続出したため、アホなバッハ氏が突然マラソン会場を東京より気温が5~6℃低い札幌に移すことを要求、てんやわんやの騒動を経てマラソンは札幌で行うことになった。
このとき突如、バッハ会長がオリンピックの基本理念として打ち出したのが「アスリート・ファースト」である。「ウソつくな」と、私は言いたい。
そもそも真夏にオリンピックを開催することを、オリンピック招致の手を挙げた都市に要求したのはIOCではないか。世界的な規模で温暖化が進む地球で、東京は毎年最高気温を更新しているなか、なぜ真夏の東京開催をIOC総会は決定したのか。東京は、それでもまだましだ。24年開催のパリの最高気温は40℃を超える。野外競技で死者が出なかったら、奇跡だ。
いみじくも、マラソン会場の札幌移転が決定したとき、小池氏は「今後のオリンピックは北半球ではできなくなる」と嘆いた。オリンピック開催時期を7月後半から8月中旬を決定したのはIOCである。理由はオリンピックの放映権を獲得している米テレビ局NBCの都合による。
アメリカはプロスポーツ大国で、バスケット、アメフト、野球、アイスホッケーの4大リーグのほかに、サッカー人気も急増しており、そのほかに個人競技のゴルフ、テニス、自動車競技も盛んである。これらのスポーツ放送の視聴率も高いが、夏季は野外スポーツはほとんどがオフ・シーズンに入るためにNBCにとって目玉放送となるのがオリンピックというわけだ。
そのオリンピック放映権を持つNBCの放映権料ファーストでオリンピック開催時期を決めてきたIOCが、いまさら「アスリート・ファースト」と声高に言い出しても、説得力などゼロに等しい。
正直、私個人としては池江選手や内村選手、松山選手たちのオリンピックにかけてきた思いを感じると、彼らをひのき舞台に立たせてあげたいという気持ちはある。が、オリンピックという4年に1度のスポーツの祭典は、日本人が考えているほど、スポーツで最高の舞台ではないのだ。日本人特有の国民感情として重要視している「名誉」は、欧米とくにアメリカ人にとってはほとんど意味を持っていない。
私が3月22日付でアップしたブログ『緊急事態宣言解除の目的は東京オリンピックのためか?』の中で書いたように「すべてのカギはアメリカが握っている」のだ。

●東京都・政府・組織委・JOCは直ちに「中止宣言」を発せよ
前回のブログ『緊急事態宣言より集団免疫状況をつくるワクチン接種を!!』で書いたように、菅総理が訪米してバイデン大統領に謁見した際、バイデン大統領から「東京オリンピックを支持する」と言っていただいたと大喜びしたが、それはアメリカが東京オリンピックに全面的に協力するという意味では毛頭ない。「敢えて反対はしませんよ」という程度の外交辞令に過ぎないのだ。
実際アメリカでプロ試合が盛んな競技には一流選手はまず参加しないと考えたほうがいい。オリンピックで優勝してもカネにはならないうえ、コロナ・リスクを覚悟、ということになると二の足どころか三の足を踏んでも参加しようという気にはならないだろう。だから、野球の場合だったらせいぜい3Aクラスの選手、ゴルフも一流プロは絶対と言っていいほど参加してもらえない。その分、日本は空前のメダル・ラッシュが期待できるが…。
菅総理は本当にお人好しだ。訪米中にファイザー社のCEOに電話でワクチンの入手について懇願し、「出来るだけ、ご期待に沿えるよう努力しましょう」くらいのリップサービスをもらったのだろう。それで有頂天になり、帰国後、「9月末までに16歳以上の国民全員にワクチン接種できるだけの量を確保した」と口走ってしまった。が、肝心のファイザー社の今後の生産及び海外への供給計画の中に日本は含まれていないことが判明、国会で「ちゃんと契約したのか」「口約束に過ぎないのでは」と野党から追及され、おたおたしたことは読者もご承知の通り。
さらに国民が激怒したのは組織委員会が大会期間中に原則5日以上コロナ対策に従事できるボランティアの看護師500人を看護協会に依頼したことである。
組織委員会の会長は、森前会長がジェンダー差別発言で辞任した後を引き継いだ橋本前五輪相である。橋本氏は五輪相時代、記者会見でオリンピックのコロナ対策について「延べ1万人の医療従事者を確保する」と大見得を切って、「コロナ禍が収まっていなければ、そんなこと不可能だろう」と記者たちの反発を食ったことがある。
 いまは東京・大阪・兵庫・京都の1都2府1県で3度目の緊急事態宣言が発出されている。が、緊急事態宣言が発出されている地域でも感染者は増え続けている。東京オリンピック中止の決断を、いつ、だれが下すのか、にメディアや国民の関心は集まっている。政府の分科会の尾身会長は4月28日、衆院厚労委に出席してオリンピック開催問題について「感染状況と医療のひっ迫状況が一番大事な要素だということを踏まえて開催に関する議論をしっかりすべき時期に来ている」と、開催ありきの姿勢を崩さない政府にくぎを刺した。
 さらに、「開催途中に感染爆発が生じても、政治的配慮で緊急事態宣言を出さない恐れがある」との質問に対しては「そのときになって判断するのでは遅い。組織委員会など関係者が、そういう事態にどう対処すべきかを感染レベルや医療のひっ迫状況を想定して、いまから議論をしっかりやるべきだ。やろうと思ったらできる」と強い調子で述べた。
 そういう状況の中で、何をトチ狂ったのか、組織委の橋本会長は5日間以上ボランティアで協力してくれる看護師500人の募集を看護協会に依頼したのだから、看護師たちから猛反発が出るのは当然すぎるほど当然である。
 報道によれば、愛知県医労連は28日、「#看護師の五輪派遣は困ります」のタグ付きツイートを発信、数時間で10万ツイートを突破、トレンド入りしたという。ネットでも「患者を守ることに必死で、オリンピックどころではない」「いまも医療現場は看護師不足が続いている。オリンピックに派遣できる余裕があったら、こっちに回してほしい」「オリンピックより大事なことを忘れていませんか」といった声が続々と上がっているという。
 海外でも、コロナ禍の真っ最中のオリンピック開催に疑問の超えた噴出しだした。
 女子アイスホッケーで4大会連続金メダルを獲得したIOC委員の元カナダ代表のウィッケンハイザー氏はカナダの公共放送CBCの取材に応じ、「開催の可否は医療や保険の責任者が決めるべき」「開催するなら明確でオープンな説明が必要」と指摘。またカナダの感染専門医のボゴシェ氏も「選手や関係者の隔離やワクチン接種を強制しなければクラスターが起きても不思議ではない」と苦言を呈している。
 海外メディアも、日本の感染状況とワクチン接種状況から、オリンピック開催に疑問を呈しだしている。実際、海外と比べると日本のワクチン接種率(完了者)は、イスラエル58.86%、アメリカ30.92%、イギリス22.01%、イタリア10.12%、フランス9.55%、ドイツ7.62%、ブラジル6.44%、ロシア5.18%に比べ日本はたったの0.79%だ。こういう状態で、果たして「安心・安全」な大会を開催できるというのだろうか。いま東京都、政府、組織委、JOCが下すべき最善の方策は、直ちに「中止宣言」を発することだ。