「イギリス連合王国」――聞きなれない言葉だ。英国のホントウの国名がイギリス連合王国だということを知っていた人は、日本人の中でどれだけいただろう。私自身が、今度のイギリスEU離脱の騒ぎを巡ってのメディアの報道で初めて知った言葉だ。イギリスEU離脱問題で、日本のマスメディアがこの件の報道で「隠しに隠してきた」背景も初めて知った(マスメディアは悪意があって隠してきたわけではないと思うが、国民投票の結果が出るまでイギリス国民の中で国家が分裂しかねないような争点が生じていたことについて何も報道しなかった)。
イギリスはヨーロッパの中で唯一大陸から海を隔てて存在している国だ。アラブ諸国の中でイスラム原理主義者集団のISが勢力を拡大して、イラクやシリアなどで武力支配地域を拡大し始めた結果、ISの迫害から逃れるために反IS難民が自分たちを保護してくれると思ってEU諸国に避難を始めた。ドイツは難民を最大限受け入れると表明し、難民はドイツを目指し始めた。が、ドイツも無制限に難民を受け入れるわけにはいかない。EU諸国に難民の受け入れを要請するようになった。ドイツへの入国が困難になった難民は移住地を求めてEU諸国に救いの手を求めた。EUだけでなくアメリカやカナダ、オーストラリアにも移住先を求めた。西側諸国はかなり寛容だった。受け入れ人数を制限しながらも、可能な限り難民を受け入れる表明をした。冷たかったのは日本だけで、世界で最も厳しい難民規制を行い、事実上難民の受け入れをほとんど拒否してきた。
「テロを防ぐため」というのが日本の難民規制の理由だったが、日本を標的にするイスラム原理主義者のテロ集団が大挙日本に移住しようとしているとは到底思えない。
だが、イギリスはイスラム原理主義者が難民に紛れて入国することを恐れた、ということになっていた。そうした観測がイギリスのEU離脱の最大の要因だった、と日本中のあらゆるメディアが報じていた。確かにEUは国力に応じて難民を受け入れることを加盟国に要請していた。が、イギリスは大陸から海を隔てて乖離していた。難民の流入で国内に大混乱が生じていたという報道も一切なかった。
正直私はなぜEU離脱が国民投票で決めることになったのか、まったく分からなかった。日本のマス・メディアがイギリスの国内事情を正確に伝えていなかったからだ。
2年前スコットランドが「イギリス連合王国」から分離離脱するための住民投票を行ったときの理由も、私にはチンプンカンプンだった。スコットランドがイギリス連合王国と対立している理由を日本のマス・メディアがまったく報道しなかったからだ。
今回の国民投票の結果を見て、ようやく日本のマス・メディアもイギリス連合王国のなかの民族対立が根深くあったことを初めて知った。フランスなどが多民族国家であることはとっくに知っていたが、イギリスが多民族国家であることはこの事件で初めて知った。ただフランスにはアラブ系やアフリカ系民族が多数移民していることはオリンピックなどでのフランス選手の活躍を見ていればすぐに分かるのだが。イギリスの場合は東欧からの移民が多く、東欧系の民族は白色人種だから見た目には一見わからない。だからイギリス国内では白色人種同士の民族対立が深刻な状態にあったことは、日本のマス・メディアを見ている限りまったく分からない。
国民投票の結果が分かってから、日本のマス。メディアも実は国内の対立は純粋のイギリス系民族と東欧からの移民との対立によって格差社会が拡大し、イギリス系民族が「東欧からの移民によって自分たちの仕事が奪われているという不満を抱いていた」という事実を私は初めて知った。東欧からの移民は低賃金で(それでも母国での労働賃金に比べれば4倍くらい所得が増えたという)仕事をする。純粋のイギリス民族は彼らに仕事を奪われ、相対的に対賃金に甘んじることになったようだ。
が、こうした賃金格差も地域による。世界の金融センターのひとつであるシティがあるロンドン(イギリスの首都)は純粋イギリス系民族が幅を利かせている地域社会である。数学能力に秀でているインド人などは差別を受けていないし、ロンドン市民は圧倒的にEU存続派だ。一国の首都が、国から独立してEUにとどまるという意思を表明したのはそうした事情がある。一国の首都が国から分離独立するなどという話は私にとって寡聞かもしれないが、驚天動地の出来事だ。
私が6月25日に投稿したブログで、EU主要国が結束してイギリスに対して極めて厳しい制裁を加えるだろうと書いた予測は現実化しつつある。英キャメロン首相は辞任時期を3か月後に伸ばして、EUからの離脱は新首相のもとで行うと主張しているが、EU首脳国の独・仏・伊は認めない方針だ。「離脱するなら、時間を書かずに直ちにやれ」と一歩も引かない。裏交渉も一切拒否すると、妥協は一切しないことまで表明した。イギリスに甘い顔をするとEUからの離脱派が一気に増えかねないからだ。言うならイギリスはEUから最後通告を突きつけられた状態にある。
すでにブログで述べたように、イギリスがEUから離脱した場合、イギリスはどうなるか。
まずスコットランドが再びイギリス連合王国からの分離独立を巡って再び住民投票を行うだろう。2年前の住民投票では最終場面でもうろく女王がしゃしゃり出て何とか分離独立を阻止したが、今回のEUからの離脱問題でも最終場面でエリザベス女王が大衆紙「SAN」の1面トップでEU離脱を訴え、それがイギリス世論を大きく動かしたことにイギリス国民は激しく反発している。今度はエリザベス女王の「魔法の杖」も効果を発揮できないだろう。いや無理やり「魔法の杖」を使おうとすると、国民のイギリス王室に対する親愛の情は失われかねない。
さらに北アイルランドもイギリス連合王国から分離独立する可能性が濃厚だ。とくにイギリスと対立してアイルランドとは同一民族であり、アイルランドはEU加盟国だ。北アイルランドとアイルランドが住民投票で合併新国家を設立してEU残留で足並みを揃え、しかもイギリスの首都ロンドンまでもがイギリスから分離独立するという住民投票を成立させれば、かつての大英帝国の国威は見る影もなくなる。
反離脱派が手を組めば、イギリスが生き延びる方法は中国やロシアと手を組んでEUと対立する道を選ばざるを得ない。すでに中国はイギリスのEU離脱後を前提に秋波を贈っ
ている。そして中国はロシアとの関係も緊密にしようとしている。中国が仲立ちして英・露・中の経済協力関係を築く最高のチャンスと、いま考えている。
いまのところ沈黙を守っている米政府だが、そうした状況になるとこれまで「世界最強の同盟国」と自他ともに認めあってきた両国間に致命的な亀裂が生じるのは必至だ。
イギリスに限らず、いかなる国の政策もメリットだけあってデメリットはない、などということはありえない。イギリス国民の過半数はEUから離脱するメリットだけ考えて、その副作用として生じるデメリットを考えなかったのだろうか。
結局、私はすったもんだの挙句イギリスはサイド国民投票をやり直してEU残留を決めることになるだろうと考えている。が、その結果、イギリスのEUにおける発言力は激減するだろう。国策を誤ると、そのしっぺ返しは計り知れないほど大きいことをイギリス国民は知ることになる。
イギリスはヨーロッパの中で唯一大陸から海を隔てて存在している国だ。アラブ諸国の中でイスラム原理主義者集団のISが勢力を拡大して、イラクやシリアなどで武力支配地域を拡大し始めた結果、ISの迫害から逃れるために反IS難民が自分たちを保護してくれると思ってEU諸国に避難を始めた。ドイツは難民を最大限受け入れると表明し、難民はドイツを目指し始めた。が、ドイツも無制限に難民を受け入れるわけにはいかない。EU諸国に難民の受け入れを要請するようになった。ドイツへの入国が困難になった難民は移住地を求めてEU諸国に救いの手を求めた。EUだけでなくアメリカやカナダ、オーストラリアにも移住先を求めた。西側諸国はかなり寛容だった。受け入れ人数を制限しながらも、可能な限り難民を受け入れる表明をした。冷たかったのは日本だけで、世界で最も厳しい難民規制を行い、事実上難民の受け入れをほとんど拒否してきた。
「テロを防ぐため」というのが日本の難民規制の理由だったが、日本を標的にするイスラム原理主義者のテロ集団が大挙日本に移住しようとしているとは到底思えない。
だが、イギリスはイスラム原理主義者が難民に紛れて入国することを恐れた、ということになっていた。そうした観測がイギリスのEU離脱の最大の要因だった、と日本中のあらゆるメディアが報じていた。確かにEUは国力に応じて難民を受け入れることを加盟国に要請していた。が、イギリスは大陸から海を隔てて乖離していた。難民の流入で国内に大混乱が生じていたという報道も一切なかった。
正直私はなぜEU離脱が国民投票で決めることになったのか、まったく分からなかった。日本のマス・メディアがイギリスの国内事情を正確に伝えていなかったからだ。
2年前スコットランドが「イギリス連合王国」から分離離脱するための住民投票を行ったときの理由も、私にはチンプンカンプンだった。スコットランドがイギリス連合王国と対立している理由を日本のマス・メディアがまったく報道しなかったからだ。
今回の国民投票の結果を見て、ようやく日本のマス・メディアもイギリス連合王国のなかの民族対立が根深くあったことを初めて知った。フランスなどが多民族国家であることはとっくに知っていたが、イギリスが多民族国家であることはこの事件で初めて知った。ただフランスにはアラブ系やアフリカ系民族が多数移民していることはオリンピックなどでのフランス選手の活躍を見ていればすぐに分かるのだが。イギリスの場合は東欧からの移民が多く、東欧系の民族は白色人種だから見た目には一見わからない。だからイギリス国内では白色人種同士の民族対立が深刻な状態にあったことは、日本のマス・メディアを見ている限りまったく分からない。
国民投票の結果が分かってから、日本のマス。メディアも実は国内の対立は純粋のイギリス系民族と東欧からの移民との対立によって格差社会が拡大し、イギリス系民族が「東欧からの移民によって自分たちの仕事が奪われているという不満を抱いていた」という事実を私は初めて知った。東欧からの移民は低賃金で(それでも母国での労働賃金に比べれば4倍くらい所得が増えたという)仕事をする。純粋のイギリス民族は彼らに仕事を奪われ、相対的に対賃金に甘んじることになったようだ。
が、こうした賃金格差も地域による。世界の金融センターのひとつであるシティがあるロンドン(イギリスの首都)は純粋イギリス系民族が幅を利かせている地域社会である。数学能力に秀でているインド人などは差別を受けていないし、ロンドン市民は圧倒的にEU存続派だ。一国の首都が、国から独立してEUにとどまるという意思を表明したのはそうした事情がある。一国の首都が国から分離独立するなどという話は私にとって寡聞かもしれないが、驚天動地の出来事だ。
私が6月25日に投稿したブログで、EU主要国が結束してイギリスに対して極めて厳しい制裁を加えるだろうと書いた予測は現実化しつつある。英キャメロン首相は辞任時期を3か月後に伸ばして、EUからの離脱は新首相のもとで行うと主張しているが、EU首脳国の独・仏・伊は認めない方針だ。「離脱するなら、時間を書かずに直ちにやれ」と一歩も引かない。裏交渉も一切拒否すると、妥協は一切しないことまで表明した。イギリスに甘い顔をするとEUからの離脱派が一気に増えかねないからだ。言うならイギリスはEUから最後通告を突きつけられた状態にある。
すでにブログで述べたように、イギリスがEUから離脱した場合、イギリスはどうなるか。
まずスコットランドが再びイギリス連合王国からの分離独立を巡って再び住民投票を行うだろう。2年前の住民投票では最終場面でもうろく女王がしゃしゃり出て何とか分離独立を阻止したが、今回のEUからの離脱問題でも最終場面でエリザベス女王が大衆紙「SAN」の1面トップでEU離脱を訴え、それがイギリス世論を大きく動かしたことにイギリス国民は激しく反発している。今度はエリザベス女王の「魔法の杖」も効果を発揮できないだろう。いや無理やり「魔法の杖」を使おうとすると、国民のイギリス王室に対する親愛の情は失われかねない。
さらに北アイルランドもイギリス連合王国から分離独立する可能性が濃厚だ。とくにイギリスと対立してアイルランドとは同一民族であり、アイルランドはEU加盟国だ。北アイルランドとアイルランドが住民投票で合併新国家を設立してEU残留で足並みを揃え、しかもイギリスの首都ロンドンまでもがイギリスから分離独立するという住民投票を成立させれば、かつての大英帝国の国威は見る影もなくなる。
反離脱派が手を組めば、イギリスが生き延びる方法は中国やロシアと手を組んでEUと対立する道を選ばざるを得ない。すでに中国はイギリスのEU離脱後を前提に秋波を贈っ
ている。そして中国はロシアとの関係も緊密にしようとしている。中国が仲立ちして英・露・中の経済協力関係を築く最高のチャンスと、いま考えている。
いまのところ沈黙を守っている米政府だが、そうした状況になるとこれまで「世界最強の同盟国」と自他ともに認めあってきた両国間に致命的な亀裂が生じるのは必至だ。
イギリスに限らず、いかなる国の政策もメリットだけあってデメリットはない、などということはありえない。イギリス国民の過半数はEUから離脱するメリットだけ考えて、その副作用として生じるデメリットを考えなかったのだろうか。
結局、私はすったもんだの挙句イギリスはサイド国民投票をやり直してEU残留を決めることになるだろうと考えている。が、その結果、イギリスのEUにおける発言力は激減するだろう。国策を誤ると、そのしっぺ返しは計り知れないほど大きいことをイギリス国民は知ることになる。