小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

ワクチンに新効果があるかも~ 立憲民主党の「アベノミクス失敗検証」の論理的考察

2021-09-24 09:45:24 | Weblog
【別件特記】 30日で緊急事態宣言が解除される。ずっと巣ごもり生活を余儀なくされていた身としては、やっと友人たちにも会える。カラオケもできるとほっとしている。で、ふと気づいた疑問がある。世界中の専門家もまだ多分気づいていないワクチンの効果である。前にもブログで書いたがコロナ・ワクチンは実は「ワクチンのようであってワクチンではない」のに、厚労省はワクチンとして特例承認した。新型コロナの感染力がかなり強く、重症化すれば死に至る危険性も高いためであった。
厚労省がワクチンを特例承認したのは、ワクチンを2回接種すればたとえ感染しても発症を抑える効果がある、発症しても重症化を抑える効果があるという基準で承認したという経緯があった。
その後、各国の研究機関や大学病院などの治験により、ある程度感染予防効果もあることが分かってきた。ただし感染予防効果がそれほど長続きするわけでもなく、イスラエルやアメリカでは「ブースター接種」と称する3回目の接種も始まっている。日本でも医療従事者等は年内に、高齢者は年明け早々からブースター接種が行われるという。
実は私がふと疑問に思ったのは、このワクチンが、感染しても発症を抑える効果がある、重症化を抑える効果がある(もちろん100%ではない)ということは、ワクチンがコロナ・ウイルスを殺さないまでも、ウイルスの感染力や活動能力を相当程度軽減する効力を持っているからではないかということだ。だとすれば、ワクチンを接種すれば、自分自身も発症を抑えられるし、またたとえ感染しても体内に潜り込んだウイルスの感染力や活動能力を抑えられれば、他人に対する感染リスクをかなり防ぐことができるはずではないだろうか。
厚労省や国立感染症研究所に電話で確認したところ、そういう治験は聞いたことがないというから、ぜひ日本で研究を進めてくれと要請はしておいた。
いま世界中で若い人たちがワクチンの副反応を恐れてワクチン接種にソッポを向いているようだが、この治験データを明らかにできれば若い人たちも接種に前向きになってくれるかもしれない。(28日)


この記事のタイトルを、なぜ「論理的に考察する」としたのか。数字としてアベノミクスなる経済政策が失敗に終わったことは、いまさら検証するまでもなく一握りの富裕層を除いて大半の国民が実感として味わっている。だからなぜアベノミクスが失敗に終わったのかの「なぜ」を解明しないと、アベノミクスをさらに拡大した「サナエノミクス」なるバカバカしい経済政策を葬ることができないからだ。
そこで、21日に発表した立憲民主党の「アベノミクスの失敗検証」とは別の視点から論理的に考察することにしたというわけだ。

●立憲民主党のアベノミクス検証とは
検証結果として立憲はこう結論付けた。「アベノミクスにより従業員の実質賃金は低下し、貯蓄ゼロ世帯が増えた半面、所得1億円以上の高額所得層は2倍に増えた。潜在成長率は0%近くに低下し、原発輸出やカジノ誘致などの成長戦略もことごとく失敗した」と。原発輸出はともかく、カジノ誘致は横浜市に関しては市民の反対で誘致が不可能になったので経済政策としての結果は不明である。むしろオリンピック強行で巨額の赤字を都や国が背負い込むことになり、そのしわ寄せは税金として都民や国民にいずれのしかかってくることを指摘すべきだった。東日本大震災の時は「復興税」を国民も容認したが、「オリンピック赤字埋め税」を国民が容認するか。
この検証結果を発表した枝野代表は記者団に対し「アベノミクスはお金持ちをさらに大金持ちに、強いものをさらに強くした。いわゆるトリクルダウン(普通の暮らしをしている人、厳しい生活をしている人たちに滑り落ちる現象)は起きず、格差や貧困問題の改善につながらなかった。経済政策を抜本的に変えない限り日本経済を低迷から抜け出せない。国内の消費を増やすため、分配と安心を重視する政策に転換しなければならない」と述べた。
旧民主党政権(野田総理)が解散と引き換えに安倍自民党総裁に約束させた消費税増税については、かえって消費の停滞を招いたとした。そのうえで、アベノミクスの3本の矢についてはこう検証した(以下、立憲民主党ホームページから引用)。

 アベノミクス政策のいわゆる3本の矢の1つ目とされる「異次元金融緩和」については、「大胆な金融緩和――円安誘導やゼロ金利あるいはマイナス金利――によって、確かに輸出産業を中心に収益増となり、株価は上昇した。しかしインフレ期待に働きかけての消費増には全くつながらず、物価安定の目標の2%も達成できていない」と指摘しました。当初の目的であった安定的な物価上昇を達成できていない中、地方銀行の経営が悪化したり、官製相場が形成されるなど、極端な金融政策に伴う副作用のリスクが発生している点についても言及。さらに大きな問題点として、こうした政策を「いつまで続けるのかの出口戦略が全くなく、その見通しも立っていない」ことも取り上げました。
 2つ目の矢である「積極的な財政政策」については、「消費を喚起させなければならないにも関わらず、2度にわたる消費増税でGDPの半分以上を占める消費を腰折れさせた。必要な投資、税制改革が進まない一方で、インフラ投資も従来型のものが中心で、経済的な波及効果はあまり得られなかった。いずれにしろ消化不良で使い残しも目立っている」と、2本目の矢の空回りぶりを指摘しました。
 3本目の最後の矢である「成長戦略」については、「金融緩和の『カンフル剤が効いている間に進めるべき体質改善』が『成長戦略』であるにもかかわらず、製造業の労働生産性はOECD37カ国中16位まで落ちて、潜在成長率はゼロパーセントまで低下している」と述べました。枝野代表は、その背景として「行き過ぎた株主資本主義」があると指摘し、「行き過ぎた株主資本主義が労働分配の低下や設備投資の減少につながっており、結果として企業の内部留保を戦後最大規模にまで膨らませている。その結果、企業の成長につながるところに回っていない」との見方を示しました。その一方で、安倍政権の目玉政策であった、原発輸出やカジノ誘致、五輪開催等は「いずれも失敗、あるいは功を奏していない状況だ」とも述べました。

この引用はたぶん、検証結果の要約だと思うので、あるいは検証全文では、これから私が検証することもすでに検証されているかもしれない。だから私自身のこの稿での目的は昨年9月24日に連載をいったん始めた『菅政権は安倍総理の「負のレガシー」とどう向き合うか アベノミクスの検証(1)』を、突然浮上した日本学術会議会員の任命権問題の追及を始めたため中断し、そのままになり、事実上ボツにしていたものを凝縮したものである(一部加筆)。
なお学術会議会員の任命権は総理にはないことを私は内閣法制局との議論で確認した(最終的に法制局職員も認めた)。
実は現行憲法は戦争直後に作成されたため「公務員」とか「官吏」といった戦前・戦中に使用されていた用語がそのまま使用されており、現行憲法15条で使用されている「公務員」とは実は公職選挙で選ばれる議員や首長のことであり、私たちがいま認識している行政官としての公務員は現行憲法では「官吏」と書かれている(73条4項)。この問題にかかりっきりになっていたのと、コロナ禍、オリンピック問題と次々に取り組むべきテーマが続出してきたため、アベノミクス検証記事はお蔵入りさせてきたというわけだ。

●実際には国民総所得は増え、国民金融資産も増えたが…
2019年1月28日から始まった第108回通常国会は冒頭から荒れに荒れた。厚労省が発表した18年度の賃金統計がねつ造だったことがバレたからだ。厚労省は平均賃金が大幅アップしたと発表し、安倍総理(当時)はアベノミクスの成果と胸を張った。が、実は真っ赤なウソだったことがバレた。
安倍氏は毎年経団連会長に従業員の賃金アップを「お願い」し、官製春闘と呼ばれていた。そのせいか、大企業は正規社員の給与はアップした。ベースアップを復活した大企業もあった。だから正規社員だけを取れば平均賃金が上昇したことは間違いない。が、厚労省の賃金統計の対象は正規社員だけでなく、常雇従業員すべてである。つまり正規社員と同じ勤務をしている非正規社員の賃金も統計に含めなければならない。そしてこの時期、定年退職後の再雇用で非正規社員として働く人や子育てが終わって専業主婦だった女性が非正規社員として働くケースも増えだしていた。失われた30年の間に企業はできるだけ正規社員の採用を抑え、いつでも企業の都合で解雇できる非正規社員を増やしてきた。従業員全体に占める正規・非正規の比率を厚労省は調べているのかどうかは不明だが、非正規の比率が増えれば正規社員の給料が少しくらい上がっても平均賃金は下がる。
アベノミクスのもとで平均賃金は下がったが、非正規社員の急増で働き手が増えたため国民総所得は増加した。が、増えた所得を多くの国民は消費に回さず、せっせと貯蓄した。さらに安倍政府は飲食業など労働集約型産業の人手不足解消のため日本人労働者より安価な労働力である外国人の受け入れ(移民政策ではない)にも積極的になった。外国人労働者は出稼ぎが目的で来日する。だから質素な生活に耐えながら、稼いだ金を本国の家族に送金する。こうして銀行など金融機関には史上空前の預貯金が集まった。アベノミクスの超金融緩和を支えた日銀・黒田総裁のマイナス金利政策(金融機関が余剰資金を日銀に預ける場合、金利0.1%を取られる)が金融機関の経営を圧迫し、経営難に陥る地方銀行が続出している。
実はそうしたアベノミクスの問題を、私は19年2月4日のブログで指摘している。ちょっと長いが抜粋する。

こうした時代の流れは高度に発達した資本主義社会が生み出した歴史的必然であり、【女性の高学歴化→女性の社会進出の機会増大→女性の価値観の変化による少子化→労働人口の減少→消費の減少(需要の減少によるデフレ状況)】という社会構造の変化は、さすがのケインズも想定外だったのだろう。そのうえ日本は世界でもまれな雇用形態がある。「年功序列・終身雇用」ってやつだ。
アメリカではトランプが激怒している。GMの工場閉鎖に対してだ。「せっかく輸入自動車の関税を引き上げてアメリカの自動車産業を回復してやったのに、工場を閉鎖して失業者を生むとは何事か」と。だが、GMの経営者に言わせれば、「自動車製造のコストに直結する原材料の鉄鋼やアルミ、部品類に高関税をかけたため、いまの販売価格では採算が取れなくなった。かといってコスト増を販売価格に転嫁すれば競争力が失われる。工場を閉鎖したのはあんたの政策のせいだよ」。わかってのかね、安倍さんよ。
日産やシャープがなぜ立ち直れたのか。日産は経営者に血も涙もないゴーン氏を招き、外国人の手によって人員整理を大胆にやったからだよね。シャープはホンハイに身売りして、やはり外国人の手によって赤字垂れ流しの工場をばっさばっさと整理して経営の効率化を図ったからだよね。東芝はなぜゴーン氏のような血も涙もない外国人のプロ経営者を招いてばっさばっさと人員整理に踏み切らなかったのかね。そうしていれば虎の子のフラシュメモリの事業を切り売りしなくても済んだのにね。
アベノミクスの柱の一つである金融緩和。日銀・黒田総裁と手を組んで円安誘導を図った。結果、日本の輸出産業は息を吹き返した。息を吹き返したが、輸出産業は輸出価格を円安にスライドして下げようとはしなかった。輸出価格を下げると需要が激増して生産を増大する必要が生じる。設備投資も必要になるし、従業員も増やさなければならなくなる。「そんなリスクは冒せない」というのが日本の輸出産業の本音だ。だから為替差益でがっぽがっぽ。安倍さんは「せめて従業員の給料を上げてやってくれ」と経済団体に泣きついて、それなりにベースアップを復活する企業が増えて多少の効果はあったが、なにせ日本の春闘は「護送船団方式」だからね。「自分だけ、いいカッコしい」はできにくいんだよね。
言っておくけど、「護送船団方式」は金融行政だけではないんだよ。日米構造協議で骨抜きにされたが、大店法は零細商店を保護するための「護送船団政策」だったんだよ。もう忘れたのかい?
日本の場合はそういう特殊な条件がある。最近、と言ってもバブル崩壊以降だけど、「株主優待制度」を設ける企業が増えてきた。村上ファンドなどと称された「物言う株主」の出現のせいではないんだよ。それまでせっせせっせと内部留保に精を出してきた企業が、設備投資をしてシェアを伸ばす時代は終わったと考えているからなんだ。むしろ少数株主に還元して株式を分散し、買い占めを防ぐことに力を入れだしたためなんだよ。株主を増やすことが目的だから、「株主優待」は少数株主に特に有利にしている。例えば100株の株主には年5000円分の優待をしても、1000株の株主には3万円しか還元しないとかね。こういうやり方って、普通の商売では考えられないよね。通常はたくさん買ってくれた人へのサービスのほうが大きいのに、日本の株主優待はたくさん株を持つとかえって不利になる。そういうやり方は、アメリカだったら大株主が黙っていないと思うけどね。
この辺でやめとくが、かつて日米貿易摩擦が激化した時期、アメリカから「日本異質論」なる批判が浴びせられた。日本に長く染みついてきた「弱者救済横並び」の「護送船団方式」は、弱肉強食の「自由競争至上主義」の欧米人から見ると、間違いなく異質に見えるはずだ。この日本の社会的規範については私が1992年に上梓した『忠臣蔵と西部劇』に詳しいが、欧米人から見て日本が異質ならば、日本人から見たら欧米こそ異質なはずだ。そういう論理的な反論ができないところに、たぶん日本の教育が抱えている問題がありそうな気がする。
賃金統計の不正問題に戻る。不正は不正として「なぜ不正が生じ、途中で分かったのに不正の上塗りでごまかし続けようとしたのか」の追求のほうが大切だ。
安倍さんが、厚労省の「賃金統計」を鵜呑みにして「アベノミクスの成果」を国会答弁で誇ったかどうかは知らないが、国民所得(可処分所得)は間違いなく増えている。それが証拠に国民の金融資産は過去最高を更新し続けている。
安倍さんが毎年、経済団体に賃上げを要請し続けてきたことも多少効果があったのだと思う。が、少子化によって労働人口は(現役世代)減り続けている。そのため安倍さんは外国人労働者の受け入れを決めたが、特別技能2の、永住権があり家族の同伴も認められる人以外は、日本で稼いだ金の大半を本国の家族に仕送りしてしまう。
実は、これが本質的問題なのだが、アベノミクスの目指す「デフレ克服」は、日本では不可能なのだ。なぜか。(中略)
日本でいくら金融緩和政策を続けても消費者物価指数は2%には絶対に到達しない。基本的に需要層は労働人口層が担っている。子供が使う金は親がくれる小遣いの範囲だし、高齢者は基本的に生活需品しか買わない。そこで問題になるのは最大の需要層である労働人口だが、この層が減少し続けている。少子化の結果が今、目の前にある。そのことがわかっていないから、アベノミクスでは需要は回復しない。
唯一の効果的な手法は、第2次安倍政権が誕生した時、私がブログで書いたように相続税と贈与税の関係を逆転させて(相続税を高くして、贈与税を低くすること)、高齢の富裕層がため込んでいる金を現役世代に吐き出させろということと、累進税率を厳しくして中低所得層の税負担を軽減化することだ。それ以外に需要を増やす方法はないんだよ。
現役世代は、金を使いたくても将来が不安だから消費に回さず、貯蓄に回す。前にも書いたが、別に日本人が格別「貯蓄好き」の国民性だからじゃないよ。そのうえ安倍さんが「これまで高齢者に偏っていた社会保障を全世帯型に変える」などと言い出したから、現役世代は老後生活にますます不安を持つようになった。「老後生活は自己責任」という感覚が、いまの労働人口には染みついていると思う。だから国民金融資産だけは増え続ける。アベノミクスを続ければ続けるほど、この傾向はかえって強まる。わかってねぇな。

●内閣府に「ひとりシーソー大臣」を作ったのは総理の責任回避のため?
本来、人品高潔な私としてはちょっと下品な文章なので、少し手を加えようかと思ったが、森友学園関連の公文書改ざんを指揮した佐川氏と同類項の人間と思われかねないので、一切無修正で転載した(コピーしてペースト)。
世界経済に大打撃を与えたコロナ禍はアベノミクスのせいではない。だが、不可抗力な問題に直面しても日銀は金融緩和政策を続けた。そのうえ、私は最初からブログで書いてきたが「コロナ対策と経済再生の両立」は絶対に不可能なのに、政府は両立できるという妄想を抱き続けた。
本来、コロナ対策は厚労省が、経済再生は経産省の管轄で、両省が激突して感染状況をにらみながら手綱を緩めたり引き締めたりしながら経済の疲弊を最小限に食い止めつつコロナ感染の拡大を防ぐのが総理の責任だ。
が、安倍政権はこの両省の上に「ひとりシーソー大臣」を内閣府に作ってしまった。西村コロナ感染対策担当相兼経済再生担当相である。西村氏は他にも全世代型福祉政策担当相と無任所の大臣の一人四役を務めることになった。つまり総理大臣が負うべき責任と権限を西村氏に預けてしまったのである。で、肝心の安倍総理は大親友の米トランプ大統領(当時)とゴルフ三昧。とうとうゴルフのやりすぎで体を壊し、任期を1年余残して総理総裁を辞任、裏で院政を敷ける人間としてガースーを後継者にした。
でも、考えてみれば安倍さんはついていた。経済政策の失敗をコロナ禍のせいにできたからだ。しかしコロナ禍に襲われなくても、日本だけでなく世界経済は戦後長く続いた成長時代から停滞期に、すでに移っていたのである。
言うまでもないことだが、経済成長とはGDP(国内総生産)が持続的に上昇し続けることだ。GDPが持続的に上昇するためには総需要(AD)が常にJDPを上回り続けなければならない。ADがGDPを上回れば経済はインフレ状態になり、ADがGDPを下回れば供給過剰でデフレになる。アベノミクスが物価上昇率目標を2%にしたのは、過去の経済成長理論に基づく理想的な経済成長を実現するためだった。
が、時代が大きく変化していた。ADがGDPを持続的に上回るためには先進国や準先進国(途上国)の市場が膨らみ続けることが必要だ。日本の場合、GDPの6割を個人消費が占めているとされ、個人消費の大部分は労働人口(生産人口)が占めている。だから個人消費が伸びるためには人口が増え続ける必要がある。人口が減りだすと、当然国内の市場規模は縮小する。
内閣府が2018年度の主要国及びアジア主要国(中国、インドは含まず)の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子供の数。この数値が2.1以下になると人口が減少すると言われている)を発表している(2020年7月)。世界主要国7か国及びアジア主要国5か国の合計特殊出生率を高い順から列記する。

【世界】 ①フランス1.88 ②スウェーデン1.75 ③アメリカ1.73 
④イギリス1.70 ⑤ドイツ1.57 ⑥日本1.42 ⑦イタリア1.29

【アジア】 ①タイ1.53 ②シンガポール1.14 ③香港1.07 ④台湾1.06
⑤韓国0.98

 このデータから明らかなように、世界の先進国でも途上国が多いアジアでも人口が減少時代に突入していることが明らかだ。つまりAD(総需要)が伸びることは極めて困難なのだ。アダム・スミスでもマルクスでもケインズでも、こういう時代の成長経済政策を考えることは不可能だろう。

●世界人口は2064年以降減少時代に入るという説が有力~
実は世界人口は、総体としてはまだ減少期に入っていない。後発途上国が多いアフリカや南米では人口がまだ増え続けているからだ。
「世界人口は2064年の97億人をピークに減少時代に入る」という衝撃的な予測を米ワシントン大学が発表した(20年7月)。50年までに世界195か国・地域のうち151が現在の人口を維持できなくなる。30万年の人類史で寒冷期や疫病によって一時的に人口減に見舞われたことはあるが、出生率の低下による自然減は人類が初めて経験する危機だ。まさに人類は「いまそこにある危機」に直面しているのだ。
1960年代後半、世界の人口増加率はピークの2.09%に達したが、2023年には1%を切る。21世紀に入って先進国で生産人口(労働人口)が徐々に減り始め、今や世界の約4分の1の国で働き手が減り続けている。
自民党総裁選で有力候補の岸田氏は「小泉政策以来の新自由主義(規制緩和によって民間の競争を活発化することで経済成長を実現するという考え)から脱却」し、「成長と分配の好循環を実現」して、宏池会の元祖・池田隼人元首相にならって「令和版所得倍増」をぶち上げている。
が、池田内閣の所得倍増計画が成功したのは、戦後の混乱期が収まり世界的規模で経済成長時代に入ったからであって、とくに池田内閣の経済成長政策が成功した結果ではない。美しすぎた元議員の金子恵実氏が総理でも国民所得は急増していた。
戦後の経済政策で唯一成功したと言えるのは吉田茂内閣の「傾斜生産方式」(戦後の荒廃した経済を立て直すために鉄鋼と石炭という当時の二大産業に資金と資源を集中させた政策。この政策がなかったら日本経済は朝鮮特需にありつけなかった)だけだ。
次に日本産業界にとって「神風」になったのは二度にわたる石油ショックだった。石油資源を海外に頼るしかなかった日本産業界にとっては致命的とも言える打撃だったが、それを「神風」に変えたのは日本のエレクトロニクス産業だった。「軽薄短小」「省エネ省力」を合言葉に日本産業界は省エネ技術で世界の最先端に躍り出た結果、日本はアメリカに次ぐ経済大国に昇り詰めたからだ。
そんな神風が、いま期待できる状況にはない。たとえば太陽光発電ではかつて三洋電機の機能材料研究所が世界のトップを独走していたが、三洋には産業化できるだけの力がなかった。太陽光発電が再生エネルギーの本命に躍り出た今、太陽光パネルの生産も技術も中国が世界をリードしている。中国は960万平方キロと日本の25倍の国土を有する。しかも重要なエネルギー資源である石油は日本ほどではないが60%以上を輸入に頼っている。そのうえ沿岸部の大都市には人口が密集しているが、農村地帯は小さな村があちこちに点在している。小さな発電所をあちこちに作るのは【費用対効果】の点で不利だし、送電網を全国に張り巡らせるのも膨大なコストがかかる。石油ショックが日本にとって神風になったのと同様、中国のこうした不利な状況がかえって太陽光発電の普及にとっては有利な条件になったのだ。
かつてハードウェアの技術では世界をリードしていた日本だが、ソフトウェアが産業の血となった今、日本にとって致命的なハンデは言語の壁である。たとえば世界最初の本格的スマホは日本のNTTドコモが開発したiモードで1999年1月に発表され、たちまち日本の携帯電話市場を制した。アップルがiPhoneを発売して世界を席巻したのは2007年だから、ドコモが先駆者と言ってもいい。が、ドコモは日本語版しかつくらなかった。言語の壁を超えることができなかったのである。ソフトウェアが産業の血となってハードウェアの性能も左右する時代になった今、日本は英語を第2公用語にするくらい英語教育に力を入れなければ、これからの国際競争に勝てない。だから岸田氏のぶち上げたアドバルーンは、残念ながら「絵に描いた餅」のレベルを脱しえない。

●自由貿易圏が雨後の筍のように増えだした理由
ここ数年、自由貿易圏の形成が一種のブーム化している。EU圏が先陣を切った格好だが、通貨までユーロに統一してしまった。イギリスが昨年12月31日に離脱したが、私はそもそもイギリスがEUに加盟していたこと自体が不思議だった。イギリスは通貨としてEU諸国とは異なりポンドという自国通貨を保持続けており、ユーロとポンドの交換比率も変動相場制だからだ。イスラム過激派の攻撃から逃れてきた難民を受け入れたくないからというのが理由とされているが、EU諸国でもすべて無条件に難民を受け入れているわけではない。もともと自国通貨を手放さなかったくらいだから、あえて貿易面で不利になる「離脱」を選択した理由が分からない。
イギリスのEU離脱はともかく、いま新しい自由貿易圏が次々に生まれており、大きな経済圏構想としては日本が主導するTPP(環太平洋パートナーシップ協定)と中国の一帯一路がある。TPPはオバマ大統領のときはアメリカも加盟していたが、トランプ大統領のとき離脱し、いま中国やイギリスが加盟を申請している。イギリスは認められるようだが、中国は難しいかもしれない。
中国の一帯一路には日本も少し色気を見せており、EU諸国でありながらイタリアも加盟、2019年時点で加盟国はアジア、中央アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカの125か国が加盟する一大経済圏になっている、ただなぜ一帯一路なのか、疑問もある、ネット上の説明では「一帯」はシルクロードの復活とも言える陸路、「一路」は海路を意味するようだが、私は経済圏構想全体を「一帯」と位置づけ、陸路と海路の「二路」で一帯二路と命名したほうが分かりやすいと思っている。
そうした巨大経済圏とは別にアメリカは二国間協定のFTA(関税の引き下げや撤廃による自由貿易協定)やEPA(さらに投資や知的財産権なども含む経済連携協定)に力を入れており、日本もTPPだけでなく自由貿易圏の拡大に力を入れている。
なぜ各国が自由貿易圏の拡大に、いま力を入れだしたのか。後発途上国のアフリカ諸国や南米諸国を除いて人口が減少して自国のマーケットが縮小しつつあるため、輸出を拡大したいというのが自由貿易圏に加盟する各国の思惑だ。もちろん、自由貿易圏に加盟すれば輸出も増えるが輸入も増える。輸出だけ増やしたいと言っても、そんなエゴはアメリカでも通せない。トランプがTPPから離脱したのは、メリット(輸出の拡大)よりデメリット(輸入の増加)の方が大きいと考えたからで、日本も農畜産物などの輸入増は覚悟のうえだろう。
農畜産業者たちからは、いまのところ表立ったTPP反対の声は上がっていないようだが、実際にTPPが発効して海外から安価な農畜産物がどっと入ってくるようになると悲鳴を上げる農家や畜産か急増する。そういう意味では今のところアメリカという強力な競争相手が抜けてくれたおかげで、自動車や電気製品の海外市場は急速に拡大する可能性はある。日本としては中国というアメリカより強力な競争相手がTPPに入ってくるとメリットよりデメリットが大きくなる可能性もあり、日本政府も中国の加盟だけは何としても阻止したいのではないか。

●アベノミクスが絵に描いた餅に終わった理由
にもかかわらずアベノミクスはなんとかして経済成長を実現しようと考えた。そのマジックのような手段が金融緩和による円安誘導だ。
為替が固定相場制(スミソニアン体制ともいう)から変動相場制に移行して以降、各国通貨は国内では商品等の売買決済手段という顔と、為替市場では通貨自体が売買の対象である商品としての顔を持つようになった。通貨の発行権を持つ日銀が金融緩和政策(政府が発行する国債を購入するため通貨を増発する、また企業や個人が金融機関から融資を受けやすくするために金利を下げる)で円安誘導すれば、確かに輸出製品の国際競争力は強まる。
アベノミクスの失敗の一つは日本だけでなく海外主要国も人口減少によって市場が縮小しつつあるのに、自動車や電気製品の国際競争力を強化しても売り先がないことに気づかなかったことにある。だから自動車メーカーや電機メーカーは安倍さんの期待に反して生産を増強しなかったし、設備投資もしなかった。メーカーは円安によって輸出価格を下げることはできたのだが、輸出価格を下げると日本製品の海外需要が高まり設備投資をして生産を増やさなければならなくなるから、海外需要を増大させないために輸出価格を据え置くことにした。安倍第2次政権が発足する前は1ドル=80円という超円高水準だったが、アベノミクスの円安誘導によって一時は1ドル=120円まで円安が進んだため、輸出価格を据え置いた自動車メーカーや電機メーカーは軒並み膨大な為替差益を手にすることになった。
円安によって輸出メーカーはよだれが出るほどもうかったが、当然輸入品は円安によって高騰した。輸入品の価格が高騰すれば消費者物価に跳ね返るはずだが、それもなかった。確かに原料の多くを輸入品に頼っている食料品の一部はかなり値上げしたが、コロナ感染防止ではないが不要不急の輸入品は消費者が買い控えるようになった。需要が減少したため、輸入品も為替を反映した値上げができず、消費者物価の上昇につながらなかったというわけだ。
円安誘導しても【輸出製品の競争力強化→増産→設備投資→雇用拡大・賃金上昇→国内需要の増加→消費者物価上昇=経済成長】という絵に描いた餅でしかなかったアベノミクスの「成果」は、所詮手にすることはできなかったのである。そのうえ輸入品は円安分を小売価格に転嫁できず、消費者物価の上昇要因にもならなかった。そういう状態を「踏んだり蹴ったり」と、日本では言う。

●日本企業のビヘイビア原理がアベノミクスを紙くずにした
なぜ日本企業は輸出競争力が高まったのに生産拡大に走らなかったのか。アベノミクスの歯車を狂わせた要因は実は日本の雇用習慣にある。従業員を採用するとき、別に「終身雇用・年功序列」の雇用契約を結んで採用するわけではない。だが、日本の労働関係法は従業員保護の色合いが非常に強い。
最近45歳定年制とか、40歳を超えたら雇用関係を解除して個人事業主として仕事を依頼するという「新雇用制度」を打ち出す企業も現れ出した。ただ法律で25年4月から65歳定年制が義務化されることになっており、法の網をどうくぐって45歳定年や40歳から個人事業主契約に切り替えることができるかは不明だ。強制的雇用制度にすることは難しいと思う。
アメリカでトランプ氏がTPPから離脱し、自国産業を保護するため鉄鋼やアルミ製品、自動車などに高率関税をかけた。はっきり言えばエゴ丸出しの保護主義だが、経済政策としては正しかった。現にトランプ時代、アメリカだけが消費者物価上昇率2%前後を維持し続け、先進国の中で独り勝ちの反映を実現した。すでに述べたが、そのトランプがGMに対して怒りを爆発させた。せっかく輸入自動車に高率関税をかけて競争力を回復してやったのに、あろうことかGMが北米の5工場を閉鎖したのだ(うち1工場はカナダ)。
怒りを爆発させたトランプに対して、工場の1作業員からCMでの生活をスタートさせた同社初の女性CEOのメアリー・パーラ氏は涼しい顔で反論した。「鉄鋼・アルミなどの素材製品や自動車部品の価格が高率関税で高騰し、その分を自動車の販売価格に転嫁したらアメリカ人の購買限度額を超えてしまう。売れ残った在庫を政府がすべて買い取ってくれるなら工場は閉鎖しません」と。GMでは製造原価の何割を輸入素材・部品が占めているかは不明だが、原価が高騰して販売価格が高騰すれば消費者の購入意欲が減少するのは当たり前だ。
問題は、アメリカではそうして平気で工場を閉鎖したり従業員をレイオフしたりできるが、日本ではそれが難しい。日本企業が大胆な合理化を進めるためには日産のように外国人のプロ経営者を招いて人員削減を強引に進めるか、シャ-プのように企業ごと外資に身売りして外国人経営者の手で工場の統廃合などを大胆に進めるしかない。東芝も出来れば外国資本に身売りするか、外国人のプロ経営者の手で大胆な経営合理化を進めたいところだが、東芝は軍需産業の一翼も占めており、軍事技術の海外流出を恐れる日本政府が東芝の手足を縛っているため、日産やシャープのようなやり方で経営を立て直すことが難しい。国策企業でもある東芝の悲劇はその一点にある。
つまり日本企業はアメリカのようにドラスティックに従業員を雇用したりレイオフしたりすることが難しいのである。もしトヨタやパナソニックがアメリカ企業のように従業員に対する雇用責任を持たなくてもいいのであれば、アベノミクスの恩恵で生産を増強して世界中に製品を売りまくることができたし、そういう選択をしていただろう。が、そういうことが日本企業にはできないから、世界的に経済成長が停滞しているなかでの設備投資や雇用の拡大はきわめてリスキーなのだ。つまり日本企業のビヘイビア原理は利益拡大至上主義ではなく、工場の生産ラインをいかに維持するか、そのことによって従業員の雇用をいかに守るかにあるのだ。
そのことを証明した事例が過去にあった。

●プラザ合意後の日本企業のビヘイビア
1985年9月、ニューヨークのプラザホテルに日米英仏独5か国の財務大臣・中央銀行総裁が集まった(日本からは竹下蔵相と澄田日銀総裁が出席)。会議の目的はレーガノミクスによってアメリカが71年ぶりに純債務国に転落したため、米産業界の国際競争力を回復するために主要5か国がドル安に向けて協調介入してもらいたいというアメリカの「懇願」であった。ちなみにレーガンはソ連との軍拡競争に狂奔して軍事費を垂れ流して財政赤字を巨大化する一方、前大統領のカーターが景気を刺激するための低金利政策を行ったため、過度の消費者需要が発生してインフレが生じ、貿易赤字も膨らんだ。そのためレーガンはインフレを抑制するため歳出削減・大幅減税・規制緩和・高金利政策を4本柱とする経済政策を打ち出した。これが、いわゆる「レーガノミクス」である。
これによって過度のインフレは縮小したが、副作用が生じた。通貨の供給を削減して高金利政策をとったため(レーガン政権発足1年後には米市中金利は20%超に達した)、米産業界は悲鳴をあげだした。高金利政策によって為替市場ではドル高が急速に進み、米産業界は輸出競争力を急速に失ったのである。
自国さえ良ければいいというアメリカの姿勢は今も昔も変わらないが、レーガノミクスによってアメリカは財政赤字と貿易赤字という双子の赤字を抱え、アメリカ史上初めて日英仏独に「助けてください」と頭を下げたのである。
実際にはアメリカの貿易赤字の対象国は日本とドイツだけであり、英仏との貿易収支は大幅な赤字になっていたわけではない。ただ英仏のメンツを立てることと、為替市場への協調介入を一緒にしてほしいというだけの理由である。
いずれにせよ、その結果、円高・マルク高が急速に進みだした。とりわけ円高ペースはすさまじく、プラザ合意の時点では1ドル=240円だった為替相場は2年後の87年には倍の1ドル―120円まで円高が急伸した。その過程で、当然ながら日本の輸出産業から悲鳴が飛び出した。「1ドル=200円がぎりぎりの採算ラインだ」「180円を切ったら油種は不可能になる」と悲鳴が上がった。が、円高は一向に収まらず、とうとう120円台に突入する。
石油ショックは日本のエレクトロニクス技術の急速な発展の原動力になったが、円高攻勢は「神風」にはならなかった。なるわけもない。
では、この危機を日本企業はどうやって乗り切ったのか。実は輸出価格に為替相場を反映させず、輸出価格の上昇を極力抑えたのだ。アベノミクスによる円安対応と同じビヘイビア原理に徹したのだ。この時期、家電製品やカメラ、時計などは日本製品がアメリカ市場を席巻しており、為替相場を輸出価格に反映させても競争力が低下するわけではなかった。が、そうした日本の一人勝ち分野でも、せいぜい20~30%の価格アップにとどめざるを得なかった。なぜか。答えは簡単で、為替相場を輸出価格に反映させたら、アメリカ人の購買限度額を上回ってしまうからだ。
そうやって輸出価格は可能な限り据え置く一方、国内では「性能アップ」「品質向上」などを口実にかえって値上げした。内外価格差が大きくなり、海外で輸出された日本製品を購入して逆輸入するという「並行輸入」というニュー・ビジネスまで雨後の筍のように誕生した。
当然アメリカは怒った。「ダンピング輸出だ」というまともな批判はまだしも、アメリカの自動車のメッカ・デトロイトではレイオフされた労働者が日本車をハンマーで叩き壊したり火を付けたりと暴動騒ぎにまで発展した。
日本企業が輸出の赤字を国内の消費者に転嫁したりせず、適当に輸出価格をアップさせていたら、たった2年で円が倍になるなどということはありなかったはずだ。そんなことができたのは、日本はまだ経済成長中であり、国内市場が値上げを受け入れることが可能だったからだ。
このときも日本企業のビヘイビア原理は生産ラインの稼働を維持してできる限り従業員の雇用を確保することに重点を置いていたためである。日本企業のビヘイビア原理は、当時も今も変わっていない。アベノミクスはそうした日本企業のビヘイビア原理に対する認識が皆無だったことを意味する。アベノミクスの発案者といわれている浜田紘一氏(東大・イエール大名誉教授、第2次安倍内閣の内閣官房参与)はマクロ経済は専門でも、実際の企業ビヘイビアはマクロ経済政策の期待通りには動かないという証明でもあった。いや、そもそも先進国だけでなく途上国の市場も縮小しているのに、日本だけが経済成長を果たそうなどというのは、いかなるマクロ経済理論をもってしても妄想でしかないのだ。
少なくともアベノミクスを発動する前に、プラザ合意後の急速な円高を日本企業がどうやって乗り切ってきたかを分析していれば、いまは生産過剰になっても国内には受け皿市場が喪失していることに思いが至ったはずだ。
が、いま日本企業は雇用の維持というビヘイビア原理を捨てようとしている。「終身雇用・年功序列」という良きにつけ悪しきにつけ日本産業界を支えてきた雇用関係の維持が困難になりつつあることに、とくに大企業が気付き始めた。日本経済の新しい羅針盤を立憲民主党は構築できるのか。

●アベノミクスで評価できるのは「同一労働同一賃金」の義務化だけ
アベノミクスで評価できる唯一の政策は、日本の賃金制度にメスを入れたことだろう。2014年4月、安倍総理は「成果主義賃金制度」の導入を成長戦略の柱として打ち出した。具体的には賃金を労働時間に応じて支払うのではなく、成果に応じて支払う制度にすると言う趣旨だ。野党や一部のメディアは一斉に「残業代ゼロ政策」と批判したが、私は5月21,22,25日の3回にわたって『「残業代ゼロ」政策(成果主義賃金)は米欧型「同一労働同一賃金」の雇用形態に結び付けることができるか』と題するブログで、同一労働同一賃金の雇用形態を導入しない限り日本人労働者の生産性向上は実現しないと指摘した。
日本は労働生産性が低いとよく言われるが、実際最新のデータ(2019年度)によれば日本人の時間当たり労働生産性は47.9ドルで、OECD加盟国36か国中21位、主要先進国7か国中では最下位である。この年度だけというわけではなく、ずっと最下位を維持している。立派なもんだ。下から数えればトップだからね。
日本人の能力不足というのであれば、仕方がない。とにかくぶっ倒れるまで働いて欧米先進国並みの生活水準を維持するしかない。
ただ成果主義と言っても営業職のように成果の判定が公平にできる職種と、何をもって成果の基準にすべきかの判定が事実上困難な職種もある。私のような著述業の場合、単行本であれば発行部数に応じた印税が成果ということになるが、愚作が結構売れたり、会心作と自信を持っていたのがまったく売れなかったりというケースはしばしばある。
研究職などの場合は成果の判定がもっと難しい。定年退職するまで成果らしい成果をまったく出せないこともあれば、ほんのちょっとした偶然で大発見、大発明に至るケースもある。研究者、技術者の能力が結果に必ず反映するとは限らないからだ。
結局安倍氏はいったん成果主義賃金制度を引っ込め、高度プロフェッショナル制度(高プロ)と衣替えした賃金体系を持ち出した。そのとき安倍内閣は同時に「同一労働同一賃金」を企業に義務付けることもした。労働時間や休暇などの労働者保護の制約をすべて外し、個人事業主に近い雇用関係を認めることにしたのである。ただし、対象は高度な専門知識が必要で、年収1,075万円以上の労働者に限定し、本人も了解することを条件とした。「終身雇用・年功序列」の日本型雇用形態の否定を事実上意味する制度だ。
この「働き方改革」を定着させるには対象労働者に対する「時間縛り」「場所縛り」をすべて外す必要があるが、その点についてはアベノミクスは何も提案していない。
結果的にはコロナ禍によって「テレワーク」を推奨せざるを得なくなり、事実上高プロ対象者ではなくても「時間縛り」「場所縛り」を失くそうという動きが生じている。もちろん多くの従業員が共同作業をしなければならないような職種の場合は「時間縛り」「場所縛り」を失くすわけにはいかないが、テレワークで済む仕事の場合は間違いなくテレワークの方が仕事の能率が上がる。
私自身の経験でいうと、取材は別として執筆作業は家でする方がはるかに効率がいい。疲れたら1,2時間昼寝をしたり、ポケットして休息を取ったり、時には仕事の合間に昼間からビールを飲んだりすることも出来る。
また執筆という作業は、ものすごく神経を集中させなければならない。雑誌や週刊誌の記事を書くときは締め切りの関係もあってかなりの長時間作業になることもあるが、単行本の執筆のような場合は集中して執筆作業に取り組めるのは1日せいぜい5,6時間だ。そのくらいの時間、神経を集中して仕事をすると、正直くたくたになる。無理してそれ以上作業を続けたら、翌日はぐったりして仕事にならない。そうした私自身の経験から、1日8時間も9時間も集中して仕事ができるわけがないと思っている。8時間も9時間も「場所縛り」で仕事をしているふりをしているだけで、実際には、そのうち何時間集中して仕事をしているか。コロナ禍のおかげで「場所縛り」「時間縛り」が無くなれば、日本人労働者の労働生産性は間違いなく大幅にアップする。
立憲のアベノミクス検証には、この「働き方改革」についての評価がない。私はアベノミクスの中でこの「働き方改革」だけは評価しているが、労働の質と成果について正当に企業が評価・判定できるようになるには、かなりの試行錯誤を覚悟しなければならないとは思っている。




コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする