私はこれまで、新型コロナ感染対策と経済活動の再生は絶対に両立しえないと何度もブログで書いてきた。が、依然として政府は「両立」にこだわり続けているし、野党もメディアも、そうした政府のスタンスを批判しない。
野党やメディアが批判しないから、政府は両立しえない感染対策と経済対策を同時に進めようとしている。
政府の方針を批判しないということは、政府の方針が正しいと思っていることを意味する。だとしたら、「両立しうることの論理的説明」ができない政府に代わって、野党やメディアがその役割を果たしたらどうか。
●日本の「PCR検査能力」は宝の持ち腐れ
問題は二つある。両立政策について小池都知事は「ブレーキとアクセルを同時に踏むようなもの」と批判した。ブレーキとアクセルを同時に踏むことは物理的に不可能なので、私は「両立政策は一人シーソーをするようなもの」と指摘してきた。
政府が「ひとりシーソー」を踏み続けた結果はどうだったか。経済活動再生のためのカンフル剤として7月に前倒しで始めたGo Toキャンペーン。まずトラベルから始めてイート、イベントとカンフル剤を打ち続けた。その結果、確かに観光旅行業界や飲食業、プロ・スポーツやコンサートなどの娯楽産業は多少、息を吹き返したかに見える。
その一方、新型コロナの感染状況はどうだったか。東京都を除いてGo Toトラベルを始めた途端、当たり前と言ってしまえば当たり前だが、コロナさんも息を吹き返した。
新型コロナウィルスは、夏眠するインフルエンザウィルスと違って通年型のウィルスだが、高温多湿化では活動能力が低下し、冬季になるとがぜん、元気を取り戻すようだ。インフルエンザと同様、夏はおとなしくしてくれるだろうと期待したのかどうかは知らないが、政府の目論見は見事に外れた。Go Toトラベルを始めた途端、コロナさんが元気を取り戻し、真夏の8月には一気に感染者数が増えだした。メディアは「第2波だ」と大騒ぎした。が、コロナ感染の拡大とGo Toトラベルの関連性をちょっとでも考えたメディアは皆無だった。
政府のコロナ対策に手厳しい批判を加えている「羽鳥モーニングショー」のコメンテータ・玉川氏ですら、馬鹿の一つ覚え(失礼!)のように「PCR検査を増やせ」と毎日主張するだけだった。実際には政府はPCR検査能力は増やしてきた。緊急事態宣言中の1日あたり約3万件だった検査能力は、7~8月には倍の約6万件に増やしてはいた(現在のPCR検査の最大能力は約8万5000件)。もう少し玉川氏が厚労省が公表しているデータを分析していれば、検査能力と検査実施能力には大きな乖離があることに気づいていたはずなのだが…。
実は政府がやってきたことは検査キットを増やすことだけで、検査能力に見合うだけの検査体制をどう整えるかは、全然とまでは言わないが、あまり重視してこなかった。これは不思議なことだが、判で押したように、検査実施件数は検査能力のほぼ半分でストップしてしまっているのだ。たとえば直近のデータを見ると、11月26日時点のPCR検査能力は86,680件あるのだが、同日の検査実施数は42,634人でしかない。つまり政府は検査キットをたくさん購入して自治体の保健所などに配布することが感染対策だと思っているようなのだ。私が以前から「日本の検査能力は宝の持ち腐れ」とブログで書いてきたのは、そういう事情があったからだ。
●門外漢だらけの分科会で感染対策などできるわけがない
日本のPCR検査能力が宝の持ち腐れになっていることは、おそらく検査感染の拡大を政府が恐れているからだと思うが、韓国のドライブスルー方式での検査やニューヨーク市の「誰でもいつでも検査」体制や、武漢の1000万人市民に対するローラー方式が、かえって感染拡大を招いたかどうかの検証すらしていない。国の役割はPCR検査キットをたくさん配ればいいと考えているのか。後はその検査キットを使って検査数を増やすか、あるいは神棚に祀って大事にしまっておくかは自治体まかせという姿勢なのだから。
トランプ大統領の下で新型コロナを軽視し続けてきたアメリカですら、27日午後3時時点での累積感染者数は1288万人に達しており、死亡者数は26万人を超えている。ちなみにドライブスルー方式でPCR検査を行った韓国は累積感染者32,491人、死亡者数516人である。そして日本は累積感染者数139,491人で、死亡者数2,051人である。
東京都の感染者数が急増しだした11月20日ごろ、小池都知事はPCR検査数が増えれば感染者数が増えるのは当たり前、とうそぶいて感染対策にソッポを向いていたが(小池さん、ゴメン。私は年寄りで記憶力は相当衰えているのは自覚しているが、なぜかこういうことだけ覚えている)、PCR検査数と感染者数が完全にパラレルなら拡大も縮小もしていないことになるが、前回のブログで明らかにしてしまったように、検査数に占める感染者の割合(陽性率)が増えている。陽性率も増えているのに、「検査数を増やせば感染者数も増える」とは、どういう思考方法から出てくる結論なのか。
それより問題なのは、日本の人口当たりPCR検査実施数はおそらく世界中で最も少ないのではないかという疑問をぬぐえないことだ。この比較データはネットでいろいろ検索してみたが、わからない。日本だけがきちんと検査能力や検査実数を公表しているのに、海外はそういうデータを一切公表していないのか、それとも厚労省が隠しているのか。
日本も含め世界各国が公表している感染者数はPCR検査で陽性が確認された人の数であり、感染していてもPCR検査を受けずに(あるいは検査を受けられずに)いる人(隠れ感染者)は、当然、感染していても感染者数にカウントされない。検査を受けずに感染者と認定されるシステムは世界どの国にもない。日本が欧米諸国に比べて感染者が少ないと言われているのは、単にPCR検査を受けた人(検査実施件数)が少ないからだけではないのか。
そうなると、死者数や死者率も気になる。本当は重症者数や重症者率も含めて考察したいのだが、重症者についてのデータがない。日本国内でも重症者の基準が自治体によって異なるような状況だ。
で、とりあえず死亡者数と死亡率について考察してみよう。私は専門家会議のときから、メンバーに統計学者を含めろと主張してきたが、感染症の専門家を中心に集めた専門家会議と違って7月に発足した分科会はメンバー18名のうち感染症の専門家はたった4、5人、あとは一応医系の現場リタイア組が多く、それに加えて経済学者・現場リタイアのジャーナリスト・弁護士・知事など、顔触れだけは多士済々。はっきり言えば「おせち料理」的集団だ。感染症の専門家でさえ現在の感染状況の判断に苦しみ、有効な感染対策を打ち出せない状況下で、門外漢が分科会会員としての「責任を果たす」ためにああだ、こうだと口を出すから、まとまるものもまとまらない。
●なぜ統計学的手法が必要か
数字はウソをつかないと言われるが、数字そのものはねつ造されなくても、数字の読み方で感染状況の見立ては大きく分かれる。単純に感染者数だけを欧米と比較すると、まだ日本は大したことはないではないかという判断に陥りやすいが、そういう見立てがいかに危険か。
27日午後3時現在、日本の累計感染者数は約14万人、「感染者と確認された患者」(※この定義が重要)のうち「死に至った人」の数(死亡者数)は約2000人。念のため厚労省はPCR検査で陽性が確認された感染者を「患者」と定義している。
一方、日本より新型コロナに対してはるかに無防備なアメリカの累計感染者数は約1300万人、死亡者数は26万人を数える。一方、いまでもアメリカでは新たに判明した感染者が毎日、日本の累計感染者数をはるかに上回る16~17万人発生しているという事実がある(28日には20万人を超えた)。仮にアメリカの陽性率(PCR検査の結果、感染が判明した割合)をかなり高い10%としても、アメリカでは毎日、PCR検査を最低でも160~170万件実施している計算になる。アメリカの人口は日本の約2倍だから、日本のPCR検査実数(約4万件)の20倍も検査していることになる。このところ日本の患者(PCR検査で感染が判明した人)数は連日2500人を超えているから(ただしPCR検査実施数は依然として検査能力の約半分4万件のママ)、人口当たりアメリカ並みにPCR検査を実施していたら、感染者数は一気に5万人を超える計算になる。
もちろん、これはあくまで机上の計算で、感染状況がアメリカと日本が同じという前提での計算に過ぎないのだが、小池都知事が言うように「検査数が増えれば感染者数も増える」のは確かだ。だが。前回のブログで明らかにしたように検査数を増やしても陽性率は下がらず、かえって高くなっている現状を考えると、本当にアメリカ並みに日本も人口当たりのPCR検査数を増やしたらどうなるか。統計的手法が必要だという意味がお分かりいただけただろうか。
次に死亡者数、死亡率について考察する。言うまでもないが(本当は「言っておかねば」だ。日本の政治家やメディアがいかに頭がいいかよーく分かるので)、公表されている死者数は、PCR検査で感染が確認された患者だけを対象に数えた数だ。つまり、実際にはコロナが死因であっても、PCR検査を受けていない人は、この死者数にはカウントされていない。
この計算は厳密に行う。順に、国名・感染者数(PCR検査で感染が確認された数)・死亡者数(PCR検査で感染が確認された人でコロナが死因で死亡した人数)・死亡率(コロナが死因で死亡した感染者と認められた人の割合)を書く。(27日午後3時現在)
アメリカ 12,883,264人 263,454人 2.04%
中 国 86,495人 4,634人 5.35%※
韓 国 32,491人 516人 1.58%
日 本 139,491人 2,051人 1.47%
このデータは感染者数、死亡者数については厚労省が公表しているもの(グーグルで「コロナ感染者数の多い主な国」で検索できる)。死亡率は私が電卓で計算した。中国について、※を付けたのはデータそのものに信ぴょう性が置けないため。共産党に限ったことではないが、独裁国家のひずみはこういったことにも表れる。健全な野党が存在しない日本の悲劇を感じる。
●日本は直ちに「両立」政策を止めよ
コロナ封じ込めと経済再生の両立政策が不可能なことはこれまでさんざんブログで書いてきた。
確かに政府(具体的には菅総理・加藤官房長官・西村「ひとりシーソー」担当相)が苦し紛れに抗弁しているように、「Go Toトラベルがコロナの感染拡大を招いたというエビデンス(証拠)」はない。日本語に該当する語彙がないというならいざ知らず、何もわざわざそれほど一般的ではない外来語を使う必要はないと思うが、英語大好き人間の小池都知事を意識したのかどうかは知らないが、エビデンスなどという聞きなれない外来語で「両立」政策の失敗を隠せるとでも思ったのか。どうせなら「科学的根拠」と言った方が、はるかに分かりやすい。
しかし状況証拠的には科学的証明にとして通用するほど十分にある。現に、緊急事態宣言期間中に、観光旅行業界や飲食業界などは大打撃を受けた。人々が外出を控えたため、ファッション業界もリーマンショック以上の打撃を受けた。多くの企業がリモート・ワークに踏み切ったため、都心のマンションブームも崩壊した。日本のGDPの6割は個人消費が占めており、緊急事態宣言で個人消費が激減した。そのうえ、現役世代減少で日本人の消費が減った分を補っていたインバウンド消費がゼロになった。そういう状況は世界中を襲ったため個人消費に次いでGDPの大きな柱である工業製品の輸出も大幅に減少した。リーマンショックをはるかに超える大打撃を日本経済は受けた。
そういう状況を何とか打開しようとして始めたのがGo Toキャンペーンであり、そのトップ・バッターがGo Toトラベルだった。そしてGo Toトラベルを前倒しで始めた途端、コロナの「第2波」が日本を襲い、最初は感染拡大リスクが大きいとして除外した東京都を、やはり最大の消費力のある東京を外しては効果が少ないと判断して10月から東京もGo Toトラベルの対象に入れた途端、コロナの「第3波」が日本を急襲した。これは否定しがたい事実であり、これがエビデンスにならないというなら、Go Toキャンペーンの経済効果を政府が自ら否定したことになる。
だとしたら、話は簡単だ。経済効果が証明できていないGo Toキャンペーンは即座に中止すべきだろう。Go Toキャンペーンをやめたからと言ってコロナが終息するという科学的根拠はないが(政府によれば)、Go TOキャンペーンには多額の税金が投入されている。経済効果があったというエビデンスのないことに、これ以上税金を投入すべきではない。
「天を仰いで唾す」とは、こういう責任回避に終始する政府のことだ。
【追記】 日本経済新聞が27~29日にかけて「政府の政策はどうあるべきか」について3択の世論調査をした。
① 感染防止と経済活動の両立を目指すべき
② 感染防止を優先すべき
③ 経済活動を優先すべき
何とアホな世論調査をしたのか。こういう3択の調査をしたら、100%、①を選択するだろうと思ったからだ。なぜなら、感染防止と経済活動を両立させるようなマジックがあるのなら、私ももろ手を挙げて①を選択する。
が、そんなマジックのような都合のいい政策などありえないから、私は両立は不可能と断定してきた。
アンケートの結果はこうだった。①を選択したのは57%、②を選択したのが34%、③を選択したのが7%だった。②と③を選択した人は、両立は不可能と考えたと思う。とくに③を選択した人はコロナで大きな打撃を受けている人、例えば仕事を奪われた人や飲食業などダイレクトにコロナの打撃を受けた人たちだろうと思う。②を選択した人は、コロナ禍でも比較的恵まれた人で、例えば公務員や年金生活者が多かったのではないか。生活保護受給者も②を選択しただろう。
もっともノー天気なのが①を選択した人で、両立しうる方法があると思って期待している人たち、日経の記者もその中に含まれるだろう。実際、両立できるマジックのような方法があったら、とっくに世界はコロナ禍から脱却できている。世界中がすべて失敗し、両立させようと経済活動に注力した結果、すべて再び爆発的なコロナ禍に襲われている。
もし両立させうる政策を考え出して成功に導く人があらわれたら、その人は来年のノーベル賞すべてを独り占めできるだろう。(30日午後2時30分)
【追記2】 あきれてものが言えない。時事通信の速報によれば、自民党の下村政調会長がGo Toトラベルを来年のゴールデンウィーク後まで延長するよう政府に求めたという。
確かにGo Toトラベルが新型コロナの感染拡大を招いたという絶対的エビデンスはない。が、感染拡大とGo Toトラベルは無関係だというエビデンスもない。少なくとも言えることはGo Toトラベルを前倒しで7月から始めた1か月くらいたって「第2波」に襲われ、Go Toトラベルに東京都を加えて1か月ほどたって「第3波」に襲われたという厳然たる事実は動かしようがない。少なくとも専門家は人の移動が活発になると感染が拡大すると主張している。
おそらく海外でも、一時的に感染縮小状態に入ったとき、経済活動に注力しだして1か月後くらいに再び感染拡大を迎えたのではないかと思う。海外での失敗例を見れば、日本のGo Toキャンペーンがコロナにとってはおいしい餌になっただろうことは想像に難くない。
エビデンスをうんぬんするなら、統計学者に頼んで、経済活動と感染拡大の因果関係を統計学的に明らかにすべきだ。政府は、それが怖くてやれないのだろう。日本には古くから「二兎を追うもの一兎をも得ず」という言い伝えがあるではないか。(30日午後4時30分)
野党やメディアが批判しないから、政府は両立しえない感染対策と経済対策を同時に進めようとしている。
政府の方針を批判しないということは、政府の方針が正しいと思っていることを意味する。だとしたら、「両立しうることの論理的説明」ができない政府に代わって、野党やメディアがその役割を果たしたらどうか。
●日本の「PCR検査能力」は宝の持ち腐れ
問題は二つある。両立政策について小池都知事は「ブレーキとアクセルを同時に踏むようなもの」と批判した。ブレーキとアクセルを同時に踏むことは物理的に不可能なので、私は「両立政策は一人シーソーをするようなもの」と指摘してきた。
政府が「ひとりシーソー」を踏み続けた結果はどうだったか。経済活動再生のためのカンフル剤として7月に前倒しで始めたGo Toキャンペーン。まずトラベルから始めてイート、イベントとカンフル剤を打ち続けた。その結果、確かに観光旅行業界や飲食業、プロ・スポーツやコンサートなどの娯楽産業は多少、息を吹き返したかに見える。
その一方、新型コロナの感染状況はどうだったか。東京都を除いてGo Toトラベルを始めた途端、当たり前と言ってしまえば当たり前だが、コロナさんも息を吹き返した。
新型コロナウィルスは、夏眠するインフルエンザウィルスと違って通年型のウィルスだが、高温多湿化では活動能力が低下し、冬季になるとがぜん、元気を取り戻すようだ。インフルエンザと同様、夏はおとなしくしてくれるだろうと期待したのかどうかは知らないが、政府の目論見は見事に外れた。Go Toトラベルを始めた途端、コロナさんが元気を取り戻し、真夏の8月には一気に感染者数が増えだした。メディアは「第2波だ」と大騒ぎした。が、コロナ感染の拡大とGo Toトラベルの関連性をちょっとでも考えたメディアは皆無だった。
政府のコロナ対策に手厳しい批判を加えている「羽鳥モーニングショー」のコメンテータ・玉川氏ですら、馬鹿の一つ覚え(失礼!)のように「PCR検査を増やせ」と毎日主張するだけだった。実際には政府はPCR検査能力は増やしてきた。緊急事態宣言中の1日あたり約3万件だった検査能力は、7~8月には倍の約6万件に増やしてはいた(現在のPCR検査の最大能力は約8万5000件)。もう少し玉川氏が厚労省が公表しているデータを分析していれば、検査能力と検査実施能力には大きな乖離があることに気づいていたはずなのだが…。
実は政府がやってきたことは検査キットを増やすことだけで、検査能力に見合うだけの検査体制をどう整えるかは、全然とまでは言わないが、あまり重視してこなかった。これは不思議なことだが、判で押したように、検査実施件数は検査能力のほぼ半分でストップしてしまっているのだ。たとえば直近のデータを見ると、11月26日時点のPCR検査能力は86,680件あるのだが、同日の検査実施数は42,634人でしかない。つまり政府は検査キットをたくさん購入して自治体の保健所などに配布することが感染対策だと思っているようなのだ。私が以前から「日本の検査能力は宝の持ち腐れ」とブログで書いてきたのは、そういう事情があったからだ。
●門外漢だらけの分科会で感染対策などできるわけがない
日本のPCR検査能力が宝の持ち腐れになっていることは、おそらく検査感染の拡大を政府が恐れているからだと思うが、韓国のドライブスルー方式での検査やニューヨーク市の「誰でもいつでも検査」体制や、武漢の1000万人市民に対するローラー方式が、かえって感染拡大を招いたかどうかの検証すらしていない。国の役割はPCR検査キットをたくさん配ればいいと考えているのか。後はその検査キットを使って検査数を増やすか、あるいは神棚に祀って大事にしまっておくかは自治体まかせという姿勢なのだから。
トランプ大統領の下で新型コロナを軽視し続けてきたアメリカですら、27日午後3時時点での累積感染者数は1288万人に達しており、死亡者数は26万人を超えている。ちなみにドライブスルー方式でPCR検査を行った韓国は累積感染者32,491人、死亡者数516人である。そして日本は累積感染者数139,491人で、死亡者数2,051人である。
東京都の感染者数が急増しだした11月20日ごろ、小池都知事はPCR検査数が増えれば感染者数が増えるのは当たり前、とうそぶいて感染対策にソッポを向いていたが(小池さん、ゴメン。私は年寄りで記憶力は相当衰えているのは自覚しているが、なぜかこういうことだけ覚えている)、PCR検査数と感染者数が完全にパラレルなら拡大も縮小もしていないことになるが、前回のブログで明らかにしてしまったように、検査数に占める感染者の割合(陽性率)が増えている。陽性率も増えているのに、「検査数を増やせば感染者数も増える」とは、どういう思考方法から出てくる結論なのか。
それより問題なのは、日本の人口当たりPCR検査実施数はおそらく世界中で最も少ないのではないかという疑問をぬぐえないことだ。この比較データはネットでいろいろ検索してみたが、わからない。日本だけがきちんと検査能力や検査実数を公表しているのに、海外はそういうデータを一切公表していないのか、それとも厚労省が隠しているのか。
日本も含め世界各国が公表している感染者数はPCR検査で陽性が確認された人の数であり、感染していてもPCR検査を受けずに(あるいは検査を受けられずに)いる人(隠れ感染者)は、当然、感染していても感染者数にカウントされない。検査を受けずに感染者と認定されるシステムは世界どの国にもない。日本が欧米諸国に比べて感染者が少ないと言われているのは、単にPCR検査を受けた人(検査実施件数)が少ないからだけではないのか。
そうなると、死者数や死者率も気になる。本当は重症者数や重症者率も含めて考察したいのだが、重症者についてのデータがない。日本国内でも重症者の基準が自治体によって異なるような状況だ。
で、とりあえず死亡者数と死亡率について考察してみよう。私は専門家会議のときから、メンバーに統計学者を含めろと主張してきたが、感染症の専門家を中心に集めた専門家会議と違って7月に発足した分科会はメンバー18名のうち感染症の専門家はたった4、5人、あとは一応医系の現場リタイア組が多く、それに加えて経済学者・現場リタイアのジャーナリスト・弁護士・知事など、顔触れだけは多士済々。はっきり言えば「おせち料理」的集団だ。感染症の専門家でさえ現在の感染状況の判断に苦しみ、有効な感染対策を打ち出せない状況下で、門外漢が分科会会員としての「責任を果たす」ためにああだ、こうだと口を出すから、まとまるものもまとまらない。
●なぜ統計学的手法が必要か
数字はウソをつかないと言われるが、数字そのものはねつ造されなくても、数字の読み方で感染状況の見立ては大きく分かれる。単純に感染者数だけを欧米と比較すると、まだ日本は大したことはないではないかという判断に陥りやすいが、そういう見立てがいかに危険か。
27日午後3時現在、日本の累計感染者数は約14万人、「感染者と確認された患者」(※この定義が重要)のうち「死に至った人」の数(死亡者数)は約2000人。念のため厚労省はPCR検査で陽性が確認された感染者を「患者」と定義している。
一方、日本より新型コロナに対してはるかに無防備なアメリカの累計感染者数は約1300万人、死亡者数は26万人を数える。一方、いまでもアメリカでは新たに判明した感染者が毎日、日本の累計感染者数をはるかに上回る16~17万人発生しているという事実がある(28日には20万人を超えた)。仮にアメリカの陽性率(PCR検査の結果、感染が判明した割合)をかなり高い10%としても、アメリカでは毎日、PCR検査を最低でも160~170万件実施している計算になる。アメリカの人口は日本の約2倍だから、日本のPCR検査実数(約4万件)の20倍も検査していることになる。このところ日本の患者(PCR検査で感染が判明した人)数は連日2500人を超えているから(ただしPCR検査実施数は依然として検査能力の約半分4万件のママ)、人口当たりアメリカ並みにPCR検査を実施していたら、感染者数は一気に5万人を超える計算になる。
もちろん、これはあくまで机上の計算で、感染状況がアメリカと日本が同じという前提での計算に過ぎないのだが、小池都知事が言うように「検査数が増えれば感染者数も増える」のは確かだ。だが。前回のブログで明らかにしたように検査数を増やしても陽性率は下がらず、かえって高くなっている現状を考えると、本当にアメリカ並みに日本も人口当たりのPCR検査数を増やしたらどうなるか。統計的手法が必要だという意味がお分かりいただけただろうか。
次に死亡者数、死亡率について考察する。言うまでもないが(本当は「言っておかねば」だ。日本の政治家やメディアがいかに頭がいいかよーく分かるので)、公表されている死者数は、PCR検査で感染が確認された患者だけを対象に数えた数だ。つまり、実際にはコロナが死因であっても、PCR検査を受けていない人は、この死者数にはカウントされていない。
この計算は厳密に行う。順に、国名・感染者数(PCR検査で感染が確認された数)・死亡者数(PCR検査で感染が確認された人でコロナが死因で死亡した人数)・死亡率(コロナが死因で死亡した感染者と認められた人の割合)を書く。(27日午後3時現在)
アメリカ 12,883,264人 263,454人 2.04%
中 国 86,495人 4,634人 5.35%※
韓 国 32,491人 516人 1.58%
日 本 139,491人 2,051人 1.47%
このデータは感染者数、死亡者数については厚労省が公表しているもの(グーグルで「コロナ感染者数の多い主な国」で検索できる)。死亡率は私が電卓で計算した。中国について、※を付けたのはデータそのものに信ぴょう性が置けないため。共産党に限ったことではないが、独裁国家のひずみはこういったことにも表れる。健全な野党が存在しない日本の悲劇を感じる。
●日本は直ちに「両立」政策を止めよ
コロナ封じ込めと経済再生の両立政策が不可能なことはこれまでさんざんブログで書いてきた。
確かに政府(具体的には菅総理・加藤官房長官・西村「ひとりシーソー」担当相)が苦し紛れに抗弁しているように、「Go Toトラベルがコロナの感染拡大を招いたというエビデンス(証拠)」はない。日本語に該当する語彙がないというならいざ知らず、何もわざわざそれほど一般的ではない外来語を使う必要はないと思うが、英語大好き人間の小池都知事を意識したのかどうかは知らないが、エビデンスなどという聞きなれない外来語で「両立」政策の失敗を隠せるとでも思ったのか。どうせなら「科学的根拠」と言った方が、はるかに分かりやすい。
しかし状況証拠的には科学的証明にとして通用するほど十分にある。現に、緊急事態宣言期間中に、観光旅行業界や飲食業界などは大打撃を受けた。人々が外出を控えたため、ファッション業界もリーマンショック以上の打撃を受けた。多くの企業がリモート・ワークに踏み切ったため、都心のマンションブームも崩壊した。日本のGDPの6割は個人消費が占めており、緊急事態宣言で個人消費が激減した。そのうえ、現役世代減少で日本人の消費が減った分を補っていたインバウンド消費がゼロになった。そういう状況は世界中を襲ったため個人消費に次いでGDPの大きな柱である工業製品の輸出も大幅に減少した。リーマンショックをはるかに超える大打撃を日本経済は受けた。
そういう状況を何とか打開しようとして始めたのがGo Toキャンペーンであり、そのトップ・バッターがGo Toトラベルだった。そしてGo Toトラベルを前倒しで始めた途端、コロナの「第2波」が日本を襲い、最初は感染拡大リスクが大きいとして除外した東京都を、やはり最大の消費力のある東京を外しては効果が少ないと判断して10月から東京もGo Toトラベルの対象に入れた途端、コロナの「第3波」が日本を急襲した。これは否定しがたい事実であり、これがエビデンスにならないというなら、Go Toキャンペーンの経済効果を政府が自ら否定したことになる。
だとしたら、話は簡単だ。経済効果が証明できていないGo Toキャンペーンは即座に中止すべきだろう。Go Toキャンペーンをやめたからと言ってコロナが終息するという科学的根拠はないが(政府によれば)、Go TOキャンペーンには多額の税金が投入されている。経済効果があったというエビデンスのないことに、これ以上税金を投入すべきではない。
「天を仰いで唾す」とは、こういう責任回避に終始する政府のことだ。
【追記】 日本経済新聞が27~29日にかけて「政府の政策はどうあるべきか」について3択の世論調査をした。
① 感染防止と経済活動の両立を目指すべき
② 感染防止を優先すべき
③ 経済活動を優先すべき
何とアホな世論調査をしたのか。こういう3択の調査をしたら、100%、①を選択するだろうと思ったからだ。なぜなら、感染防止と経済活動を両立させるようなマジックがあるのなら、私ももろ手を挙げて①を選択する。
が、そんなマジックのような都合のいい政策などありえないから、私は両立は不可能と断定してきた。
アンケートの結果はこうだった。①を選択したのは57%、②を選択したのが34%、③を選択したのが7%だった。②と③を選択した人は、両立は不可能と考えたと思う。とくに③を選択した人はコロナで大きな打撃を受けている人、例えば仕事を奪われた人や飲食業などダイレクトにコロナの打撃を受けた人たちだろうと思う。②を選択した人は、コロナ禍でも比較的恵まれた人で、例えば公務員や年金生活者が多かったのではないか。生活保護受給者も②を選択しただろう。
もっともノー天気なのが①を選択した人で、両立しうる方法があると思って期待している人たち、日経の記者もその中に含まれるだろう。実際、両立できるマジックのような方法があったら、とっくに世界はコロナ禍から脱却できている。世界中がすべて失敗し、両立させようと経済活動に注力した結果、すべて再び爆発的なコロナ禍に襲われている。
もし両立させうる政策を考え出して成功に導く人があらわれたら、その人は来年のノーベル賞すべてを独り占めできるだろう。(30日午後2時30分)
【追記2】 あきれてものが言えない。時事通信の速報によれば、自民党の下村政調会長がGo Toトラベルを来年のゴールデンウィーク後まで延長するよう政府に求めたという。
確かにGo Toトラベルが新型コロナの感染拡大を招いたという絶対的エビデンスはない。が、感染拡大とGo Toトラベルは無関係だというエビデンスもない。少なくとも言えることはGo Toトラベルを前倒しで7月から始めた1か月くらいたって「第2波」に襲われ、Go Toトラベルに東京都を加えて1か月ほどたって「第3波」に襲われたという厳然たる事実は動かしようがない。少なくとも専門家は人の移動が活発になると感染が拡大すると主張している。
おそらく海外でも、一時的に感染縮小状態に入ったとき、経済活動に注力しだして1か月後くらいに再び感染拡大を迎えたのではないかと思う。海外での失敗例を見れば、日本のGo Toキャンペーンがコロナにとってはおいしい餌になっただろうことは想像に難くない。
エビデンスをうんぬんするなら、統計学者に頼んで、経済活動と感染拡大の因果関係を統計学的に明らかにすべきだ。政府は、それが怖くてやれないのだろう。日本には古くから「二兎を追うもの一兎をも得ず」という言い伝えがあるではないか。(30日午後4時30分)