10日から米ワシントンで日米通商協議が始まった(現地日付9日)。TPP(環太平洋パートナーシップ)から勝手に離脱した米トランプ政権が貿易赤字国を対象に高率関税をかけることを表明、当初はアメリカの安全保障上の危惧を口実に鉄鋼・アルミ製品に絞って高率関税をかけるとしていたが、その後トランプ政権の通商政策がコロコロ変わり、EUや日本に対して自動車にも高率関税をかけると言い出した。
この関税障壁は、当初、同盟国には適用しないとしてEUは除外することを表明していたはずだったが(なぜか同盟国であるはずの日本は除外対象に含まれなかった)、朝令暮改が日常茶飯事のトランプ大統領の気が変わったのか、それとも政権内部で「中国や日本だけを狙い撃ちするような関税政策はアンフェアだ」という批判が強まったせいかは不明だが、いずれにせよ、こんな国を相手に協議して、いったん合意に達したとしても、いつトランプ氏の気がまた変わって合意事項を一方的に破棄される可能性も極めて高い。だから中国やEUは「やれるならやってみろ」と報復に乗り出している。なぜか日本だけは当てにできない二国間協議によって事態を打開しようとしているが…。
前回のブログで私はプラザ合意による円高を、日本メーカーがどうやって乗り切ったかを書いた。それ以降約3週間になるのに、どなたからも批判が出ないということは、閲覧者の大半が私の分析をご理解いただいたと考えてもいいだろう。で、前回の続きとしてプラザ合意以降の日米貿易摩擦について検証する。トランプ氏の貿易政策が、いかに身勝手で不条理であるかを証明するためだ。このブログを読んでも安倍政権が二国間協議で貿易戦争の火の粉から免れると考えるようだったら、もう救いようがナいと、私は断言せざるを得ない。
プラザ合意後の日本メーカーのビヘイビアーについては前回のブログで明らかにした。欧米諸国のように工場を閉鎖したり、従業員をレイオフして雇用調整したりできない日本では、何が何でも生産ラインの稼働を最優先せざるを得ない宿命を抱えている。たとえばシャープが液晶テレビで一人勝ちしていた時期、いわゆる「亀山モデル」の増産のために過大な設備投資を行ったのがシャープの命取りになったことは、賢明な読者諸氏ならお忘れではないだろう。
もしシャープが日本のメーカーでなかったら、おそらく海外の企業に身売りしなくても、経営の立て直しは不可能ではなかったはずだ。現在シャープが立ち直ったのは、ホンハイ精密工業(台湾)の手によって進められている大胆な生産設備の整理統合、国内での白物家電の製造停止と、それに伴う雇用調整による。前回のブログでも書いたが、EUの対抗手段に対してハーレーが米国内での製造をやめて海外に製造拠点を移すことが出来るのも、ハーレーがアメリカの企業だからだ。当然トランプ氏は激怒したが、ハーレーとトランプ氏の「戦争」に米国内のメディアは大騒ぎだ。
今回のブログは、アメリカがいかに身勝手な国であるかを証明することにある。カナダ・メキシコとの自由貿易協定の破棄、TPPからの離脱、パリ協定離脱、イラン核合意の破棄…すべて合理的根拠のない身勝手極まりないやり方だ。オバマケアを破棄しようと銃を野放しにしようと、そうした政策はアメリカ国内の問題で、アメリカ国民が納得するのであれば勝手にやればいい。だが、国際社会での約束事を自国の都合だけで勝手に破棄するといったことは、第2次世界大戦中の様々な出来事を想起させる。
安倍さんよ、思い出してほしい。あなたが総理大臣として再び権力の座に就いた後、あなたは靖国神社に参拝した。その行為を激賞したのは産経新聞だけで、「国民が待ちに待っていた日が来た」とまで書いた。産経新聞にとっては閣僚の靖国神社参拝に批判的な国民はすべて「非国民」なのだろうが、そういう価値観からすればA級戦犯合祀以降参拝をやめられた皇族方はすべて「非国民」の範疇に入ることになる。いまでは安倍総理の御用新聞と化している読売新聞でさえ、米高官が「失望した」とコメントした途端、安倍さんの靖国参拝を批判する側に回った。
産経や読売がどういうスタンスをとろうが、そんなことはどうでもいいが、はっきり言って米高官のコメントは内政干渉だ。安倍さん、あなたがアメリカの言いなりになるようになったのは、それからだよね。あなたに日本人として少しでも誇りがあれば、トランプ大統領の身勝手極まりない政策や発言(ツイートを含む)に、その都度なぜ「失望した」と言わないのか。あっ、そうか、あなたの辞書には「誇り」という言葉はなかったんだっけ…。
安倍さんがどんなに卑屈になろうと私の知ったことではないが、その結果を国民が押し付けられたのではたまらないから、日米貿易摩擦の歴史的検証をしておく。トランプ大統領の身勝手さが一目瞭然になるからだ。
1985年のプラザ合意以降の2年間に1ドル=240円前後から120円台へと急速な円高を、日本メーカーは日本の消費者を犠牲にしながら輸出量を維持するためのダンピング輸出で乗り切ったことは前回のブログで明らかにした。
その結果、急速な円高にもかかわらず日米貿易摩擦はかえって激化することになった。当時のNHKはかなり良心的な放送局で、看板番組だった『NHK特集』で、のちに自民党から担がれて都知事選にも立候補した(結果は落選)磯村尚徳(ひさのり)氏がキャスターを務めて、86年4月26日から3夜連続で大型番組『世界の中の日本――アメリカからの警告』を放送した。通常の『N特』の放送時間枠を大幅に超え、1夜目が1時間45分、2夜目が1時間30分、3夜目に至ってはニュースを挟む2部構成で2時間15分、3夜合計で5時間25分という超大型番組であった。ゴールデンウィーク直前という時期だったにもかかわらず、この番組は大反響を呼び、のちにスタッフは放映できなかったエピソードを加え雑誌形式の単行本にして(私の記憶では3冊)出版したほどだ。
この番組の企画が持ち上がったのは、85年9月に開かれたG5の直後、つまりプラザ合意を受けて「アメリカが何に怒っているのか」「アメリカの本音を探ろう」というテーマで取材に入ることになったという。
実はこの年(85年)夏、ピューリッツァー賞を受賞したこともある米ジャーナリズム界の大物、セオドア・ホワイト氏がニューヨーク・タイムズ日曜版のカバーストーリーに『日本からの危機』と題する論文を掲載し、日本でも翻訳されて大きな話題になった。この論文でホワイト氏はこう書いた。
「第2次世界大戦後40年を経た今日、日本はアメリカの産業を解体させつつ、再び史上で最も果敢な貿易攻勢を行っている。彼らがただの抜け目のない人種にすぎないのか、それともアメリカより賢くなるべきことをついに学んだのかは、今後10年以内に立証されよう。そのときになって初めて、第2次世界大戦の究極の勝者が誰であったかを、アメリカ人は知るであろう…」
いずれにせよ大反響を呼んだ『世界の中の日本』はシリーズ化され、NHKはアメリカから「日本は異質だ」とまで極め付けられることになるジャパン・バッシングの検証作業を続けていく。
一方、アメリカは「日本の大改造」に着手する。1989年9月から90年6月まで断続的に開催された日米構造協議がその舞台になった。
日米構造協議では、日本もアメリカの問題点を追及した。たとえばアメリカの企業の大半が採用している四半期決算制度。日本も「物言う株主」村上ファンドの登場以降、株主に対する優遇策を重視する会社が多くなってきたし、サラリーマン経営者も高給を取るようになってきたが、当時は「人本主義」という日本経済論(日本の会社は株主のためでもなく消費者のためでもなく、サラリーマン経営者を含めた社員全体のためにあるという説)が話題を呼んだ時期でもあった。つまり、「日本の企業は将来のための長期投資に重点を置いているが、アメリカは短期の利益を追求する経営に傾いた結果、日本との技術開発競争に負けたのだ」とアメリカ側を批判した。
が、アメリカの交渉テクニックはもっぱら日本のメディアを巻き込むことで日本を圧倒することになる。
「日本の行政やビジネス・ルールは消費者本位ではなく、生産者中心だ」
「我々は日本の消費者の要求を代弁しているだけだ」
「最後の勝利者は、日本の消費者だ」
とりわけ米国産牛肉の関税障壁を追求した米商務省の「もし関税が撤廃されたら、日本人は毎週ステーキを食べることが出来る」というレトリックが効いた.「大店法のために、日本の消費者は不当に高いお金を支払わさせられている」「市場を開放して、競争原理がもっと働くようにすべきだ。消費者の利益になる」etc。日米構造協議は完全にアメリカの作戦勝ちに終始した。日本は押しまくられ、大店法の廃止や農畜産物の関税引き下げに応じざるを得なくなった。
いま日本は、この日米構造協議でアメリカ商務省が駆使したレトリックを、そっくり熨斗(のし)を付けて返上すれば、直ちに一件落着になる。
日米構造協議が行われていた時期、日本の農畜産業者は困窮していた。もし、どっとアメリカから安い農畜産物が輸入されるようになると、彼らにとっては死活問題になるからだ。日本の食料自給率はカロリーベースで現在38%。アメリカは130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%で、先進国の中で日本の自給率は最低だ(データは農水省)。日本の場合、平地が少なく、また農家の規模も欧米に比べて小規模なため生産コストがどうしても高くなる。が、トランプ大統領が「安全保障」を口実に輸入関税を高率化するというなら、安全保障は軍事力だけではない。食料自給率の低さも日本にとっては極めて重要な安全保障上の大問題である。日本はなぜ安全保障を口実に農水畜産物の関税を引き上げるぞ、とやり返さないのか。
そのうえ、トランプ大統領の通商政策は、かつて構造協議でアメリカが日本を批判した「消費者本位ではなく、生産者中心だ」という、当時のアメリカの主張が自らに跳ね返っていることを、なぜ日本は主張しないのか。もし、EUがいまの日本と同じ立場に置かれていたら、間違いなくそう言うしっぺ返しに出ている。トランプ氏の顔色をうかがいながらの通商協議など、ただちに打ち切るべきではないか。
さらにトランプ氏の言い分のおかしさはほかにもある。トランプ氏は「アメリカが貿易赤字になっているのは不公平な関税のためだ」と主張しているが、ではオーストラリアなど、貿易黒字国に対してはどうするのか。「黒字はいいが、赤字だけダメ」などという身勝手な言い分が国際社会で通用するとでも思っているのか。「赤字の貿易はしない」というのがトランプ氏の通商政策だというなら、「どうぞ、ご勝手に。いっそのこと鎖国を宣言したら」と突っぱねればいい。アメリカは国土も広いし、資源も豊富だ。食料自給率も先進国で最大だ。鎖国体制をとっても自給自足は十分可能だ。日本はそう主張すればいい。
この関税障壁は、当初、同盟国には適用しないとしてEUは除外することを表明していたはずだったが(なぜか同盟国であるはずの日本は除外対象に含まれなかった)、朝令暮改が日常茶飯事のトランプ大統領の気が変わったのか、それとも政権内部で「中国や日本だけを狙い撃ちするような関税政策はアンフェアだ」という批判が強まったせいかは不明だが、いずれにせよ、こんな国を相手に協議して、いったん合意に達したとしても、いつトランプ氏の気がまた変わって合意事項を一方的に破棄される可能性も極めて高い。だから中国やEUは「やれるならやってみろ」と報復に乗り出している。なぜか日本だけは当てにできない二国間協議によって事態を打開しようとしているが…。
前回のブログで私はプラザ合意による円高を、日本メーカーがどうやって乗り切ったかを書いた。それ以降約3週間になるのに、どなたからも批判が出ないということは、閲覧者の大半が私の分析をご理解いただいたと考えてもいいだろう。で、前回の続きとしてプラザ合意以降の日米貿易摩擦について検証する。トランプ氏の貿易政策が、いかに身勝手で不条理であるかを証明するためだ。このブログを読んでも安倍政権が二国間協議で貿易戦争の火の粉から免れると考えるようだったら、もう救いようがナいと、私は断言せざるを得ない。
プラザ合意後の日本メーカーのビヘイビアーについては前回のブログで明らかにした。欧米諸国のように工場を閉鎖したり、従業員をレイオフして雇用調整したりできない日本では、何が何でも生産ラインの稼働を最優先せざるを得ない宿命を抱えている。たとえばシャープが液晶テレビで一人勝ちしていた時期、いわゆる「亀山モデル」の増産のために過大な設備投資を行ったのがシャープの命取りになったことは、賢明な読者諸氏ならお忘れではないだろう。
もしシャープが日本のメーカーでなかったら、おそらく海外の企業に身売りしなくても、経営の立て直しは不可能ではなかったはずだ。現在シャープが立ち直ったのは、ホンハイ精密工業(台湾)の手によって進められている大胆な生産設備の整理統合、国内での白物家電の製造停止と、それに伴う雇用調整による。前回のブログでも書いたが、EUの対抗手段に対してハーレーが米国内での製造をやめて海外に製造拠点を移すことが出来るのも、ハーレーがアメリカの企業だからだ。当然トランプ氏は激怒したが、ハーレーとトランプ氏の「戦争」に米国内のメディアは大騒ぎだ。
今回のブログは、アメリカがいかに身勝手な国であるかを証明することにある。カナダ・メキシコとの自由貿易協定の破棄、TPPからの離脱、パリ協定離脱、イラン核合意の破棄…すべて合理的根拠のない身勝手極まりないやり方だ。オバマケアを破棄しようと銃を野放しにしようと、そうした政策はアメリカ国内の問題で、アメリカ国民が納得するのであれば勝手にやればいい。だが、国際社会での約束事を自国の都合だけで勝手に破棄するといったことは、第2次世界大戦中の様々な出来事を想起させる。
安倍さんよ、思い出してほしい。あなたが総理大臣として再び権力の座に就いた後、あなたは靖国神社に参拝した。その行為を激賞したのは産経新聞だけで、「国民が待ちに待っていた日が来た」とまで書いた。産経新聞にとっては閣僚の靖国神社参拝に批判的な国民はすべて「非国民」なのだろうが、そういう価値観からすればA級戦犯合祀以降参拝をやめられた皇族方はすべて「非国民」の範疇に入ることになる。いまでは安倍総理の御用新聞と化している読売新聞でさえ、米高官が「失望した」とコメントした途端、安倍さんの靖国参拝を批判する側に回った。
産経や読売がどういうスタンスをとろうが、そんなことはどうでもいいが、はっきり言って米高官のコメントは内政干渉だ。安倍さん、あなたがアメリカの言いなりになるようになったのは、それからだよね。あなたに日本人として少しでも誇りがあれば、トランプ大統領の身勝手極まりない政策や発言(ツイートを含む)に、その都度なぜ「失望した」と言わないのか。あっ、そうか、あなたの辞書には「誇り」という言葉はなかったんだっけ…。
安倍さんがどんなに卑屈になろうと私の知ったことではないが、その結果を国民が押し付けられたのではたまらないから、日米貿易摩擦の歴史的検証をしておく。トランプ大統領の身勝手さが一目瞭然になるからだ。
1985年のプラザ合意以降の2年間に1ドル=240円前後から120円台へと急速な円高を、日本メーカーは日本の消費者を犠牲にしながら輸出量を維持するためのダンピング輸出で乗り切ったことは前回のブログで明らかにした。
その結果、急速な円高にもかかわらず日米貿易摩擦はかえって激化することになった。当時のNHKはかなり良心的な放送局で、看板番組だった『NHK特集』で、のちに自民党から担がれて都知事選にも立候補した(結果は落選)磯村尚徳(ひさのり)氏がキャスターを務めて、86年4月26日から3夜連続で大型番組『世界の中の日本――アメリカからの警告』を放送した。通常の『N特』の放送時間枠を大幅に超え、1夜目が1時間45分、2夜目が1時間30分、3夜目に至ってはニュースを挟む2部構成で2時間15分、3夜合計で5時間25分という超大型番組であった。ゴールデンウィーク直前という時期だったにもかかわらず、この番組は大反響を呼び、のちにスタッフは放映できなかったエピソードを加え雑誌形式の単行本にして(私の記憶では3冊)出版したほどだ。
この番組の企画が持ち上がったのは、85年9月に開かれたG5の直後、つまりプラザ合意を受けて「アメリカが何に怒っているのか」「アメリカの本音を探ろう」というテーマで取材に入ることになったという。
実はこの年(85年)夏、ピューリッツァー賞を受賞したこともある米ジャーナリズム界の大物、セオドア・ホワイト氏がニューヨーク・タイムズ日曜版のカバーストーリーに『日本からの危機』と題する論文を掲載し、日本でも翻訳されて大きな話題になった。この論文でホワイト氏はこう書いた。
「第2次世界大戦後40年を経た今日、日本はアメリカの産業を解体させつつ、再び史上で最も果敢な貿易攻勢を行っている。彼らがただの抜け目のない人種にすぎないのか、それともアメリカより賢くなるべきことをついに学んだのかは、今後10年以内に立証されよう。そのときになって初めて、第2次世界大戦の究極の勝者が誰であったかを、アメリカ人は知るであろう…」
いずれにせよ大反響を呼んだ『世界の中の日本』はシリーズ化され、NHKはアメリカから「日本は異質だ」とまで極め付けられることになるジャパン・バッシングの検証作業を続けていく。
一方、アメリカは「日本の大改造」に着手する。1989年9月から90年6月まで断続的に開催された日米構造協議がその舞台になった。
日米構造協議では、日本もアメリカの問題点を追及した。たとえばアメリカの企業の大半が採用している四半期決算制度。日本も「物言う株主」村上ファンドの登場以降、株主に対する優遇策を重視する会社が多くなってきたし、サラリーマン経営者も高給を取るようになってきたが、当時は「人本主義」という日本経済論(日本の会社は株主のためでもなく消費者のためでもなく、サラリーマン経営者を含めた社員全体のためにあるという説)が話題を呼んだ時期でもあった。つまり、「日本の企業は将来のための長期投資に重点を置いているが、アメリカは短期の利益を追求する経営に傾いた結果、日本との技術開発競争に負けたのだ」とアメリカ側を批判した。
が、アメリカの交渉テクニックはもっぱら日本のメディアを巻き込むことで日本を圧倒することになる。
「日本の行政やビジネス・ルールは消費者本位ではなく、生産者中心だ」
「我々は日本の消費者の要求を代弁しているだけだ」
「最後の勝利者は、日本の消費者だ」
とりわけ米国産牛肉の関税障壁を追求した米商務省の「もし関税が撤廃されたら、日本人は毎週ステーキを食べることが出来る」というレトリックが効いた.「大店法のために、日本の消費者は不当に高いお金を支払わさせられている」「市場を開放して、競争原理がもっと働くようにすべきだ。消費者の利益になる」etc。日米構造協議は完全にアメリカの作戦勝ちに終始した。日本は押しまくられ、大店法の廃止や農畜産物の関税引き下げに応じざるを得なくなった。
いま日本は、この日米構造協議でアメリカ商務省が駆使したレトリックを、そっくり熨斗(のし)を付けて返上すれば、直ちに一件落着になる。
日米構造協議が行われていた時期、日本の農畜産業者は困窮していた。もし、どっとアメリカから安い農畜産物が輸入されるようになると、彼らにとっては死活問題になるからだ。日本の食料自給率はカロリーベースで現在38%。アメリカは130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%で、先進国の中で日本の自給率は最低だ(データは農水省)。日本の場合、平地が少なく、また農家の規模も欧米に比べて小規模なため生産コストがどうしても高くなる。が、トランプ大統領が「安全保障」を口実に輸入関税を高率化するというなら、安全保障は軍事力だけではない。食料自給率の低さも日本にとっては極めて重要な安全保障上の大問題である。日本はなぜ安全保障を口実に農水畜産物の関税を引き上げるぞ、とやり返さないのか。
そのうえ、トランプ大統領の通商政策は、かつて構造協議でアメリカが日本を批判した「消費者本位ではなく、生産者中心だ」という、当時のアメリカの主張が自らに跳ね返っていることを、なぜ日本は主張しないのか。もし、EUがいまの日本と同じ立場に置かれていたら、間違いなくそう言うしっぺ返しに出ている。トランプ氏の顔色をうかがいながらの通商協議など、ただちに打ち切るべきではないか。
さらにトランプ氏の言い分のおかしさはほかにもある。トランプ氏は「アメリカが貿易赤字になっているのは不公平な関税のためだ」と主張しているが、ではオーストラリアなど、貿易黒字国に対してはどうするのか。「黒字はいいが、赤字だけダメ」などという身勝手な言い分が国際社会で通用するとでも思っているのか。「赤字の貿易はしない」というのがトランプ氏の通商政策だというなら、「どうぞ、ご勝手に。いっそのこと鎖国を宣言したら」と突っぱねればいい。アメリカは国土も広いし、資源も豊富だ。食料自給率も先進国で最大だ。鎖国体制をとっても自給自足は十分可能だ。日本はそう主張すればいい。