小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

岸田総理の「異次元の少子化対策」は異次元のバラマキだ

2023-03-30 09:44:22 | Weblog
岸田総理が1月4日の年頭記者会見でぶち上げた「異次元の少子化対策」のたたき台がまとまった。
一言で言えば、バラマキで少子化に歯止めをかけようという「対策」でしかなく、私は効果はほとんど期待できないと考えている。
バラマキの具体策は、子育て世帯や若年夫婦を対象に住宅購入を支援するため長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の金利を引き下げること。所得制限も設けないという。住宅関連業界にとっては盆と正月が同時に来るような話だ。
また児童手当も所得制限なしに大盤振る舞いする予定。
が、バラマキで少子化に歯止めをかけることが、果たしてできるのだろうか。

●OECD諸国はイスラエルを除いて少子化に歯止めがかからないという現実
厚労省が2月に発表した速報値によると、昨年生まれた日本の子供の数は79万9728人で初めて80万人を切った。国立社会保障・人口問題研究所の予測によれば出生数が80万人を切るのは2030年ということだったので、コロナの影響が大きかったとはいえ少子化が急速に進んでいることが明らかになった。
一人の女性が一生の間に産む子供の数の平均値を「合計特殊出生率」というが、国の人口を維持するために必要な合計特殊出生率は2.18と言われている。2.0を超えるのは子供のうちに死亡するケースがあるためだが、実際には医療技術の急速な進歩によって子供の死亡率は減少する一方、高齢者の寿命が延びているため単純に人口維持だけを基準にすると現在は合計特殊出生率は2.18を多少下回っていると考えてもいいだろう。が、子供や高齢者は国の経済活動にはあまり寄与しないから、生産人口(労働人口)の減少はかなり危機的な状況に陥りつつあると考えてもいい。
ややデータが古いがOECD34か国の2020年の合計特殊出生率で2.18を上回っているのはイスラエルだけだ。イスラエルの場合はアラブ諸国(イスラム教国)との緊張関係から、戦前・戦時中の日本のように「産めよ増やせよ」の国策が出生率に反映しているから、他のOECD諸国がイスラエルの国策をモデルにすることは不可能。
他のOECD諸国の主な国の合計特殊出生率は高い順から見ると、フランス1.83、アメリカ1.63、イギリス1.56、ドイツ1.53、カナダ1.40、日本1.34、イタリア1.24、最低の韓国に至っては0.83である。韓国については昨年の出生率が0.78まで低下したことが明らかになっており、いずれ韓国という国が消滅する危険性すら生じている。日本も昨年は1.30を割ったとみられる。
日本に限らず、各国は少子化に歯止めをかけようと必死になっているが、政府の対策は基本的にバラマキに終始しており、効果は少ない。
出生率が2.0を切っている先進国で比較的出生率が高めのフランスとアメリカはともに多民族国家であり、両国とも白人人口は減少しているようだ。「貧乏人の子沢山」は世界共通のルールと言えるかもしれない。

●バラマキでは少子化問題は解決しない、これだけの理由
他のOECD諸国の少子化の原因については不明だが、おそらく共通して言えることは女性の高学歴化と社会進出の拡大が女性の晩婚化、少子化の2大要因だと私は見ている。日本の場合は、それに加えて核家族化が子育て環境を厳しくしていると思われる。
私自身のケースで言えば、小学生の時のクラスで大学に進学した女子は1人だけだった。もう一人優秀な女子がいたが、国立大学の受験に失敗して就職した。大学に進学した女子は大地主の子供で、進学先も学費がかなりかかる私立大学だった。
一方男子は7割くらいが大学に進んだと思う。
私の年代では高卒女性の人気就職先のトップは銀行で、銀行の窓口担当は若い高卒女性のあこがれの仕事だった。いま銀行の支店の窓口を単相している若い女性はほとんどいない。子育てが終わったおばちゃんたちが大半を占めているようだ。現在はどうか。
高校進学率は女子95.7%、男子95.3%と女子のほうがやや高い。
大学進学率になると女子48.2%、男子55.6%と、男子が7.8%上回っているが、女子の8.9%が短大に進学しており、短大も含めると女子の高学歴化が際立っている。
確かに日本はいまだジェンダーギャップが大きく、世界156か国中120位にランクされているが、その理由は日本独特の年功序列・終身雇用という雇用形態に基づくと考えられる。が、そうした雇用形態も徐々に崩れつつあり、社会も女性の労働力活用を求めるようになりつつある。
こうした社会状況の変化が女性の価値観に大きな影響を与えていることは否定できない。「男は金を稼ぎ、女は子育てと家庭を守る」といった従来の男女の役割分担はもはや社会的に通用しなくなっている。女性も子育てや家庭を守ることより、自分の能力を必要としてくれる社会での活躍に生きがいを求めるようになってきた。
かつて日本でも大流行した経営理論があった。アブラハム・マズローが唱えた「人間の欲求5段階論」やダグラス・マグレガーが唱えた「X理論・Y理論」説である。
マズローは人間の欲求を5つの段階に分類して最も高度な欲求は「自己実現の欲求」だと位置づけた。なお4番目の高度な欲求は「他人や組織、社会から認めてもらいたい」欲求とした。
この欲求5段階論をベースにマグレガーが唱えたのは、人間の本質についての分析で、人間は本来怠け者で強制やアメとムチの使い分けをしないと働かないタイプ(Xタイプ)と、能力を磨き、その能力を発揮することに生きがいを求めるタイプ(Yタイプ)がいるという理論。
いずれも経営者にとってはまことに都合がいい理論で、従業員に金銭的報酬や名誉、役職などにとらわれず成果を上げること、能力を発揮することを生きがいにしろという「働きバチ人間育成」に大いに活用したものである。
ある意味では今の女性はそういう価値観に目覚めだしたと言えないこともない。能力を磨き、活かしたい。社会から、組織から認められるような仕事をしたい…。
そのうえ日本では核家族化が急速に進んだ。私たち夫婦の場合には、私の実家から車で30分もかからないところにアパートを借りて新生活を始めたこともあり、妻が二人目の子供を出産したときはかなりの長期間、第1子を父母に育ててもらった。そういうことが今は困難になっている。そのため保育園が急増したのだが、昼間預けることしかできない。所詮、保育園はおじいちゃん、おばあちゃんの代わりにはなりえない。
少子化が急速に進んだのは、そういう社会的背景があるためであって、そういう事情はカネでは解決できない。
私は子育て支援が無意味だとまでは極論しないが、そうした社会的構造の変化を止めることも不可能だ。まして日本はジェンダーギャップが大きすぎると国際社会から批判を浴びており、女性を家庭に縛り付けることなど不可能だ。
また、そうした社会的変化は高齢者の生き方も変えつつある。昔は「老いては子に従え」という格言もあったが、それは「老いたら子供の世話にならなければならないから、子供に逆らうな」という老人の知恵でもあった。が、いまは大半の高齢者が「子供の世話にはなれない、なりたくない」と考えており、地域の高齢者たちの趣味を中心にしたサークル活動が盛んになっている。
少子化問題を考えるには、そうした社会構造の変化の中でどう子育てと女性の社会活動を両立させるかの仕組みを考えないと、カネさえばらまけばいいという対症療法的手法では税金の無駄遣いになるだけだ。