やや古い話が今頃メディアを賑わせている。
6月24日に神戸市で行った安倍総理の講演での発言だ。安倍総理は、政府が愛媛県今治市で加計学園に獣医学部新設を認めた経緯について「日本獣医師会の強い要望を受け、獣医学部の新設を1校に限った。こうした中途半端な妥協が結果として国民的な疑念を招く一因となった」と述べたうえで、「地域に関係なく、全国的に意欲のあるところは2校でも3校でも獣医学部の新設をどんどん認めていく」と語った。
この発言に対して民進党の野田幹事長が強く反発。「政府のこれまでの説明を根底からひっくり返す内容だ」と批判した。
今度は26日になって菅官房長官が「1校限りで学部新設を認めたのは日本獣医師会の要請を受けたためだ」と説明、「(獣医師は十分足りているという理由で)獣医師会などが抵抗する中で、1校に限るという判断は妥当だった」と政府の立場を釈明した。
また27日には山本地方創生相が安倍発言に言及し「1校に限定したのは有識者の意見を踏まえ、内閣府・文科省・農水省の各大臣が合意したもの」と強弁しておきながら、今後については「具体的な要望があれば検討する」と、自己矛盾した声明を出した。
総理の発言をあえて否定するかのような釈明や声明を、なぜ官房長官の立場にある菅氏や国家戦略特区の事実上の推進官庁のトップである山本氏がしたのか。「安倍一強体制」が、その体制内部から「アリの一穴」のように崩れようとしているのだろうか。
そもそも加計学園問題が生じた原因は「国家戦略特区」の制度設計にあった。野党もメディアもその根本を忘れた議論をしているから、本筋からかけ離れたところで国民の疑念が増大したといえる。
国家戦略特区は、首相官邸ホームページによれば「産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図るため、2015年度までの期間を集中取組期間とし、いわゆる岩盤規制全般について突破口を開いていくものです」というものだ。
つまり「産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成」が国家戦略特区選定の基準であることが明記されている。そして2014年にまず第1弾として「東京圏」「関西圏」など6拠点が特区の指定を受け、翌15年には「秋田県仙北市」など3拠点が指定され、さらに16年に「広島県・愛媛県今治市」など3拠点が指定された。
この特区選定の基準からすれば、京都産業大学が計画していた獣医学部新設の予定地であった関西圏(大阪府・兵庫県・京都府)は第1次の指定拠点に入っており、政府がなぜ「広域で、空白の地域に限り1校だけ認める」という基準を加えたのか。岩盤規制に風穴を開けるとしながら、もっと強固な岩盤規制をかけたのは、やはり獣医学部の新設は加計学園だけにしか認めないため、と批判されるのも当然であろう。
さらに獣医師会は「最初から1校限定を要望した事実はない」と、菅官房長官の弁明を真っ向から否定しているようだ。それが本当なら、政府は獣医師会に対して根拠のない忖度をしたことになる。
また獣医学部新設が国家戦略特区の本来の目的である「産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動」に寄与するものなのか、という疑問も残る。
実は第3次の指定に加えられた「広島県・愛媛県今治市」という「地域」(官邸ホームページに記載された拠点を意味する表示)を特区にした理由はなんだったのか。
やはり官邸のホームページによれば「観光・教育・創業などの国際交流・ビッグデータ活用」とある。なぜ「広島県と愛媛県今治市」が一つの「地域」として特区の拠点に認められたのか、疑問に思った私は「ひょっとしたら」と思いネットで調べてみた。
やはりそうだった。かつて本四連絡橋が3本建設された。その中に広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ西瀬戸自動車道が含まれていた。この自動車道は尾道市と今治市の間に点在する風光明媚な芸予諸島を島伝いにつなぐ高速自動車道だが、自転車歩行者専用道路も併設されており、サイクリングロードとしての人気も高いようだ。実際14年10月には国際サイクリング大会も開催され、広島・愛媛の観光拠点としての発展が期待されているらしい。
そうであるなら、この地域が特区として指定された最大の理由は「観光」産業の育成による外国人観光客を呼ぶことではないか。だとしたら、芸予諸島のとりわけ風光明媚な島をIR拠点に指定してホテルやカジノを作れば、ほとんどがらがらの自動車道の利用者も増えるかもしれない。国家戦略特区の制度設計の目的にも合致する。
そう考えると、やはり「なぜ今治に獣医学部なのか」という疑問が新たな視点で湧いてくる。しかも安倍総理は「意欲があるところには二つでも三つでも」と公約した。その安倍総理は国家戦力特区諮問会議の議長でもある。「特区」制度を自ら無視した発言としか言いようがない。
私が久しぶりにブログを再開した6月6日投稿の『加計学園問題の背景にあるものーー誰が誰に対して「忖度」を働かせたのか?』で書いたが、安倍総理自身が加計学園のために何らかの便宜を図るなどということはあり得ない。もし安倍総理が自ら「総理の意向」として加計学園に対する便宜供与を特区関係者に指示していたとしたら、文科省の内部文書について「徹底的な再調査」を命じたりするわけがない。だから再調査を命じた時点では、官邸や内閣府の人間が文科省に圧力などかけるわけがないと、安倍総理自身は本当に思っていたのだろう。
だが、再調査を命じた結果、萩生田官房副長官の発言など、それまで表面化していなかった文書まで明らかになってしまった。安倍総理はかえって窮地に追い込まれる結果になった。いまさら後悔しても始まらないが…。
そう考えると安倍総理の失敗の原因は、総理の座について以降、煙たい人物(たとえば野田聖子氏や石破茂氏など)を政権から遠ざけ、自分に忠実な(つまり総理の意向を「忖度」してくれる)人物を政権の中枢に抜擢してきたことだ。その結果、いわゆる「一強体制」の構築には成功したが、自分自身は「裸の王様」になってしまった。その責任は、やはりとらざるを得ないだろう。自ら蒔いた種なのだから。
6月24日に神戸市で行った安倍総理の講演での発言だ。安倍総理は、政府が愛媛県今治市で加計学園に獣医学部新設を認めた経緯について「日本獣医師会の強い要望を受け、獣医学部の新設を1校に限った。こうした中途半端な妥協が結果として国民的な疑念を招く一因となった」と述べたうえで、「地域に関係なく、全国的に意欲のあるところは2校でも3校でも獣医学部の新設をどんどん認めていく」と語った。
この発言に対して民進党の野田幹事長が強く反発。「政府のこれまでの説明を根底からひっくり返す内容だ」と批判した。
今度は26日になって菅官房長官が「1校限りで学部新設を認めたのは日本獣医師会の要請を受けたためだ」と説明、「(獣医師は十分足りているという理由で)獣医師会などが抵抗する中で、1校に限るという判断は妥当だった」と政府の立場を釈明した。
また27日には山本地方創生相が安倍発言に言及し「1校に限定したのは有識者の意見を踏まえ、内閣府・文科省・農水省の各大臣が合意したもの」と強弁しておきながら、今後については「具体的な要望があれば検討する」と、自己矛盾した声明を出した。
総理の発言をあえて否定するかのような釈明や声明を、なぜ官房長官の立場にある菅氏や国家戦略特区の事実上の推進官庁のトップである山本氏がしたのか。「安倍一強体制」が、その体制内部から「アリの一穴」のように崩れようとしているのだろうか。
そもそも加計学園問題が生じた原因は「国家戦略特区」の制度設計にあった。野党もメディアもその根本を忘れた議論をしているから、本筋からかけ離れたところで国民の疑念が増大したといえる。
国家戦略特区は、首相官邸ホームページによれば「産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図るため、2015年度までの期間を集中取組期間とし、いわゆる岩盤規制全般について突破口を開いていくものです」というものだ。
つまり「産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成」が国家戦略特区選定の基準であることが明記されている。そして2014年にまず第1弾として「東京圏」「関西圏」など6拠点が特区の指定を受け、翌15年には「秋田県仙北市」など3拠点が指定され、さらに16年に「広島県・愛媛県今治市」など3拠点が指定された。
この特区選定の基準からすれば、京都産業大学が計画していた獣医学部新設の予定地であった関西圏(大阪府・兵庫県・京都府)は第1次の指定拠点に入っており、政府がなぜ「広域で、空白の地域に限り1校だけ認める」という基準を加えたのか。岩盤規制に風穴を開けるとしながら、もっと強固な岩盤規制をかけたのは、やはり獣医学部の新設は加計学園だけにしか認めないため、と批判されるのも当然であろう。
さらに獣医師会は「最初から1校限定を要望した事実はない」と、菅官房長官の弁明を真っ向から否定しているようだ。それが本当なら、政府は獣医師会に対して根拠のない忖度をしたことになる。
また獣医学部新設が国家戦略特区の本来の目的である「産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動」に寄与するものなのか、という疑問も残る。
実は第3次の指定に加えられた「広島県・愛媛県今治市」という「地域」(官邸ホームページに記載された拠点を意味する表示)を特区にした理由はなんだったのか。
やはり官邸のホームページによれば「観光・教育・創業などの国際交流・ビッグデータ活用」とある。なぜ「広島県と愛媛県今治市」が一つの「地域」として特区の拠点に認められたのか、疑問に思った私は「ひょっとしたら」と思いネットで調べてみた。
やはりそうだった。かつて本四連絡橋が3本建設された。その中に広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ西瀬戸自動車道が含まれていた。この自動車道は尾道市と今治市の間に点在する風光明媚な芸予諸島を島伝いにつなぐ高速自動車道だが、自転車歩行者専用道路も併設されており、サイクリングロードとしての人気も高いようだ。実際14年10月には国際サイクリング大会も開催され、広島・愛媛の観光拠点としての発展が期待されているらしい。
そうであるなら、この地域が特区として指定された最大の理由は「観光」産業の育成による外国人観光客を呼ぶことではないか。だとしたら、芸予諸島のとりわけ風光明媚な島をIR拠点に指定してホテルやカジノを作れば、ほとんどがらがらの自動車道の利用者も増えるかもしれない。国家戦略特区の制度設計の目的にも合致する。
そう考えると、やはり「なぜ今治に獣医学部なのか」という疑問が新たな視点で湧いてくる。しかも安倍総理は「意欲があるところには二つでも三つでも」と公約した。その安倍総理は国家戦力特区諮問会議の議長でもある。「特区」制度を自ら無視した発言としか言いようがない。
私が久しぶりにブログを再開した6月6日投稿の『加計学園問題の背景にあるものーー誰が誰に対して「忖度」を働かせたのか?』で書いたが、安倍総理自身が加計学園のために何らかの便宜を図るなどということはあり得ない。もし安倍総理が自ら「総理の意向」として加計学園に対する便宜供与を特区関係者に指示していたとしたら、文科省の内部文書について「徹底的な再調査」を命じたりするわけがない。だから再調査を命じた時点では、官邸や内閣府の人間が文科省に圧力などかけるわけがないと、安倍総理自身は本当に思っていたのだろう。
だが、再調査を命じた結果、萩生田官房副長官の発言など、それまで表面化していなかった文書まで明らかになってしまった。安倍総理はかえって窮地に追い込まれる結果になった。いまさら後悔しても始まらないが…。
そう考えると安倍総理の失敗の原因は、総理の座について以降、煙たい人物(たとえば野田聖子氏や石破茂氏など)を政権から遠ざけ、自分に忠実な(つまり総理の意向を「忖度」してくれる)人物を政権の中枢に抜擢してきたことだ。その結果、いわゆる「一強体制」の構築には成功したが、自分自身は「裸の王様」になってしまった。その責任は、やはりとらざるを得ないだろう。自ら蒔いた種なのだから。