流山児★事務所一行はインドネシアをツアー中、うらやましい。拙作『戦場のピクニックコンダクタ』以来、「５年にわたるインドネシア演劇界との交流」と言われてみれば、トモがインドネシアへ留学するきっかけを作ったのも私のようなものなので、嬉しくもある。……流山児組は10月に私の上演台本による『ユーリンタウン』もある。座高円寺のこけら落とし公演、早くも再演。……梅ヶ丘で稽古を終え、かなりあたふたとしつつ、ぎりぎり羽田で最終の飛行機に間に合い、夜、松山へ移動。これから正味３日間フルの「演劇大学」ワークショップ。さて。先に入っていた松本祐子さんは既に仕事を終え、涼しい笑顔。
前原前外相は菅首相の「脱原発依存社会」ビジョンを「思いつき」というが、思いついただけましではないか。「きちんとした工程表」が要るなら協力して作ればいい。補佐すべき立場の枝野官房長官が「遠い将来の希望」とぼかしたのはどうなのか。「原発への依存度を下げていくことは国民的コンセンサス」であるなら、「長い期間、原発の安全性を高めて活用すると言っている」という認識をこそ早急に改めるべきであろう。前原氏は「私もそろりと動いている。新たなスタートがとれるように頑張りたい」と、首相の後釜にまつわる主導権を狙うと公言。まったく暑苦しい、生臭い奴らである。……女子サッカーの躍進は嬉しい。現在この国で唯一の清涼剤の役目を果たしてくれている。
どうやら文科省は、世間の噂通り７月３日・４日の水道放射能値を発表しないつもりらしい。そんな工作をせずとも、雨の降った日は取水しないと決めればいいだけではないのか。……某医療関係者に聞くと、魚類・肉類は既に乳幼児・妊婦には危険な領域に入っている可能性が高いという。誰にも断定できないのは、いちいち個体検査をして確かめているわけではないからだ。生産地域のはっきりしている野菜・穀物は、まだ大丈夫だという。牛豚等の全頭検査が始まったとしたらコストの極端な上昇は間違いない。世間にベジタリアンが増えるということになるのだろうか。マグロや金目鯛は放射能以前にカドミウム等過多で乳幼児・妊婦には禁止食品だし、「食」の未来は暗澹としている。だがしかし、そうしたあれこれに目を瞑ってしまえば、江戸前のアナゴは今が旬で、うまい。
机に向かうのと稽古と。氷を入れられるポットを愛用しはじめる。稽古場まで自転車で行き着いた時に飲むものが冷たいと嬉しい。数時間氷が残っているのも優秀である。でもそのうち面倒になるんだろうな。……部活を引退した息子が「なんだか学校がぜんぜん違う場所だよ」という。どう違うか聞くと「なんか戦争から帰ってきた人みたいな気持ち」。そりゃちょっと言葉の選び方がおかしいだろう。
なかなか集中できないがとにかく机に向かう。午後から『だるまさんがころんだ』今年の公演の稽古開始。素晴らしいゲストの人々。これからが楽しみ。どんどん見通しをつけてゆく。……必要なので下高井戸シネマにてレイトショー『100,000年後の安全』、一時間あまりの映画なので思いきって観る。ちょっと想像していたのと違う。
早朝から机に向かう。午後、神宮球場へ。高校野球東東京大会。前の試合の帝京組がコールド戦で、予定より繰り上がって早く始まる。雲もなく暑い。息子は二度出塁、チーム唯一の得点のホームも踏むが、空振り三振でゲームセット。残念ながら敗退、甲子園は夢と消える。今後は一受験生としての暮らしが待っている。……終えて、歩いて慶應病院へ。お見舞い。……荻窪で打合せ。老舗の喫茶店、確か三十年前にも来たことがある。とにかく臨戦態勢。
毎日毎日、いろんな締切が来る。落ち着かない。遂に冷房を入れる。ピーク時は避けたし、土曜日だから許せ。用事も二つほどキャンセル。……日が傾いてから笹塚のフェニックプロジェクト。自転車でたらたら行く。南相馬の劇作家・大信ペリカンさんらが来ている。彼は今は福島在住。ＮＹから河原その子さんも来て、ニューヨーク・シアター・ワークショップで行った東北震災チャリィー・リーディングの義援金を「非戦を選ぶ演劇人の会」を代表してドルのまま受け取る。世界の目には、反原発で動いている菅首相がなぜ日本で職を追われるのか理解できないという。あえて客観的に言おう。彼が原発推進勢力に包囲されているという指摘を覆す根拠はどこにもない。ただただ、日本人の主体性が疑われているということに気づくべきだ。
石巻、気仙沼等を巡っている篠原久美子さんによると、津波で陸に打ち上げられた魚の腐敗がひどくハエが大量発生、避難所では真っ先に殺虫剤やハエ取りリボンを求められることが多いという。そのくらい公的機関が支給できないのか。……沖縄の知人によると、ここ十五年あまり発表されてきた２＋2に至る一連の日米合意は、米国関係者にKABUKI PLAYと呼ばれているらしい。つまり日米双方とも実現できるわけがない（する気がない）と知りながら、さも実現可能かのように振舞いつづけているという欺瞞の証左である。さしずめ沖縄の人たちは上演不可能な戯曲を押しつけられた俳優たち、ヤマトの連中は弁当ばかりついばんで舞台を見ていない観客か。……Ｍ新聞の連載原稿をなんとか渡し、資料への取り組みを続ける。自分の調査メモが中心だが、何と読みにくい字だろうと我ながら思う。……原発はこれから「再稼働断念」ラッシュになるはずだ。菅首相の捨て身作戦が功を奏しつつあるのか。
海江田経産相、首相退陣前の辞任を示唆。あんたのクビなんか誰もほしくない。ただただ無責任すぎる。……東南アジア諸国から実習生を受け入れ、技能習得と言いつつ労働力として活用させている国際人材育成機構〈アイム・ジャパン〉が、ベトナムから延べ６千人規模の原発技能実習生受け入れ方針。そういうことがいつまで続けられると思っているのだろう。……悶々と仕事進まず。夕刻、戯曲指導の仕事。夜、劇団ミーティング。沖縄から帰ってきたばかりの清水も。……今日は自転車移動。なぜだろう、私が自転車に乗ろうとすると、必ず雨がぱらぱらと。雨女に好かれたか？ ともあれ降りだしはじめの雨は大気中の汚れを最初に吸いとるから汚染度が高い。
あまりにも多くの資料の山。進まない。……国会中継を片耳に聞いていても、不愉快になるだけである。「ストレステスト」、名前がヘンだが、菅首相その気があるのなら反原発の争点を明確にして駒を進めないとほんとうに時間の無駄にしかならない。それにしても九州電力やらせメール、なんでこんな愚かな。……清水弥生が高江に行っているが、今週の今までの間、防衛施設局は何も仕掛けてきていないらしい。束の間の平和なのか。
籠もって仕事するがなかなか進まない。……復興大臣辞任。付け焼き刃人事で新大臣。茶番。……原子力安全委員会によれば、３月下旬に実施した１５歳までの約千人を対象にした調査で、約４５％の子どもが甲状腺被ばくを受けていた。実測値のほとんどは年間被ばく線量に換算できない微量で「精密検査の必要なし」というが。……夜。計画的避難区域に指定された福島県飯舘村に今も住み続ける酪農家長谷川健一さんに、被災地の「今」をうかがう。「原発さえなければ」と記して自死された酪農家の方のまた別な「遺言」の、なんという悲しさ。「私もう結婚できないわね」と言った女子高校生の、痛み。被災者に対する、国の、県の、村の、あまりにも冷たい仕打ち。行政区長でもある彼は「全村見守り隊」として、最後の一人が避難するまで出て行かないという。……長谷川さんたち一行を下北沢「ふるさと」にお連れする。日本酒を所望される。ここに人がいる。私たちはできることをしていこう。
くたくただが朝5時半に自然と目が覚め、そのまま空港へ。帰京、演出者協会事務局で松山で演劇大学に向けた打合せ。……民藝『帰還』千秋楽。終えて大滝秀治さん曰く「もともと千秋楽には疲れきっていないといけないという信念があるが、ほんとうに疲れきった！」。登場人物の一人？ではないがバックグラウンドを参考にさせていただいたH大学大学院の森さやかさんが観てくださる。舞台である五木村・人吉でまた一ヶ月の研究滞在から戻ってきたばかり。
たいへんお世話になった小島・江上両氏に別れを告げ、宜野湾を離れる。午後、初めて知念ウシさんとお話しをする。夜、屋久島帰りの宮城康博氏と一献。島の未来を担う論客たちと、ヒートアッブしっぱなしであった。私自身の中で、徳之島での体験が沖縄への視座に影響を与えていることも、あらためて実感。
米上院が沖縄の米軍基地グァム移転に予算を付けず事実上白紙撤回した模様。アメリカではない、日本政府の対応に問題がある。米軍基地削減の貴重なチャンスを失った責任が誰にあるか、言うまでもないだろう。……朝から瀬長和夫さんに普天間基地と宜野湾周辺の話をうかがい、また基地のまわりを一周。普天間基地で働いていた二十七年間の話も聞く。……昨日載った沖縄タイムスの私への取材記事は、カラー写真つきで大きい。これでは隠密取材（？）ができないではないか。ともあれ夜はその記事でインタビューしてくれた普天間育ちの玉城さんへの逆取材第二弾、そしてもう一人の普天間育ち具志堅さんの話も聞き、酒も飲まずに宜野湾の夜は更ける。
ノグチゲラ等繁殖期のため停止されていた高江ヘリパット工事が「解禁」される日。朝五時に起きＭ新聞連載記事最後の部分を仕上げ出発。高江には全国から工事阻止支援者が集まってきている。この日に合わせてかねてから予定をあけていた人たち。私もその一人だが。十時を過ぎても防衛施設局到来の気配なし。重機も入っていないから、金曜日一日では中途半端、来週になってからということか。二時を回ってだんだん「今日はなしだなー」ということになる。ともあれ山城さんたちともいっぱい話ができてよかった。南部中部は晴れていたらしいが、やんばる（沖縄本島北部）だけは暴風波浪注意報がでていたようでスコールと青空の三度の行ったり来たり繰り返しの妙な天候。……夕刻、Ｙさんが出店しているという屋我地島・済井出ビーチのイベントへ。そうしたら石原岳氏とばったり。ご一家で、中学生の息子さんの焼いた天然酵母パンを出店している。……名護近くで「牛肉そば」食べる。モヤシが山盛り。食べても食べても量が減らない。……夜は宜野湾で取材を幾つか。……偶然にもきょうの沖縄タイムスに先だって品川で行われた私へのインタビュー記事が出ているという。私自身はまだ見ていない。
